18話 ジョージ=カォツマという男Ⅱ
「平和維持ボランティ会も安くなったもんだぜ。こんな雑魚連中を『上』は警戒しているなんてな」
ジョージは気だるそうに続ける。
「俺の能力は『物質変換能力』の”小型隕石”(ミニマムメテオ)、そこら辺に落ちている『小石』や『砂利』を隕石のように飛ばすことができる。しかもかなり強いぞ……」
そしてジョージは溜めて言う。
「戦闘開始だ!!」
ジョージ=カォツマの一声で、ピヨリは即座に脳を戦闘モードに切り替える。
「”小型隕石”(ミニマムメテオ)!!」
先手を打ったのはジョージだった。
どこからか飛んできた小さな隕石は、ピヨリ目がけて飛んでくる。
「ゴハッ!」
硬球ボールぐらいの大きさの隕石が、容赦なく脇腹に突き刺さる。
激痛にもだえ苦しむ余裕もなく、次の隕石がすかさず飛来する。
二弾目の隕石はピヨリの目線ギリギリの場所を、焦げ臭さを残しながら通り抜ける。
「クソォ!」
隕石は机や床に衝突して砕け散った。
よろめきながらも、次はなんとか躱して体勢を立て直そうとする。
「堂島会長からの命令で俺が直々(じきじき)に来てやってんのに、ふざけんじゃねーぞ てめぇみたいなカス、なんで俺が相手しなきゃいけねーんだ」
ジョージは悪態をつきながらも、能力の手は休めず、相次いで隕石が飛んでくる。
今度はそれら全てをするりと避け、ジョージの隙を見て社会の窓を開放。
秘部をデロンと出す。
「”音速秘部”(ソニックマラー)!!」
ピヨリはいきなり大技『神越の能力』の”音速秘部”(ソニックマラー)を繰り出す。
鼻先数㎝の距離を、秘部は隼のように駆け抜けた。
少しして、一陣の風が吹き荒れる。
ジョージは全身の毛穴からブワッ、と冷たい汗が浮き出てきた。
一歩、後方に後ずさる。
「――危ねぇ。こいつ……舐めていたが、中々デキるじゃねぇか。……これなら少しは楽しめそうだ」
額から冷汗を垂らしながら、ジョージはニヤリと笑う。
「避けられた……!? クソ、一撃で決めるはずだったのに……!」
まだ命中が定まらないというところか。それに先ほどのジョージからの一撃が足を引っ張っているのかもしれない。
ピヨリは頭を冷やして考える。
いきなり大技を使ってしまった。”音速秘部”(ソニックマラー)の現時点での俺の発動条件は四分に一発といったところだ。後四分は『ソニック』は使えない。
考えている最中にも、容赦ない数の隕石が飛んでくる。
だが、狙いが短絡的だから大方予測して、隕石を回避できるようになってきた。
無論、回避だけで体力はごっそりと持っていかれるが。
「ちょこまか逃げやがって。仕方ないから本気を出してやるか。もう逃げらんねぇぞ」
ジョージはピヨリに手を翳す。
「”小型隕石”(ミニマムメテオ)!」
再びピヨリに射線を向けて、隕石が襲ってくる。
ピヨリは真横に大きく跳躍して回避する。
隕石はそのまま壁に衝突して砕けるはずだ。
「”追跡”(チェイス)」
ジョージがそう呟いた瞬間、ピヨリは驚きで心臓が高鳴った。
隕石はクイッっと方向転換した。進行方向はピヨリの目前、隕石はまるでジョージに強力な意思を与えられたかのように鋭くピヨリの懐に飛び込んでくる。
そのまま避けることができずに、ピヨリの鳩尾を深く抉るように食い込んだ。
「オガァッ!」
肺の中に溜めていた空気がすべて放出される。
ピヨリは息ができずに床を転げまわる。
「ハハハ! 俺の『神越の能力』”小型追跡隕石”(ミニマムチェイスメテオ)のお味はいかがかな? クク、俺のはテメーの『神越』と違って連発で発動できるから、燃費はいいぜ」
肩で大きく息をしながら言う。
「ハァハァ、お前知ってるか? よく喋る敵ってのはな、すぐ主人公にぶちのめされる運命なんだよ。つまりお前は俺にすぐぶちのめされる。 分かるか、この意味を……カォツマァ!!」
