異世界で魔王やってたら勇者として召喚されました。
ふと思いついたネタです。テンプレ異世界召喚ものになりますかね。
「やっと終わる。長かった。本当に長かった。けれどこれでいままでの苦労は報われるんだ!」
男は拳を握りしめて嬉しそうに叫ぶ。
そして次の瞬間、男の姿は消えていた。
「……え?」
男は拳を握りしめ、嬉しそうだった表情を固まらせる。
何故ならそこは男が見知った場所ではなく、どこかの城の一室のような場所だったからだ。男が姿を消し、この場へ現れたのは自らの意思ではなく、外的要因があったからということだ。そしてその要因たるものは男の足元に描かれた魔方陣のような何かと、こちらへ跪く何人かの人間たち。
所謂異世界召喚によって男はこの地へと呼ばれたのである。
「これは、どういうことだ?」
「ようこそいらっしゃいました勇者さま。こちらへどうぞ。王直々に事情を説明させていただきます」
混乱の最中、促されるままに連れていかれたのは先ほどの一室とは比べるまでもなくふんだんに金をつかったとわかる豪華さの広い部屋。扉からは赤い絨毯がひかれ、その先には一つの椅子、玉座があった。
男は王の間へ連れていかれたのである。
「そなたが勇者殿かな?」
王は玉座に座ったまま男に問いかける。一般的には失礼に当たる行為であれ、王はそれ以上の地位にいる者はいない。勇者と言え、軽々しく王の立場を崩せば騒いで勇者を罵倒するものがいる。王が勇者に不遜な態度をとった方がまだマシなのである・
「俺が勇者? 魔王じゃなく?」
「は、魔王? どうやら混乱しているようだの。では最初から説明するか。アレを持ってきてくれ」
王が近くの騎士――おそらく近衛騎士――に指示をして大きな紙を持って来させ、そのまま紙を広げる。
紙に描かれているのはこの世界を描いた地図と王は説明した。地図には大きく二本の太い線がひかれ、四分割されている。王曰く、この世界は人、魔、獣、妖の四つの種族が存在し、地図の太い線はそれらの種族の区切りだという。四区分のうち主な人族の国は右下に位置し、この国は人族最大の国だという。
「質問いいか?」
「王に向かって無礼な! いかに勇者とはいえそんな態度は許されることではない!」
「よい」
「し、しかし!」
「わたしがよいと言っている。それでもお主は何か言うか。それほどまでに偉かったのかの?」
王の説明を聞いているうちに混乱はおさまったのか、質問と口にする男。その態度に抑えきれなかったのか、騎士の一人が声をあげるが、即座に王によって黙されるのだった。
男はそんな騎士にも王にも目を向けず、ただ地図をみて言葉を放つ。
「主な人族と言っていたがその区分は明確なものなのか? それと四つの種族とは具体的に何なんだ?」
「この区分は凡そのものだ。必ず区分の通りに種族がいるわけではないが、凡そこの区分通りに固まっている。種族が分かれているとはいえ、種族間でも交流がないわけではない。そして種族だが、一つは我々人族。一つは魔物や悪魔などの魔族。一つは獣や獣人などの獣族。そして最後の人族が妖精や精霊などの妖族だ。先ほど説明した通り、人族の区分は地図の右下にある。獣族と妖族は人族と接しており、獣族は上、地図の右上にあり、妖族は左、地図の左下にいる。そして魔族は左上にあるが、みてわかるとおり最も大きく、勢力も強い」
地図の四区分は何も平等に分けられているわけではない。人族、獣族、妖族の大きさは多少の差はあれどほとんど変わらぬ大きさである。しかし魔族、左上に分布する地は人族、獣族、妖族の地を合わせたものとほぼ同等。そして当然、地が広いということは数や力を持っている。
「そしてこの区分が勇者どのへの頼みにもつながる。この四つの種族は基本的に対立はしていなかった。あったとしても小さな諍い程度であった。というのもこの四つの種族は同盟を結んでいたからだ。しかし極最近になってその同盟を破った種族がおる」
「魔族か?」
「そうだ。四つの種族の中でも最も大きな力を持つ魔族はたしかに好戦的なものは多かったが、魔王が争いを好まぬ気質であるということからその同盟は護られてきた。同盟を結んだのもその魔王であり、代々人族の王とも良好な関係にあったという」
良好な関係にあったという魔族と人族。にも関わらず何故魔族は同盟を結んでおきながらそれを破ったのか。
「魔王が代わった、いや代えられたと言った方が正しいかもしれんな。魔族は四つの種族の中でも寿命は長い。好戦的ゆえ短命な者も多いが本来の寿命は長いのだ。そして長く生きる魔族というのはそれは強い力を持つ。力を持たなければ生きることもできないからだ」
当然同盟時から生きてきた魔王は強い。その強さは他の魔族の追従を許さぬほどだったという。その魔王が代わった。寿命ではない。戦でもない。では何か?
