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how to be happyシリーズ

how to be happy~乙ゲー主人公の姉に転生しました~

作者: 鹿之助

初投稿です。

拙い作品ですが、楽しんで頂けると幸いです。


近所の高校生くらいしか利用しない無人駅を降り、住宅街を抜けた小路。


私は人通りの少ないその道を3月の朝の冷たさに首をすくめながら、歩いていた。

うっかりマフラーを忘れた自分を責めつつ、歩調を早める。



周りに家がなくなり、代わりにちょっと緑が増えてきたその場所に、カントリーハウス風の外装のカフェ『kou』は存在する。


可愛らしい赤の屋根にはレンガの煙突がついていて、正面の窓の淵には植木鉢が二つほどぶら下げてある。

初めて見たときは童話の世界からそのまま飛び出してきたみたいだな、とその可愛らしさに感動したものだ。



木でできたドアのノブには、CLOSEの板がぶら下げられている。室内からは煌々と灯が漏れでていた。


時刻は5:00をちょっと回ったところ。外まだ、薄暗い。



裏口にまわり、ドアノブを捻ると案の定鍵は掛かっていなかった。



「おはようございますー」

「んぁー。おーはよー」



店内の気のぬくもりに、ほわーっとした気分になりながら朝のご挨拶。

キッチンの方から返ってきた挨拶も、眠気混じりにむにゃーって感じだ。ここからでは声の主の姿は見えない。



上着とカバンを置いて、エプロンをつけながらカウンター越しにキッチンの方を覗くと、真白い調理服に身を包んだ、男性の姿が。



この店のオーナーにして、料理人にして、職場の上司。

三原 和久(みはら かずひさ)さん、既婚の48歳。


彫りが深くて、目尻の皺と眠たそうな瞳がチャーミングなオジ様である。


全身かダルダルオーラを醸し出しているが、こう見えて、その道では名の知られている方らしい。自称。


「ミーちゃん、今なんか失礼なこと考えてなかった?」

「いーえー。和久さんは相変わらず素敵だなーって考えてましたー」

「わー、おじさん喜んじゃうー」



ちょいちょい、と手招きされたので近づく。すると、コレ味見していいよ、ってちょっと焦げたクッキーを口に放り込まれた。なんでやねん。いや、食べますけど。


うまうま、こっくん。しーあーわーせー。


頬を押さえて悶える。

若干焦げたのが香ばしくて、またなんとも言えない。


頬を緩めていると、和久さんも一緒に笑った。


「可愛いなー。やっぱ、ミーちゃんうちの子になればいいのに」

「いやいやいや、ご迷惑かけちゃいます。嬉しいですけど」

「真理子も喜ぶよ?」

「……お掃除行ってきまーす!」


「あ、逃げた」



和久さんにもその奥さんの真理子さんにもすごくお世話になっている。


2人とも大好きだけど、だからこそ、これには頷けない。苦手な話題に、すったかたーと背を向けた。



いいんです、私は今のままで十分幸せですので。





一時間ほどかけて店内の清掃を終えると、裏口から外へ。

もうかなり明るくなった空を見上げながらほう、と息を吐いた。


俯いて目を閉じると、視覚以外の感覚が研ぎ澄まされた気分になる。


ピチチと可愛らしく鳴く鳥の声も、頬を撫でる風も全部全部幸せだと思う。

"生きてるから"感じられることを幸せだと思う。



多分、普通の人生歩いていたらそんなこと思えないに違いない。大病患うとか、よっぽどのことがない限り。



では、私にとっての"よっぽどのこと"は何かというと。



『私、東雲 美思(しののめ みこと)には前世の記憶があり、かつこの世界は彼女のプレイしたことのある乙女ゲームの世界で、しかも主人公の姉である私はどのルートを選んでも死亡しちゃう、ということ』である。




私の中に彼女(ぜんせ)の記憶があることに気がついたのは1歳半の時。ある日、突然のことだった。



私が彼女なのか。彼女が私なのか。


2つの意識は混ざり合い、ややこしいことに……はならなかった。

だって私は彼女の記憶をひっくるめて、私だから。そうすんなり受け入れられた。だからその点については悩まなかった。



問題は別にあった。


どうやら記憶と一緒に彼女(ぜんせ)の経験値まで受け継いだらしく、1歳半にはおよそ相応しくない自我が芽生えてしまったのだ。



どうしよう、幼児のフリ……出来ない!

