表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖痕使い  作者: 中間
第二章:獣人の国
74/74

4話 クズハの鍛錬


異世界397日目

二度目の侵攻まで、後1163日



狐族の里『狐火の巣』から逃げてきたジンとクズハは、昨日から中立街にある宿屋に泊まっている。クズハを一人にするのは不安だったので、二人部屋を取ることにした。


朝からクズハは、塞ぎ込んでいた。下から食事を持ってきたジンが話しかける。


「クズハ、起きてるか?」


「起きてる」


ベッドの上で体育座りをしたクズハが、返事はするが声に元気がない。


「元気を出せ。一週間後には仲間が来るから」


「ジンの仲間?」


「家族みたいなものだ」


「ミロクは、唯一の親戚だった」


地雷だったか


「これからどうすればいい?ジンだって爆弾を抱えた私の面倒なんか、みたくないだろう」


「まあ、爆弾の面倒はみれないな。」


「そう、か」


クズハの顔から生気が抜けていくように、青白くなっていく。


「それなら、爆弾では無くせばいい。俺と一緒に金の炎を扱えるように鍛錬をしよう」


「えっ、でも」


金の炎の鍛練なんて危険すぎる。普通は先代の九尾が付きっきりで教えるのだ


「俺に任せろ。」


どのみちこのままでは、一人ぼっちになるだけだ。クズハは覚悟を決めた。


「わかったわ。やる」


「明日から特訓だからな。その力で誰かを助けられるようになれクズハ。」


金の炎を扱えるようになれば、きっと立ち直るきっかけになる。そうなってほしい。


異世界398日目

二度目の侵攻まで、後1162日



翌日、ジンとクズハは、ノエム森林に来ていた。ジンが、土の精霊術で即席の修練場を作る。周りに飛び火しないように深いクレーター状の修練場だ。


「クズハ、金の炎を出せるか?」


「たぶん出せるけど、加減が」


「気にせず出して」


「わかった」


クズハが腕から金の炎を発現させる。抑えようとしているのか、炎が不規則に揺らめいている。


「クズハ抑えなくていい、本気を出せ。この前はそんなんじゃなかったろ。」


金の炎がどんどん大きくなる。どうやら術者本人には、害はないようだ。


「それを上空に向かって小さくちぎって放ってみろ」


クズハは言われた通り、小さな金の炎を上空に放つ。

途中までは、順調だったが、突然炎の塊が歪みだし爆散した。あたりに火の粉が飛び散る。火の粉は、もちろんジンにも向かう。


「水の聖痕を発動『水龍』、『水天門』」


小さな火の粉に対して、過剰な程の水の障壁を作り出した。しかし、それが正解だった。金の炎は、水の中に入ってもしばらく消えず少ししてから消えたのだ。半端な水壁を作り出しても意味はなかっただろう。


「クズハこの調子でやるぞ。」


「ねえ、ジンはなんでこれが有効だと思うの?」


クズハは、ジンの無事に安堵しながらも疑問を口にする。ジンは、金の炎について何も知らないはずだ。


「暴走の仕方が、昔の小雪に似ているんだ。」


「小雪って誰?」


眉を寄せて、不満そうな顔をするクズハ。


「俺の娘だ。」


「はっ?」


固まってしまったクズハに、一から説明して立ち直らせてから話を続ける。


「それで小雪は、生まれながらにして不安定ながら強大な力を持っていたんだ。」


小雪が今よりも子供だったこともあり、ずいぶん苦労した。子供だから癇癪一つで周りを凍らせてしまうのだ。ジンは小雪の傍で力の制御方法について模索を続けた結果、小雪はなんとか力を制御できるようになった。


「その時にやったのが、何かの形や技に固めることと、操作に重点を置いた訓練だ。これは勘だが、金の炎の威力を抑えるのは、おそらく無理だ。だから威力は抑えないで他のところに集中して訓練するべきだと俺は思う。」


「それじゃあ、まずは操作からってことね。わかった、やってみる。」


「聖痕には、制限時間があるからな、急ごう」


「了解。金の炎、きっと私のモノにしてみせる。」


それ以降も特訓を続け、2日目では、爆散はしなくなり。3日目には、金の炎は安定した。やはり、炎を抑えようとするのが、いけなかったようで、そこを理解したら上達は早かった。