魔王は魔族の部下による暗殺によって命を落としたという。
「魔王が代わってから魔族らは獣族、妖族へと侵攻を開始し、遂に人間族へまで侵攻してきた。獣族と妖族と協力して抵抗しているが多くの獣族と妖族は侵攻の時に殺されるか捕虜されて数が減ってしまった。三種族が協力してもいずれ魔族に蹂躙されてしまうだろう」
「で、俺を呼んだのか……」
「その通りだ。だからこの国の、この世界の危機を救ってほしい!」
王は頭を下げて懇願する。まわりはざわめくが王の気持ちは彼らも痛いほどわかる。先ほどのこともあり、声を大にして王に何か言う者はいない。
男は返事をしない。その代わりにかはわからないが突然自分の話をし始める。
「俺がこの世界へ来る前の話をしていいか? あの世界もこの世界と同じように種族間の対立があったんだ。この世界とは違って四種族の対立じゃなく魔族とそれ以外って形でな。違うのは侵攻されるのは魔族で攻め込むのは人族だったってことだ」
「そうか。すまぬ、元の世界への未練もあろう。だがいまは答えてくれまいか?」
「だけど魔族の王、魔王は長い年月をかけて侵攻を食い止め、他の種族のトップと話をつけ問題はあれ俺の世界ではもうすぐ種族間の争いのない、和平の世界への第一歩を歩むはずだったんだ。答える前に聞くが俺は元の世界へ帰れるのか?」
男が答えなかったと同じく王もまた答えは返さない。しかし男とは違い、その沈黙こそが問いの答えとなる。
男が元の世界へ帰る術はない。
「こちらの意思も、事情も無視して召喚し、元の世界にも帰れない。なのにこの世界を救ってほしいと? それで俺に何をしてくれるんだ?」
「望むならこの世界で生きるに十分なお金も地位も用意しよう」
「そうか。わかった」
「では……」
「事情はわかった。だけど断る!」
王を始め、男を除く者たちに衝撃がはしる。いまのはどう考えても了承の言葉だと考えるだろう。しかし実際は否定の言葉。
「な、なななな何故なのだ!?」
「いやいや当たり前だろ。こんな理不尽な頼み、普通受けないだろ」
「王が頭まで下げられたのになんたる無礼! 勇者であればこの世界を救うのが義務であろう!!」
「そんなもん知るかよ。そっちの事情なんか俺には関係ないじゃん。望めばお金も地位も? 滅ぶかもしれない世界で地位もお金もあってどうすんだ? 他に望めば何かくれるのか?」
「だ、だが……地位もお金もなければ明日を生きることもできないぞ!?」
「何、従わなきゃ脅すわけか?」
男は王の慌てた言葉に嘲笑しながら言った。確かにそうだろう。王の言葉は一方的に事情を押し付けた理不尽な行動である。情に訴えたところで怒るのは当たり前である。その上脅しまがいな行為もされてしまえばなおさらである。
「あ、欲しいもの一つだけあったわ」
「な、なんなのだ!? すぐに用意させよう!」
「アンタの首」
「え……?」
ゴロン
王の首が身体から転げ落ちる。男は何もしていない。ただ視線を王に向けただけだ。ただそれだけで王の首は身体から離れた。
「王!!? 先ほどからの無礼な態度だけでなく王の命にまで手をかけるとは! 勇者と言え容赦はせん! 殺せ!!」
その場にいた騎士だけではなく多くの兵が男を囲み、剣を向ける。
「まあ待て待て。誰もお前らの王様に手をかけてなんかねえよ……」
「なにを言っている!? お前がいま……んな!?」
男に促された兵の一人が後ろを振り返るとそこには首と身体がわかれたはずの王が立っていた。先ほどまで普通に話していた時と何も変わらず姿で、首と身体もくっついている王が。
「ど、どういうことだ!? 王は先ほど……」