1歳半ってしゃべるの?立てるの?歩けるの?


何と言っても前世の私には、あまり子供と触れる機会がなかったようで。しかも私はどうやら第一子。周りにお手本となるような子供もいない。



結果、喋らない、泣かない、甘えない。

たまに笑うかと思えば、うっすらとした愛想笑い。

可愛くない1歳半の完成。



両親は不気味なものを見るような目で私を見るし、使用人の皆さんも「美思様はお人形のようでいらっしゃる……」と皮肉を影で言っていた。そこ、聞こえてましたから。



あ、使用人と言う単語が気になりました?ですよね。


どうやら私の生家はそこそこのお金持ちなのだそうで。

日本で3本指に入る、とまではいかないけれどギリギリ10本くらいには入るんじゃない?という感じ。


しかも私、妾の子。

妾とか、どんだけ時代錯誤何ですか。って感じだけれど、世界が異なれば、常識も違うわけですよ。ええ。


奇抜な髪色とか顔が整った人(ただし前世基準、こちらでは標準)とか、結構な確率で見かけることが出来る。

DNAどうなってるんだろう、みんな。


お陰様で審美眼が麻痺して機能しなくなった。



おっと、話がそれた。



とにかく、記憶を手に入れた私は自らの未来を知り青ざめた。



し ん で し ま う



半年後には産まれるであろう正妻の子、すなわち物語の主人公であり私の腹違いの妹、がどのルートを選んだとしても私は死んでしまうのだ。


毒殺、射殺、暗殺、攻略対象との心中……えとせとら。

バリエーションは多岐にわたる。



ああ、あわよくばこれが私のとんでもない妄想でありますように。

極度の厨二病に目覚めたとか、は嫌だけど死ぬよりはマシです。


そう願って、過ごした主人公が産まれるまでの半年。



そしてついに主人公――朝倉 陽菜(ひな)が生まれた日。

私は絶望した。ふかふかのベットの上でリアルにorzした。



妹の母が、正妻が亡くなったのだ。

元々体の弱かった正妻さんは、自らの命と引換に彼女を産んだそうで。



生まれた妹は何故か見せてもらえなかったし、まだ小さかったからという理由でお葬式にも参加させてもらえなかったけれど、使用人さんたちの話を聞いたから間違いない情報だ。


人が亡くなったのに、失礼な表現かもしれないけれど、それはシナリオ通りの展開だった。




いやいや。

まだ、希望は捨てちゃならん。偶然だ。偶然に決まってる。


なんて、フラグっぽい希望的観測を胸にびくびくと過ごしていた私は一月後、再びふかふかの絨毯の上でorzした。


私の実母が正妻にのし上がったのだ。

のし上がった、って言い方悪いけど、まあ似たようなものだと思う。



心の底から愛していた正妻を失った悲しみに打ちひしがれる当主にそっと寄り添って、心の穴を埋めたのだ。計算的に。


何故、知ってるかって?

全部本人に話されたからですよ!



「ふふふ、やっと正妻の席が手に入れられたわ。美思、は少し気味が悪いけれど、大人しい子だからうまく育てれば従順な駒になるでしょうし。……となると、あの女の子が邪魔になるわね。今すぐ殺す、のは怪しまれるし。そうだわ、もう少し大きくなるのを待ちましょう。そしてあの女への恨みも晴れるくらい、弄んでから殺すのよ。ええ、そうよ自我が強いほう遊ぶのも面白くなるわ!」



ねぇ、美思?



