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14話 『神越の能力』Ⅱ

ノリシゲが体育館に響く大声で、自身の彼女である笑美子の名前を呼んだ。

その声に従ってボロボロの笑美子は、すぐさまノリシゲに向かって駆け出した。


「アホが」

川口がつまらなそうに吐いて捨てて、『神の能力』を越える『神越の能力』の、”未確認人型嘔吐生物・下呂丸集合体”に命令を下した。


「”下呂丸”一体発射準備」


『ゲロリ』

と”下呂丸集合体”は川口に答えるように重低音で鳴いた。

腹の中で、鳴りを潜めていてた一体の”下呂丸”が体の中を滝登りし、やがて口腔にたどり着き、膨張して、口の中がパンパンに膨れる。



「死にさらせや」

そう言い、スっ、と手を笑美子のいる方向に翳す。



その時、笑美子のその先にいるノリシゲが、ピヨリに向かってデスウインクをした――――ように見えた。


ノリシゲの目は『笑美子を体を張って守れ、守らないとお前を殺す』

と言っているように感じた。


なん……だと……?


無茶すぎる要求に困惑したが、とりあえず全力で走った。


鼻血は止まっている。失禁してズボンは濡れているが気にしちゃいけない。




「行け、”下呂丸大砲”(げろまるキャノン)!」



男尊女卑のフェミニスト、つまり願先ピヨリ。

男が女を守らないといけない。そう本能が告げている。


彼はノリシゲに催促されて助けるのではない、己の本心で笑美子を助ける。

体を張って笑美子を守るのだ。


ここに来て、良いとこ無しだったからな。


――――男を見せるぜ



『ボゲェ!!』

”下呂丸集合体”の口が開かれた途端、おそろしい速度で大砲が撃ち放たれる。




「うおぉおおおおおおおおおお!!!」

後悔なんてない。

むしろ心は晴れ晴れとしている。

グッ、と親指を突き立てた。

後は任せたぜ…………ノリさん。


願先ピヨリは男を見せた。




砲撃が光線のように尾を引いて、そのままピヨリの横腹に直撃する。



「ンホォッ!!」



骨を通じて体中を電撃のように暴れ狂う激痛。

肋骨が軋み、肺が圧迫され、たまらず吐血する。


「ドハハハハハ!!……なんやオンドレ、その姉ちゃんを庇ったんかい? ……ドアホが!……ンハハハハハ!!」

川口が豪快な笑いで腹を抱えている隙に、笑美子とノリシゲは姿を消していた。



「どれ、今度はもっといいもん、食らわせたるで! ンハハハハハ!!」

笑いながら川口は再び、”下呂丸集合体”に命令を下す。


「”下呂丸”乱射準備」


『ゲロォ』

と、”下呂丸集合体”はまた低く唸るように鳴いて、口の中にどんどん”下呂丸”が送り込まれていく。


先ほどは比べ物ならないくらい、”下呂丸集合体”の口は、はちきれんばかりに膨れ上がっていた。


パンパンになった口はまるで、ゲコゲコと鳴くカエルのようだ。



「”下呂丸機関銃”(げろまるガトリング)!!」


やがて痺れを切らしたように、”下呂丸集合体”はそのすべてを吐き出した。


『オボォゲェロォォォ』

その瞬間、ガガガガガ!! 、と名の通り機関銃のように、激しく打ち鳴らされ、”下呂丸大砲”(げろまるキャノン)が乱射された。


まき散らすように乱射された”下呂丸大砲”(げろまるキャノン)を、ピヨリは成す術もなく、その全てを身に受ける。



声も出ない。


死に至らしめる暴虐の雨が全身を叩くが、それでも顔は守り、だたうずくまる様にして耐え忍ぶ。


”下呂丸機関銃”(げろまるガトリング)をモロに全身に受けたピヨリは、もう立ち上がることさえままならない。


「”下呂丸”収納~」

その声と共に、役目を終えた”下呂丸”達は、コロコロと転がって主人の元に戻る。



「残念だが”下呂丸大砲”(げろまるキャノン)に球切れなんて無いで? 何回も使用可能な、地球にやさしいエコや!」


そして川口は再び、ドハハハハハ!!と笑った。


「ドハハハ……ハ!……ああ、もう死んだか雑魚め」

