15話 平和維持ボランティア会
松本校長はソファに深々と腰かけ、ニュースを見て、ティータイムを楽しんでいた。
そこで、松本校長の携帯電話が鳴った。時計の針は午前六時二十分を指している。
「ったく、誰だ、こんな朝早くから。私の一日の楽しみである朝のティータイムをぶち壊しおって……ん? 榎田からか」
「もしもし」
『こんな朝早くから申し訳ありません、松本校長!』
部下の榎田からの電話は切迫したものであった。
「なんなんだ一体」
『今、僕が学校に着いたら、学校がすごいことに……警察が来ているんです! どうもそれが胸に穴が開いて死んでいる川口さんのことらしいです……』
「なに!? 川口が死んだだと!?」
松本校長はコーヒーを周辺にこぼした。
コーヒーは自身の服や、ソファに付着した。
こぼしたコーヒーをそのままにして少し考え込む。
心の中であの雑魚が……と悪態をついた。
反逆者の連中はかなり力をつけているな……
「そろそろ本気で殺らなければこちらが危ない。急いで本部から援軍を頼まねば」
「分かった。川口、今日は臨時休業だと、教師と生徒に連絡をしておけ、それでは」
そう言って電話を半ば強引に切った。
松本校長は机に封印するようにしまっていた、非常時用のケータイを取り出して、関係者だけが知りうる特定のダイヤルに電話をかけた。
数秒して、繋がる。
「もしもし、こちら松本夏ノ字」
『もしもし、堂島会長の秘書の堤下です。どうしましたか?』
その電話には女性が応じた。その電話の主を校長を知っている。堤下友近いろいろと食えない女だ。
「反逆者の連中がこちら側の味方では、手に負えんのだ。とりあえず堂島会長を頼む」
『反逆者? 聞かない名ですね。総勢何人くらいのチームですか?』
「先に、堂島会長を、と言ったんだ私は。秘書の君に用はない」
秘書は一呼吸置いて、
『いらっしゃいますが、あなた程度の人の電話に応じてもらえるかどうか……」
「あなた程度って、私は君と同じ6人いる幹部の一人なんだが?」
松本校長は同じ幹部の一角を担うものなのに、下に見られて少しイラッとした。
長い沈黙の後、観念したように、
『分かりました』
と、短い言葉を残した。
一分ほど、眠たくなるようなメロディが鳴って、堂島会長が電話に出た。
「どうした夏ノ字。ワシに電話なんて珍しいやないかい」
「ハイ。緊急を要するので」
校長は久しぶりに目上の者と会話をするので、いつになく緊張している。
『反逆者な。それで何人くらいおんねん?」
「ざっと二、三十人ほど。それで、私の要件はこちらに、ある程度実力のある援軍を数名送ってほしいのです」
『よっしゃ、今空いている人材を派遣したるわ』
「できるだけ、お早く」
『了解了解。それと夏ノ字、お前さんもわかっとると思うが、まさか小童どもにやられるなんてことがあるなら、その時はスパっと切り捨てるから、それは承知しとけや』
「ハイ。それでは」
校長と堂島会長は短く挨拶をして電話を切った。
「ふぅ……おっと、コーヒーをこぼしていたな」
豪華なソファの一点に茶色い染みが広がっていた。
校長は部屋の端にあるロッカーから掃除用の雑巾を取り出し、コーヒーの染みを拭き取る。
茶色い染みを雑巾で拭き取れなかったことを残念に思いながら、そのままゴミ箱に捨てた。
染みは白いシャツにも付着していたようで、急いで着替える。
校長は鏡の前に立ち、上着と下着を全て脱いで、全裸になり自身の姿を見る。
「やはり歳だな、年々衰えてきている」
校長の肉体は全盛期より衰えていた。
それでも長年の筋トレで培った、分厚い胸板に、六つに割れた腹筋。極限まで鍛え抜かれた太い足に、大木のような腕は松本校長の強さを表している。
「私があそこに入会してから二十五年も経った。この刺青とも二十五年の付き合いになるのか」
おかげで二十五年温泉に入れないという残念な気持ちもあるが、もう割り切った。
校長の左胸から右肩に掛けて彫られている刺青をさすった。
そうして部屋から出た。
机の上に『平和維持ボランティ会』という名刺を残して。
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「ハァハァ…………」
これで何本目かもう数えることはやめた。
1000は楽に越えているかもしれない。
辺りの岩はすべて陥没していた。
「これで……終わりか」
そこで、テルモがやってきた。
「ピヨリ……まさかこのすべての岩をたった一人で破壊したのか……?」
「まあ、そうだな」
「フッ、やるじゃねぇか、そこで、だ」
「”反逆者”(リベロ)の情報部が、秘密裡に相手側の通信をキャッチした。新たな刺客がこの部利一高校に迫ってくるそうだ。ピヨリ、こいつはお前が撃退するんだ」
「え? 俺が?」
「ああ、そうだ、これが俺からお前に与える、最後の修行だ。出来るか?」
「……当たり前だ、撃退してみせるぜ!」