「幻でもみてたんじゃないのか? 王様の首っていうのは冗談。ただ一つ教えてやる。さっき言った元の世界で俺は魔王をやっていたんだよ! 和平までに何百年かけたと思ってる!? なのにまた異世界召喚されて世界を救え!? 俺が居なけりゃあの世界の魔族は滅ぶんだよ! 人の世界滅ぼしておいて虫のいいこと言ってんじゃねえ!!」
声を荒げる男の顔は怒りに染まっておらず、むしろ表情すら出ていない。だが雰囲気から怒っているのは誰しもがわかった。表情にはでていないその怒りの圧で動けない者たちを無視して男は王城を去るのだった。
男が王城を出てからまず目指したのは図書館である。魔法で顔を変え、そこらの人間から知識を自身に写し、ただ元の世界へ帰るための情報を集める。この国が、この世界が別の世界の人間の力を借りるほどに滅亡が近づいているいま、この世界の情報を集めることは最優先必要事項である。
この世界に召喚する魔法があるのである。還す魔法がある可能性はある。なくとも男が持つ魔法とこの世界の魔法を組み合わせれば帰ることができるかもしれない。
男は黙々と本の背に触れていく。わざわざ本を開いて文字を読む必要はない。その背に触れるだけで男にはその情報を得ることができる。
しかし読む必要がないとはいえこの国の図書館は広大である。その日は結局全ての本を読むことは叶わなかった。警備の目をかいくぐり、寝ずに情報を得ることは出来たが、あまり無理をするのは得策でないと判断し、図書館をあとにした後、スリやゴロツキからもらい受けた金をつかって宿を探すのだった。
「部屋は空いてるか?」
「悪いねえ、もういっぱいなんだ。他を当たってくれるかい?」
「部屋は空いてるか?」
「この混みようみりゃわかるだろ! ほかの宿当たれ!」
「部屋は「満室だ! 帰んな!」空いて……ないみたいだな……」
訪れた宿は全て満室。魔族の侵攻によって多くの者たちがまだ安全なこの国へ避難してきたこともあってか宿という宿は全て似たような状態なのだ。身分証明書を提示すればギルドに泊まることもできるのだが、あいにく異世界人である男は身分証明書などない。
「こんな目にあったからせめて今日はベッドで寝たかったのに……。飲むか……」
宿を諦めた男が向かったのは飲み屋。この世界へ来てから手に入れた金を全て摩る勢いで酒を飲み、店主に愚痴る。
「こっちはやらなきゃいけねえことがあったのにいきなり呼ばれてみれば脅されてこっちの言うことを聞けとかふざけてると思うだろ? なあ?」
「兄ちゃんゴロツキにでも絡まれたのか? 最近人が増えてガラ悪ぃのも増えてきてるから気を付けた方がいいぜ」
「おっちゃんありがとうよー。これもう一杯くれー」
「そんなに飲んで大丈夫かよ? ま、嫌なことあったみたいだし今日は止めねえけどよ、兄ちゃん若いえんだからこれから先にのこと考えたらいいんじゃねえか?」
「先、先か……。今日の宿も見つからない俺に先何て……」
男は泣き上戸でさらに絡み酒というなんともウザイ酔い方のようだ。だが店主は嫌な顔一つせずに男の話を聞いていく。飲み屋の店主なんかやっていると男のような人間など何度も相手してきているのだ。むしろ暴れることがないだけマシと言えよう。
ハイペースで飲んだためか金が早くに尽きたことと飲み屋の店主に宿を紹介されたため一泊分に必要な金を残して飲み屋をあとにした男は残した金を持って紹介された店へ訪れる。
“虹屋”。そこはどうみても宿などではない。むしろ何をやっているのかも見当がつかない。騙されたのか? と半分疑いながらも店へ入り、飲み屋の店主からの紹介だと説明する。
「わかった。泊まりな。お代は……これでいいよ。残りは持ってな! どうせあの店で摩っちまったんだろ? せめてそれくらいは最低限持ってなきゃいまのこの国じゃすぐにおっちんじまうよ」
