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12話 未確認胃住嘔吐生物・下呂丸Ⅱ

部利一高校の体育館の真ん中に、ホストのような男と国語担当教師が、二人で居座っていた。


休日のバスケ部やバレー部は、練習試合があるのか、体育館は二人の貸し切りだ。



――ノリシゲは今、拉致されている。

両手首には縄できつく縛れており、体中に、全身を殴られた跡がくっきりと残っていた。



「そろそろ奴らが来るかァ~?」

ノリシゲを拉致した人物、国語担当教師の川口多駒が男にしては甲高い声で言葉を発する。


「……何が………?」

何回も顔面を殴打されて口を切った時の血が口の中で広がり、その事に顔をしかめながらも、なんとか問いかける。


「おう。テメェは反逆者リベロの野郎どもをおびき寄せるための囮になってもらうわけだ。テメェーらのアジトでドンパチやっちまうと一般人カタギ共に怪しれる可能性があるんでな。学校にはマルガリータの能力があるから安全だし、快くぶっ殺せるってわけだ」


(クソ、まさか俺がアジトを出た途端、すぐにタコ殴りにあってこんなところに運び出されるとわな……)


「そろそろ準備しますかァー!」

そう言って、川口は中腰になって、ハァァァと精神を集中し始めた。


「オボゲェ!」

汚い音と共に、川口の口腔が限界まで開かれ、ボト、ボト……と、胃液でべっとりと濡れたバスケットボール並の丸い何かを立て続けに吐き出す。


ボトボト、と吐き出された何かは、コロコロと転がり、


「ゲロ」

と、鳴いて体を震わし液体を飛ばす。そして丸い球体から、腕と足が突き出さた。

続いて、ゲロ、ゲロと何体も出てくる。


「こ、こいつは……下呂丸なのか!?」

ノリシゲが驚愕の声を上げる。


「にーちゃん、知ってるのか?」


「知ってるもなにも、こいつは俺のトラウマだ。二年ぐらい前にそいつらに、俺の右半分の髪の毛を食いちぎられたことがる。もちろん右半分はハゲになってしまい、今はウィッグをかぶって生活することになってしまった」



ノリシゲは封印していたトラウマを思い出してしまって、全身の筋肉が震えだした。体中にびっしょりと汗をかいている。


「ハハハ! そうかそいつは気の毒だったな! 下呂丸は握力250㎏、パンチ力300㎏、アゴの力500㎏ 足の速さ50m5秒のハイスペック生物だからなァ!」

ダハハハ、と川口は豪快に笑う。


と、そこで鉄扉が開いた。


「おっと、おしゃべりはここで終いのようだ」


その扉には息を切らしたテルモと、鬼のような形相の笑美子が立っていた。


「ノリ君、今助けるから」


静かに呟いた瞬間、笑美子はジェットミサイルのような速さで飛び出した。


「おおっと、させねェぞォー!」

笑美子が飛び出したその方向には、下呂丸が腕を広げて、とおせんぼをしていた。


「ちょっと待ってくれねェかなァー、ねえちゃんよォー、そんな速攻で助けらたら俺の面目丸つぶれだっつーの」

川口の口内から、続々と下呂丸が吐き出される。


「グハッ、……笑美子……こいつは”未確認胃住嘔吐生物・下呂丸”だ。一体で人間を五人一度に相手にすることができる化物だ。川口が出せる限界量は、おそらく60体。こいつはそのために何日間かかけて下呂丸を胃で養成していたんだろう……ゴハッ」


ひとしきり説明し終えたノリシゲは、口から赤黒い血塊を噴き出す。


そして、胃の中で飼っていた下呂丸をすべて吐き出し終えた川口は、下呂丸に笑美子への攻撃命令を送る。


「まず、テメェ! クソアマのテメェからだ!!」


下呂丸達が勢いよく笑美子にとびかかる。しかし、笑美子は肉眼でとらえる事さえ難しい程のスピードで回し蹴りをする。


「なッ!!」

川口は驚きのあまり絶句した。


「あのね、あなた、アタシに本気で勝ちたいならその子たちに、キックボクシングでも習得させてきなさい!!」

笑美子に群がろうとする下呂丸達は、まるでハリケーン被害にあったかのように蹴散らされていった。


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