0話 プロローグ
幼い日の記憶。それはまだピヨリ自身が小学生だったころ。
夏の焼けるような日光が照らしているも関わらず、遊びほうけている夏休みだった。
親父とピヨリと妹、三人、ばあちゃんの実家で折り紙を折って遊んでいた。お袋は台所でばあちゃんと一緒に昼食の準備をしている。
その日は猛暑で蒸し暑い部屋の中、時折吹く温かい風が風鈴を鳴らしその控えめな音が心地よい涼気を感じさせた。
「パパー、この紙飛行機見てー! すげーかっちょいいんだ!」
完成した紙飛行機を、嬉々とした表情で二人に見せた。何か物を作るのは好きだった。別に特別うまいという訳じゃない。自分が一生懸命かけて作ったものを、ただ誰かに褒めて欲しかった、そんな子供じみた理由だ。
「お兄ちゃんすごーい!!」
ピヨリの妹が爛々と目を輝かせながら言った。
「すごいな、チビ。パパもかっちょいい飛行機作ってやる」
親父は夏休みも多忙で忙しく休日自体少なかった。だけどそんな中、休みの日には決まってピヨリたちとよく遊んでくれた。
そんな親父がピヨリは好きだ。それは妹も同じだろう。
親父は、ピヨリの憧れで、ヒーローで、ピヨリの自慢だった。
「本当!? 作って作ってー!」
ただ毎日が楽しかった。こうやって純粋に楽しい毎日がずっと続けばどれだけ幸せなことなのだろうか。
「そうだ、チビ」
ふいに親父が、今までに聞いたことがない暗い声で静かにピヨリを呼んだ。
少しだけ嫌な予感がした。
親父は紙飛行機を丁寧に折り曲げながら、どこか寂しげな声で語り始めた。
「10年後ぐらいか。 お前の体には異変がおこる。だけど怖がらなくていい。お前はその力、正しく扱え」
まるで、なにかを見越したようなセリフだ。
一体、力とは何なのか、幼かったピヨリには理解はできない。だけど、
「うん、分かった」
だけど、ピヨリはよく理解もせずうなずいた。親父の寂しそうな顔を見るのが、辛そうな顔をみるのが、嫌でしかたなかった。
笑う顔だけ見たかった。
「チビは、お利巧さんだな。よしよし」
嬉しそうに、そして悲しそうに笑いながら、ピヨリの頭をそっと撫でた。
それが俺を見捨てた親父の最後の言葉だった。