事情を説明するとあっさりと了承された。何でもこの“虹屋”の店主はもともと冒険者で飲み屋の店主とは仲間だったらしい。その縁であの店主に紹介された者にいろいろサポートしているらしい。
「そんなにすぐ信用していいのか?」
「あいつはアレでも観察眼-EXのスキル持ってるからな。それに飲み屋の店主とかも経験も合わさって人を見る目は信用できる。裏切られたらその時はその時さ」
なんともテキトーな答えだった。それだけ信頼しあっているということだろう。男はそんな信頼関係を少し羨ましく思い、自分のいた世界の部下たちを思い出す。
自分がいなくなったことであいつらは絶対責任を押し付けるとかで和平をぶっ壊すんだろうな、そして俺の苦労をなかったことにしてしまうんだろうな、と。
そこには信頼のしの文字すらなかった。ある意味行動を予想できるだけの性格的信頼はあるかもしれない。
「そうだ、これやるよ」
「札?」
「なくすなよ? 俺の能力で作った札だ。その札を世界各地にいる俺らの仲間に見せれば宿に困ることはなくなるぞ。お前ぇ、霊視の魔法はつかえるか?」
「ああ。一部のアンデット族を見るための魔法だろ?」
「ならその魔法でこの札をみてみろ」
「これは……すごいな」
「だろ?」
魔法を使った状態で札をみたところ、先ほどまでは何も書かれていなかったそれに紋様のようなものが現れる。この紋様は虹屋の店主たちの仲間だという証のようなもので、世界の仲間たちの店の看板をこの魔法を用いてみれば札と同じ紋様が見えるという。そしてその店主にこの札を見せれば最低限のお金はとるかもしれないが、宿に困ることはなくなるということらしい。
「これはどうやってつくっているんだ?」
「んなもん秘密だ秘密。仲間にも教えてねーんだぞ? まあ教えたからといってできるわけじゃねえが商売にも関わる技術だからな」
「そういえばここは何の店なんだ?」
「かんばん見なかったのか? 虹屋だよ、虹屋。その名の通り虹を売る仕事だ。魔法で虹をつくってそれで金取ってんだ。まあこれは表の仕事だな。収入はさっきいった技術を使った裏の仕事の方が多いんだ」
虹屋としての客が来たようで店主は話を切り上げて男が泊まる部屋を指し、接客に行った。男は店主の虹を売る仕事というのが気になったが、疲れていたため部屋へ行き、そのまま就寝するのだった。
次の日もまた図書館へ籠り、知識を蓄えて時間を過ごした。男が虹屋でこの世界の魔法をつかうことができたのは、前の世界とこの世界の魔法形態が似ていることと、この図書館でその知識を得ていたからである。知識があるとはいえそれだけで魔法を成功させるなど普通は出来ない。男が普通でないからこそできることだった。
少し男がこの世界へ来る前のことを説明しよう。まず、男が生を受けた世界には魔法などは存在せず、代わりに科学が発展した世界だった。男はその世界の日本という国で何不自由なく暮らしていた。
先ほど前の世界と魔法形態が似ていると述べたが生を受けた世界には魔法がないとはどういうことか。その答えは簡単である。男は召喚されたのである。前の世界からこの世界へ召喚されたように、生を受けた世界からここへ来る前の世界に。
違うのは男が魔族の救世主として、時期魔王を期待されて召喚されたということだ。右も左もわからず、初めて召喚を経験した男が混乱から覚める頃には立派な魔王になっていた。そのままなし崩しに世界を和平の世とするために力を磨いた。
元の世界へ戻る術も探したがみつからず、男を召喚した方法も嘗て大昔に失われた技術であり、成功したのはたまたまだった。そのまま何百年も過ごすうちにその世界への愛着が増えていったのだ。