と、やけに優しく抱きしめられた時には震えた。


……こっええええ!お母さん、マジキチなんですが?!

というか、お母さんって呼びたくないんですが!駄目ですか?!

だって私、駒ですよ。駒扱い。


けれど、これもシナリオ通りだ。


これからこの人(もう母と呼ぶのはやめよう)は、愛する人をうしなって傷心の当主様に「この子のせいであなたの愛する方は奪われて……」うんちゃらかんちゃら吹き込んで、主人公を虐げるように仕向けるのだ。


そして同様に私にも。

いわば、悪役の道への英才教育を施されるのだ。


本当にシナリオ通りにいけば、の話だけれど。




まだ見ぬ(しゅじんこう)には悪いけれど、私はこの時点で既にこの家から逃げることを決めていた。


妹を置いていく罪悪感を抱えてでも、私は生きたかった。


どちらにせよ、この人の元でまともに生きていける気がしなかったのだ。



今すぐにでも、そうしたいところだけれど如何せん今の私にはあらゆる意味で力が足りなかった。


だから、力をつけることにした。




ここが本当に乙女ゲームの世界だと仮定して。


原作が始まるのは、主人公――陽菜ちゃんが高校に入学するところからだ。


陽菜ちゃんはあの人の目論見で中学時代は公立に通わされる。しかし、高校からは何故か私と同じ『私立流聖学園』に通うことになり……以下割愛。まあ、愛と青春のありがちな乙女ゲームだ。



私は学園を裏で牛耳る苛めっ子のラスボス的な役割なんだけど、

そもそも私は陽菜ちゃんと同じ高校に入るつもりはない。


大丈夫。私がいなくても、可愛い女の子に嫉妬する苛めっ子ってのは湧いて出る程いるから。問題ない。

まだ見ぬ誰かに、その立ち位置を譲って差し上げます。




そんなわけで、リミットは約13年。私が中学3年生を終えるまで。

時間は、そこそこある。



それからの13年間はあっという間に過ぎた。


母のいうことには取り敢えず、頷いておいた。

つけられた家庭教師のいうことにはガンガン取り組んで、先を急いだ。


マナーのレッスン、華道に茶道。

与えられたことにはとにかく全力で取り組んで、出来うる限り自分のモノにした。

知識や経験だけは、誰にも奪われない財産だと思ったからだ。



私は、随分と性能がよかった。

スポンジみたいになんでも覚えるし、あらゆることが高いレベルでこなせる。


がむしゃらだったその頃の私は、本当に人形のようだったと思う。

いつも疲れてて、目が死んでたし。




勉強、悪の道への勉強、母の指示で妹にちょっかい出して、また勉強。6歳になってその中に学校が入ってきたけど、生活サイクルとしてはそんなに変わらなかった。



そう言えば5歳の時に、弟が生まれた。妾の子だ。

名前は悠人(はると)。実は攻略対象だったりする。



あの人は悠斗のことは実母から奪い取る勢いで可愛がった。


だってさ、長男だもん。

つまり次の当主に1番近いってことだからね。

小さいときから自分側につけとけば、かなり使える駒だよね、うん。




悪の英才教育の方針としては、とにかく悠斗に陽菜ちゃんに対する嫌悪感を植え付けることにしたようだ。



だけど、私はそれを許さなかった。

あの手この手を駆使して、あの人にバレないようにそれを阻止した。




人の嫌がることはいけません。

権力とは弱いものを守るためにあるのです。

正妻様の言うことは取り敢えず頷いて、右から左に受け流しなさい。

使用人を見下すようなことはしてはいけません。

勉強は疎かにしてはいけません。



前世で聞いた誰かの名言から、自分の体験を生かしたアドバイスまで。

何度も何度も言い聞かせた。

彼があの人に染められないように、私は必死だった。


悠斗はきっと口煩い姉のことが嫌いだっただろう。

実際、私に対する態度は冷たかったし。


それでもよかった。



彼には、陽菜ちゃんの味方であって欲しかったから。



原作の悠斗は、あの人の思惑通りに陽菜ちゃんに嫌悪感を抱いていた。彼の誤解を少しずつ解いていき、愛されたいという彼の心の底の叫びを掬ってあげる、というのが彼のルートだ。