ピヨリはもう、ピクリとも動かなくなった。


「おっと……ところであの、お二人さんはどこにいったかな……?」

ピヨリが瀕死になってひとしきりすっきりしたのか、川口もう関西弁ではなくなっていた。


と、そこで、

「そこまでだぜ川口……もう全てこれで終わりさ」

やっとその姿を現したノリシゲが言う。



「なぜ……そんなところに!?」

川口は、ノリシゲが”下呂丸集合体”と変わらない高さ、いや、”下呂丸集合体”のその頭の上へ乗っているいることに、驚きを隠せなかった。

その横には笑美子もいる。


「簡単なことだ、ピヨリ君がテメーをひきつけている間に、俺たちは体育館の非常階段を使い、上へ上がった。そこから気づかれずに”下呂丸集合体”の頭の上に飛び乗ったってわけだ」



「……なるほどな。だが貴様らの囮をやらされた願先は、既に死んでいるよう見えるがにが……何か言うことはないか? クク」



「ピヨリ君か……フッ、そんな簡単に人が死ぬか、こいつは生きているさ。だが……たとえ死んでいても、こっちでなんとかするから安心しろ」



「薄情な奴だな貴様は………………まあ、いい。……で? そこで何をするつもりなんだ?」



「ハハ、いやいや、もう終わりさ。だがさすがに頑丈だな、”下呂丸集合体”。”腐敗する唾液コラプトスパタム”でも中々溶かし切れない。だがもう終わりなんだよ、こいつの頭をもうすでに腐敗している…………笑美子!!」

最後に笑美子の名を呼んだ。



「なにッ!!??」

川口の今日一番の驚愕の顔。



笑美子はその場から、両足の関節をまげて、大きく跳躍する。体育館の天井スレスレまで跳躍し、空中で二回転ぐらいしながら、腹から大声を出し、すさまじいかかと落としをお見舞いする。


「うらぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

笑美子史上最大の、快心の一撃が決まる。

恐るべき、究極のかかと落とし。それが直撃したとき、まるで地震が起きたのかと錯覚した。

笑美子はあらかじめ、ノリシゲの能力よって腐敗されていた場所を、ピンポイントで叩いたのだ。


笑美子の蹴りの衝撃によって、”下呂丸集合体”は頭から、メリメリメリィ、と真っ二つに割けていく。


「なにィイイイイイイイイ!!!! 貴様らァアアアアアアアア!!!! ”下呂丸集合体”の弱点が頭頂部だと、なぜ気づいたァアアアアアアア!!!!」


「だから、最初に言わなかったよ。俺は昔、下呂丸に襲われたトラウマがあるってよ。そのトラウマを乗り越えるために俺は下呂丸のありとあらゆることを調べた。それで今では俺は下呂丸博士だ。知らないことなんてないのさ、残念だったな川口多駒」


”下呂丸集合体”を綺麗に二つに割いた笑美子が、空中で回転して、スタッと着地した。


「クソがッ、今回は日を改めさせてもらおうか! 去らば!」

川口がそう言い、足早に撤収しようとしていた。


「なっ!? 貴様、川口!」

ノリシゲはまさか川口に逃げられるとは思っていなかった。


「今のうちよ! ピヨリ君! 川口を虜にするの!! ……ピヨリ君!!」

笑美子が力一杯に、ピヨリの名を呼んでいる。


「フハハ馬鹿め! 願先は”下呂丸機関銃”によって骨がぐちゃぐちゃで立つことすら無理なんだよ!」

川口がピヨリを指さして、こんな状態なんだよ! 、と 

その場にぐったりと横たわっている、ピヨリをノリシゲ達にみせる。


「クソ、駄目か! 笑美子! 回り込んで川口を逃がすな!!」

もう、間に合わないかもしれない、とノリシゲは内心思った。


笑美子も、相当疲弊していることには間違いないのだ。

川口は、接近系タイプの人間ではなく、”下呂丸”達を操って戦う遠距離系タイプ。

それ故に川口は、無傷の上、体力が有り余っている。

ノリシゲ達は”下呂丸集合体”を倒すのにだけでもこれだけの時間と体力を消耗させられたのだ

不利なのは目に見えていた。



(奴に逃げられる……クソ、どうする……?)