愛着が増え、何百年もかけた和平の道がやっと見えてきたときの召喚。魔王でありながら和平を目指した男が勇者として魔を滅ぼしてほしいと頼まれるとはなんたる皮肉か。
もっとも、この世界での男の望みは部下に和平をぶち壊される前に元の世界へ帰ることなのでそんな頼みを受ける気はさらさらないし、魔王だからといってこの世界の魔族は仲間でもないので、人間たちへの侵攻を手伝ったりする気もない。あってせいぜい気まぐれに人助けをする程度だろう。
というわけで男は今日も図書館へ籠る。スリやゴロツキからありがたくいただいたお金で虹屋に泊まり、図書館で情報収集。それもずっとではない。図書館へ籠る以外にもいくつかの騒動に巻き込まれながら、夜は馴染の飲み屋で酒を飲んだりしながらも全ての本の情報を得た男はこの国を離れる。顔を変えてるとはいえずっとここにいると面倒事の危険率は上がる。情報収集という目的も終えたしと飲み屋と虹屋の店主など、この短期間で知り合った人たちに別れを告げ、男はこの国を去った。
それからは似たような日が続く。案の定ゴロツキやスリ、道中出会う盗賊らのお金で生活し、国々をまわり情報を集める日々。人族の国を回り終えれば獣族、妖族と国々をまわり、もちろん魔族の国々もまわった。
男が遭遇した騒動は割愛するとして、得られた情報は、この世界が男の生まれた世界でも、魔王をやっていた世界でもないということ。そして男が元の世界へ帰るのは難しいということだ。
不可能ではないとは男が道中出会った魔女の言葉だ。男は他人の知識や記憶を得ることは出来ても、経験までを写し取ることは出来ない。男とて万能ではないのだ。
異世界転移など男の専門外である。魔王をやっていたころに研究をしていたことはあったがその時も部下にやらせていた部分が多い。自分が帰る事よりも和平のためにしなければならないことが多くあったからこそである。
この世界でも男にはできないことはあった。だからこそその専門ともいえる人物に聞いた。人族でありながら魔族に属している魔女、協力を得た結果が不可能ではないという答えだ。
不可能ではないというだけで希望はある。しかしその可能性は0.1%にも満たない可能性だ。異世界転移だけならば何人かの協力の元できる。しかしその先が元の世界だという保証はない。しかも何人かの協力の元行う異世界転移は男を別の世界に送り込む魔法。一緒に転移することができない以上、転移先が元の世界でなかったらもう一度、というわけにはいかない。世界の特定はできないが、転移だけはできるからこその不可能ではない。ただその先が完全にランダムであるということだけ。
「本当にいいの?」
「ああ。時間もないし、何よりこれ以外の手段がないんだろう? だから頼む。失敗したらまたお前らのような気のいい実力ある仲間を探すとこから始めるよ」
魔女の確認の言葉に頷く男。魔女はもう何も言わない、そして他の仲間たちも。
静かに詠唱が始まり、男の足元の魔方陣が光りだす。長い詠唱と膨大な魔力が注ぎ込まれた魔方陣はこれ以上ないほどに輝きを増し、そして……男と共に姿を消した。
仲間に見送られ、男はまた、異なる世界に降り立った。
「マジか……」
男が降り立った世界は男が生を受けた世界の生を受けた国、日本だった。男の格好はどうみてもコスプレ。魔王としての力があればどこでも生きていけると思っていた男の心は崩れた。この平和な世界ではそんな力など異星人が襲ってでも来ない限り不要だ。そして魔法のないこの世界で異世界転移をできるほどの魔法使いは存在しない。
「この世界じゃねーよ!!」
そのあと、男は通行人に不審者として通報され、警察から逃げることとなった。この世界で不要だと思っていた力は警察からの逃亡の為につかわれたのであった。