ピヨリは片手で脇腹を押さえ、床から立ち上がる。
ジョージの顔は怒りでみるみる紅潮していく。
「じゃあ、どっちが主人公か今決めてやるよ。”小型追跡隕石”(ミニマムチェイスメテオ)!!」
ジョージがまた対象を『神越』の追跡する隕石を飛ばす。
「うおおおおおおっ!」
ピヨリは全力で走り出す。
教室を飛び出して、階段を駆け下り、無人の美術室の窓をぶち壊して、侵入する。
隕石は追ってこなかった。
ピヨリは安堵の溜息をついた。そしてドアを背もたれにして座り込む。
ここで奴の能力を整理する。能力のデメリットとして”小型追跡隕石”(ミニマムチェイスメテオ)は”小型隕石”(ミニマムメテオ)比べて速度が落ちていた。だがしかし『神越』の方が隕石の強度は高まっている。
これから先、奴が”小型追跡隕石”(ミニマムチェイスメテオ)を使ってきて、たとえピヨリが躱して、壁にぶち当たったとしても『神越』によって強化された隕石は壊れないだろう。
「どうする……」
無意識に声が出てきた。
さっきから、どんどん焦燥感が高まっていくばかりだ。
「ふぅ―――――――」
乱れた気息を整えるために、細く長い息をゆっくりと吐いていく。
脇腹に残る鈍い鈍痛に顔を歪ませながらも、冷静に状況を把握する。
四分は経過した。『ソニック』はいつでも使える。
今度は絶対に外してはならない。今回のチャンスを逃したら完全に蜂の巣だろう。
だが、しかし、それで外してしまったら――
――今度は『あれ』を試すしかないか。
瞬間、座り込んでいたドアが激しい音とともに破壊された。
「マジかよ。来やがった」
隕石はそのまま速度を緩めることなくピヨリの全身を叩く。
「グルゥアアアッ!!」
衝撃で体を投げ飛ばされそうになったが、その力を利用して思い切りバックダッシュする。
隕石は目的を終えたためか、その場で静止した。
よろめきながら体力を振り絞って後ろに走る。足を躓きそうになるが、ギリギリ体勢を持ち直す。
次の隕石がすぐ来るだろう。
「ッ!?」
そう思っている間に、今までとは比べ物にならない量の隕石が、ピヨリを襲う。
機関銃のように次々と発射された隕石は赤みを帯びていて、ドアや床を黒く焦がしながら、どこまでも追いかけてくる。
「”伸縮する秘部”(ロングマラー)!!」
やられる前にやれ。ピヨリは秘部をぶっ放す。隕石の間を縫うように秘部は飛び出していく。
だが、隕石は秘部に向けて方向転換し、無数の隕石で秘部を焦がされ、焼きごてのように熱せられる。
「グアアアアアッ!」
そして今度はジリ、と服も少し焼かれた。
「熱ッチチチ!!」
熱さと激痛に耐えながら、たまらず部屋を飛び出す。
「よォ、願先」
「ナッ!?」
飛び出した目の前にはジョージが、立っていた。
「死にな。”小型隕石”(ミニマムメテオ)!!」
瞬間、ピヨリは脳をフル回転させる。
回避……不能
直撃。
全身を隕石の雨が襲い掛かる。
咄嗟の判断でピヨリは腕をCROSS(交差)させる。
隕石を至近距離で全身に受ける。
すごい数の隕石が乱射されて教室を破壊していく。室内は荒れ狂い、砂埃を巻き起こし、隕石で激しく打ち付けられ体は、ぐったりと床に横たわった。
「フハハハハハ!! 弱い……弱すぎるぞ……お前……!」
ジョージは豪快に笑って、頬を上気させ愉悦に浸っている。
今。砂煙が舞って、ピヨリを良く視認できない、今。
ピヨリはジョージの声のする方へ、思い切り、”音速秘部”(ソニックマラー)をブチ込む。
「”音速秘部”(ソニックマラー)!!!」
埃と共に舞っていた砂煙を薙ぎ払うように、”音速秘部”(ソニックマラー)は人間の目では捉えきれない速度でジョージの脇腹を屠った。
グシュ、と果実を切り裂くような音を立てて、秘部は音速で皮膚を突き破る。