でも実際は、誤解を解くためのイベントに関わる(あくやく)が居なくなるわけだし、初めから好感度が高いくらいのハンデは許されると思うんだ。




全てを放り出して逃げ出す予定の私が何を言うかと言う感じだろう。

けれど、それが私に出来る精一杯の償いだと思ったのだ。

自分勝手だと思うけれど、それは譲れなかった。


それはお前の罪悪感に対する償いではないか、と責められればそれも確かなことだし、甘んじて受けるつもりだ。



あ、また話がそれた。



まあ、そんなこんなで13年が過ぎ。


中学3年生の冬。

私はあの人を欺いた。


付属の中学に通っていれば合格確実といわれる私立流聖学園に落ち、『滑り止め』に受けた公立高校に合格したのだ。


勿論、わざと。



そもそも滑り止めに公立を受けさせてもらえるまでが大変だった。

「人生経験だし、いずれ私にひれ伏す庶民たちの雰囲気を見てみたいの」みたいなことを言った気がする。


流聖学園については、試験を白紙で出すのは逆に怪しいと思い、適度にちゃちゃっとアレさせていただいた。

あれで受かったら、学園の信用を失うゼ?レベルの回答であったことは間違いない。



仕上げには、おしゃべり好きの使用人の1人に不合格の事実を"うっかり"知られてしまえば完璧だ。

合否発表の2,3日後には、屋敷中の人間が私のとんでもない失態を知ることとなっていた。


人の噂って怖いよね。



という訳で。


祝!縁を切ることになりました。



まず、顔面蒼白のあの人に呼び出されて、ばちーんとビンタを食らった。長い爪が引っかかったのか、頬に血が伝うのを感じる。

酷い、親にもされた事無いのに。あ、この人が親か。


なーんて、ぼんやりしている間もあの人はヒステリックに叫び続ける。


「どうしてくれるの」「役立たず」「ああ、もうこれじゃあ駄目ね」「朝倉家の恥晒し」「貴女の顔も見たくない」「ああ、そうだわ。縁を切りましょう」「そうよ、それが良いわ!」



ねぇ、美思?



その笑顔は幼い日に見たものよりももっと狂気に満ちていた。

変わった。この人は、取り返しのつかないほどに変わってしまった。


そしてそれは、私も同じだ。

彼女の腕の中で震えるだけの子供じゃなくなったんだ。


だから。



「はい、そうですね。今すぐにでも」



私はにっこり笑った。

あの人へ生まれて初めて心から笑いかけた。






続く、のか……?



この後、カフェに攻略対象者達が次々に現れて美思を巡ってわちゃわちゃすればいいと思う。

逃げた筈なのになんでー?!ってなればいいと思う。


ちなみに、悠斗くんはツンデレ属性です。


最後まで読んでくださりありがとうございました。

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[良い点] ふぅぅぅぅぅっ!いいね!いいよ!どんどん書いて!!最後の笑ったとこがいいわぁーo(^_-)O っていうか後書き?のところにこれからの展開書いちゃダメじゃない?!?!なんで書いちゃうの!?ネ…
[一言] 母親の狂気と取り残された妹ちゃんと、裏切られた(と思うだろう)弟君の今後が気になります。 縁を切ったと言えど、自分の産んだ娘が落ちた学校に憎い女の娘を通わせるのかも気になります。 ぜひとも続…
[一言] 続きが読みたいです! ぜひ!!
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