「ハハハ!……それでは去らば…………だ…………う、…………嘘だろ…………?」

川口は逃げようとしていた足を止めざるを得なかった。


「なんだ……どうした……?」

なぜ川口が足を止めたんだ…?


川口は、逃げ道の先、その先に信じられないものを見た。


そこに立っていたのだ。


願先ピヨリが。


川口を逃がさないように、立ちふさがっていたのだ。




「な……ぜ……?…………なぜ貴様が立っている……? いつの間に動いた……?????」

川口の頭は?マークで埋め尽くされた。


「なぜダァアアアアア!!?? なぜ立てる!? おかしいだろ!! ふざけるな!!!」



「こ、これは……ピヨリ君はいったい、どうなっているんだ……?」

ノリシゲと笑美子は目を丸くしていた。

これはイレギュラーだ。

ノリシゲにはこの事態が分からない。多分、笑美子も。



(まさか……エディション? いや、違う、これは『神越の能力』の前兆……?)


ピヨリはしっかりと立っていない。

まるで何かに操られているように、顔は俯き、腕をぶらぶらさせ、足はぐにゃぐにゃとしていている。

今にも背中を軽く押すだけで、膝から崩れ落ちそうだ。



(たしか……テルモから聞いたことある……『神越の能力』の発動の前兆は、たとえ体がボロボロになっても『神越の能力』が無理やり体を動かして、能力を新たなステージへと昇華させるための、試し撃ちをする……だから、初めて『神越の能力』を発動する者の近くには絶対に近寄ってはならない……と)



ピヨリは一歩、前に踏み出す。それに連動して、川口は一歩 後方に退く。



「お、オイ……やめてくれよぉ……願先ィ……なあ……願先ィ」

川口もそれに気づいたのだろう……ピヨリが今、どんな状態であるのか

だが、しかし、今の川口は無力だ。生徒一人、自分の力では倒すことができない。



ピヨリはまた、一歩、無言で川口に近づく。



「なあ、願先ィ……お願いだよぉ……やめてくれよぉ……今回だけは見逃してくれよぉ……」



川口が必死に命乞いするが、ピヨリはまったく耳を貸さない。

いや、そもそも聞こえていないようにも見える。


また一歩、進む。



「あ、お、オイ! ちょっと待てよ願先! 先生に刃向う気か! ふざけるな! 生徒指導の先生に言いつけるぞ! いいのか!? あ、あ、うわああああああ」


一歩、一歩、着実に。


川口は今日二度目の発狂を始めた。

「クッソ……ふざけるなよォオオオオオオオオ!!! ボケが!!!!! なんでオンドレが立っとるんじゃい!!!!! おかしいやないか!!!! まじふざけんなやァアアアアア!!!! 頼む、頼むヨォオオオオオオ!!! 願先ィイイイイイイイイイ!!! 見逃せやァアアアアアア!!!見逃してくれよォオオオオオオオオ!!!! ホンマニイイイイイイイイイ!!!! 頼むってェエエエエエエエエ!!!! マジ頼むからァアアアアア!!! 俺には、愛する妻と娘がいるんだァアアアアアアアア!!!!! だから命ィ、命だけは、………………………堪忍してつかぁさァアアアアアアアアい!!!!」

ついに川口は泣き崩れて、子供のように駄駄をこね始めた。


ピヨリは秘部を左手で固定する。





「い、イヤだぁああああああああああああああああああ!!!!」

出口から逃げるのを諦めたのか、ついに川口はピヨリに背を向けて、後ろに走り出そうとする。


しかし、その瞬間、ピヨリの秘部が川口に左胸を貫いていた。



「ゴフッ、い、いつの間に……」


川口は口から血を吐きながら倒れた。そしてもう二度と立ち上がらなかった。


それは、一瞬よりも速い刹那、秘部は音も無く静かに心臓を貫き、川口の命を奪った。





「あれが……アイツの『神越の能力』……”音速秘部”(ソニックマラー)っか……」

ノリシゲは、さっきまでピンピンしていた川口を一瞥し、言った。

さっきまで、生きていた。でも今はもう死体だ。

こんなあっけなく。


「哀れだな、川口」

独りでに呟いた。




南無三。

ノリシゲは心の中で合掌した。






そして、ノリシゲはもう何も考えないようにした。









願先ピヨリの『神越の能力』音速秘部ソニックマラーによって、

長い戦いの幕は閉じた。

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