17話 ジョージ=カォツマという男
川口を殺してから、7日ほど経った。
自分でも驚いているが、ピヨリの心には波紋ひとつ立っておらず、ただ平静で淡々とした心地よさが空虚な心を満たしていた。
人を殺すのも、案外難しいものでもなかったんだな。
罪悪感が微塵も沸いて来ない。
そういや今日体育でサッカーをやるんだったかなー、とか考えてみると、つつましい喜びが沸いてくるほどだ。
今は素直に胸が小躍りしていた。
自身の得意分野を活かせる学校の授業と言えば、サッカーぐらいなもんだし。
「…………と、今日は早く学校に来すぎたな……」
教室につき、クラスに顔を覗かせるが、まだ誰一人として登校しているものはいなかった。
「まあ予想通り……まだ7時前。ついさっき校門が開いたばかりだからな」
そこでピヨリは、クラスに一番に登校した奴だけに許される、めんどくさい特権、通称『鍵開け』を行使し、教室に入る。
薄暗い教室のカーテンのすき間からは、ポカポカとした柔らかい陽光が差し込んでいた。
自身の机にカバンを置いて、両端のカーテンを全開にする。
すると、今まで溜めに溜めこんでいた光の塊が教室中に充満した。
「眩しいぞ」
なんとなく子供のようにはしゃぐ気分で、クラスの電気をつけ、自分の椅子に座り、カバンの中にある教科書を机の中に詰め込んだ。
全ての作業を終えると、あまりに教室がしーんとしすぎて、時計の秒針が時を刻む音さえ聞こえてくる。
まだ人の息の混じっていない、清澄な朝の空気を吸い込む。
窓を開けると、小鳥達がハーモニーを奏でていて耳に心地いい。
そこで気づいた。
「うわぁ……何もすることねぇ…………うぅむ……早朝の時間にやれる事と言えばなんだ」
とりあえず一旦落ち着いて、思考を巡らしてみる。
椅子に背を預け、首を曲げて、天井にあるボコボコとした小さな穴を、何も考えずボッーと見つめていたら、
何かいた。
教室の扉に何かいた。
己の中の時間が静止したような気がした。
誰? この人。
そこで棒のように立って、俺を凝視していたのは金髪の男だった。身長が180㎝強はあるんじゃないか。
両の瞳はアイスブルー。鼻梁がスッと通っていて、あごひげを少々蓄えている金髪の男。
胸元は大胆に開けていて、首からは十字架のネックレスを垂らし、耳には小洒落たドクロのイヤリングを。
指の付け根にはじゃじゃらとしたリングを複数。まるでメリケンサックを装備しているみたいだ。
殴られると痛そう。
一目で外人だと分かる風貌をした男だった。
うちのクラスにこんな外人いたかな?
「えっと、誰だよあんちゃん。外国人留学生か? それとも教育実習生? あー、日本語ツウジテマスカ?」
「うるせぇカスが。テメェーが反逆者の組員だって証拠はもう、挙がってんだよ」
めちゃくちゃ流暢な日本語で話し出したので、ビビった。
巨漢の外人は、滑らかな日本語でそう言うと、今度は良い発音で英語を発声した。
「”小型隕石”(ミニマムメテオ)」
巨漢の金髪外国人のチャライ男は、右手を翳し、そう言うと、教室のガラスに砂利が当たるような音がした。
「?」
やがてその音は次第に強さを増していき、そのまま勢いよくガラス窓を貫通した。
「はあ?」
砂利の雨がピヨリの周囲を飲み込むように襲い来る。
咄嗟の判断で横に回避して難は逃れた。
「申し訳ないが突然の『超能力』の使用は、すごく困る」
「超能力? とぼけるなよ『神の能力』だって知ってんだろ、”伸縮する秘部”(ロングマラー)」
やはり『神の能力』使いであられたか。
「さっさと立て、戦闘開始だ」
「OK、分かった。まずズボンを履かせてくれ。話はそれからだ」
そうしてチャックを開く。
もう、慣れた。
男のシンボル、秘部を出すことにはもう慣れた。
とりあえずまあ、説明すると、ピヨリ。つまりこの俺の秘部は『神の能力』という超能力みたいなもんで、どうやら自由自在に伸び縮み可能なのだ。ハハ。
その伸縮した秘部で相手のケツや口の中に突っ込むと、相手を『絶対服従の虜』にするという便利なオプション付きでな。ハハ。
後、『神の能力』を越える『神越の能力』という、二段階目のパワーアップスキルがある。
そして俺の『神越の能力』は世にも恐ろしい、音速のスピードで秘部が伸び縮みするという、画期的な能力なのであった。『神越』の場合、虜にはできない以上。
~俺の能力のまとめ終了~
ちなみに殺人前科1。
なお、これからも積み重ねる模様。
「………………………」
「えーそうだな。とりあえず自己紹介しようか、俺は願先ピヨリってんだ、ヨロシク」
「知ってんだよそんなこと。俺の名前はジョージ=カォツマだ。二度は言わねぇぞ」
俺はチラリ、と横目で時計を一瞥した。
時計の針は7時10分を回っていた。