「ウッ、がアアアァァァァ!!! テメェ、殺す!!!」
ジョージをその激情に耐えきれず叫びながら、隕石を放ってくる。
ピヨリはすぐさま立ち上がり、その場を全力で離れる。
先ほどの隕石の雨、咄嗟に腕をCROSS(交差)させたおかげで致命傷は避けた。
ジョージは脇腹から絶えずドクドクと流れ出る血を押さえながら、座り込む。
「畜生、痛ェ……痛ェじゃねぇかよ。クソッ、クソッ!……止血なんてしてられるかよォオオオオオ!!!」
脇腹は吹っ飛んだ。ものすごい量の血が噴き出している。だが、止血なんてしていられない。
「さっさと、見つけ出して殺す!!」
ジョージは脇腹を押さえずに、根性で立ち上がり、ピヨリが走って行った方向に血をまき散らしながら走り出す。
ピヨリは体力は、もう限界に近かった。
「次だ…次で決めなくては…………」
修業中に偶然発見した、あの技を。
ドン、と強引に扉が開け放たれる。
「ヒャハハ。見つけたぞ願先」
「ジョージ……」
「ハハハハハハ!」
下半身はほぼ血で赤く染まっていた。目は焦点があっているのか分からない。体はガタガタと震え、今にも膝から崩れ落ちそうだ。
「これで決めてやる。……”縮小”(シュリンク)…………」
ピヨリの秘部が、限界ギリギリまで縮こまっていく。
ピヨリは地面に足が縫い付けられたように動けなくなる。
「遅ェんだよ!! ”小型隕石”(ミニマムメテオ)!!」
「もう十分だ。”解放”(リリース)……」
数個の隕石がピヨリの命を狙って襲い来る。
「”衝撃秘部”(インパクトマラー)!!!!」
轟!!、と獣が咆哮するような爆音を発しながら、襲ってきた隕石すべてを破壊し、ジョージの全身に音速秘部の数十倍の衝撃が鳩尾を捉える。
力あふれる豪快な技だ。
ジョージの体は投げ飛ばされ、後ろの窓ガラスを割り、5メートルほど飛んでいく。
「まだだ!」
弾け飛んだジョージを走って追いかける。
すると、ジョージは立っていた。
吹き飛ばされたはずなのに、血だらけのまま。眼光はしっかりとピヨリを見据えている。
「まだ……終わらせねぇ……」
「いや、もうお前は終わりだよ」
ピヨリがそういった後に、ジョージは全身から力が抜けて、床に膝をつけた。
「ハァ…………ハァ……まだ…………だ……グフッ」
吐血して大量の血塊が足元を赤黒く濡らす。だがジョージ再び立ち上がろうとする。
「俺は……負けてねぇッ……ぞッ!」
そう言い、ピヨリの懐に飛び込もうとした瞬間、足元の血の池に、足を滑らせる。
全身を床に叩きつける。容赦ない衝撃が体に跳ね返ってくる。鼻を打ち、鼻血が止めどなく流れ出す。
それでも、また立ち上がろうとする。
そんなジョージにピヨリは近づいて、スッと手を差し伸べた。
「……同情……なら……やめろ!!」
顔面を血で濡らしながら、きつくピヨリを睨んで言う。
「そんなつもりじゃねぇよ。ほら、たまに言うじゃねぇか、昨日の敵は今日の友ってさ」
ピヨリはニヤっと笑う。その笑みに邪な気持ちの欠片も無かった。あるのは敵への純粋な賞賛だった。
その温かいぬくもりに、ジョージは目に涙を浮かべる。
「完全に俺の完敗だ。あんたは俺のヒーローだよ……。…………こんな俺でもあんたのようになれるかな?」
ジョージは声を震わして言う。
「さあな。……そりゃお前次第だ」
ジョージの瞳から一筋の涙が頬を伝った。
ピヨリとジョージは、固い、固い握手をして、抱き合った。
そこで、その空気を切り裂くように、誰かが足早で歩く音が聞こえた。
その足は目前でピタリ、と止まった。
そいつは、ピヨリはゴミを見るような目つきで一瞥し、ジョージを見た。
「あなたたちの観察力の無さには少々驚きますね。呆れましたカォツマさん」
ジョージは目を見開いて言う。
「……マルガリータ……7世……」