訓練開始から一週間がたった頃、クズハは独自の成長を遂げた。


「『金狐』」


金の炎を狐の形にしたのだ。


「どお、ジンなかなかでしょ」


得意そうなその笑みには、宿屋で見せた陰は見られなかった。


「よし、中立街に一度戻るか」


「そうね」


二人は、確かな手ごたえを手にして中立街に戻った。



異世界404日目

二度目の侵攻まで、後1156日


中立街に戻ってきた日の夜


寝ようとジンがベッドに入ると


「どうした?」


クズハが、ジンのベッドに入り込んできた。


「ほ、ほら私、あんたに私を捧げてるし、こうした方がいいかな~て」


真っ赤になってクズハが言い訳する。そこにジンは、狐耳に目と止めて。


「なあ、クズハ?」


「な、なによ?」


「耳触ってもいいか?」


「い、いいけど」


「尻尾は?」


「いいわよ」


「それじゃあ失礼して。」


もふもふ


「ど、どう?」


「ふわふわして気持ちいぞ。クズハはどうなんだ?」


「落ちちゅく」


「「・・・・・」」


「落ち着く」


顔を真っ赤にして言い直した。


可愛いかったので、今日は尻尾をにぎにぎしながら寝ることにする。



異世界405日目

二度目の侵攻まで、後1155日


「起きなさい。起きて」


クズハの呼びかけで目が覚める。


「ジン起きた?起きたなら手を離して、お願い」


ジンは、クズハの懇願に、最初は何を言っているのかわからなかった。自分がクズハの尻尾をまだ掴んでいることに気付いた。


「もう少し」


にぎにぎ


ジンがクズハの尻尾をにぎにぎする。すると


「はぁぁ・・・んっ〜〜〜〜」


昨日となんだか反応が違う。声がなんだかエロい。


「クズハ」


「な、なによ」


「もしかして尻尾が、きもちよく」


「そんなわけ」


にぎにぎ


「ーーーーーッ」


クズハの身体がピクピク痙攣する。

そこでさすがに手を離す。


「はあ・・・はあ・・んっ、ジンのアホ」


潤んだ目でこちらを睨んでくるクズハの表情は、とても可愛く、意地悪をしたくなるような表情だった。


「気持ちいいんだ」


「なによ、悪い」


「いいや、俺はアリだと思うぞ」


ジンは身体を起こして、狐耳にも触れて触り心地を楽しむ。


窓から外を見ると、もう昼ごろだった。久しぶりのベッドで寝すぎたようだ。

宿屋のロビーが騒がしい、団体でもついたのだろうか。


扉が叩かれた。


「はい」


返事をしてしまった。


「ジン殿、お久しぶりです。」

「お姉様、お待ちください。」


アルシナとファーラの竜騎兵コンビが入ってきた。どうやら団体は、仲間達だったようだ。

ただいまの部屋の状況は、ジンとクズハが1つのベッドに入っていて、クズハの顔が赤く目が潤んでいる。

部屋の状況を見たファーラが


「こんのケダモノーーー」


いきなりが殴りかかってきた。これは予想できたのであっさり避けたが、避けた先に椅子が飛んできた。アルシナが投擲してきた物だ。椅子がジンの頭にめり込んむ。


ジンがその場にしゃがみこんでプルプル震えて痛みに耐える。


「お姉様ナイス」


ガッツポーズのファーラと


「すまんジン殿、つい。だ、だがお前も悪いのだぞ。久しぶりに会ったら小さな娘と、イチャイチャしているから」


謝りながらも不平を口にするアルシナは、可愛いのだが。それを気にする余裕はジンには無い。


しばらくして、ジンがプルプルから復活して


「すまん、確かに再会としては最悪だったな。」


「改めて、ジン殿久しぶり」


「久しぶりアルシナ。ファーラも元気そうだな。」


「まあね。それより多分あんたを捜している人がいたから連れてきたわよ。黒衣に二刀ってあんたのことでしょ。」


俺を捜す?誰だ?この国で知り合いなんてほとんどいないぞ。


「名前は?」


「さあ」


「名前くらい聞こうぜ。」


「うるさいわね。確かミロクの妻だと、伝えてくれって言ってたわよ。」


「なんだって!」


尋ね人の素性にジンが叫ぶ。クズハも驚いているようだ。怖がっているようにも見える。


「ジンどうしよう、私はミロクを」


「・・・会おう。ちゃんと話すべきだと思う」


「でも、あたしは仇」


「だからだ。ミロクを殺したのは俺達だ。だから俺達は、ちゃんと話さないといけない。」


「ジンは、何もしてない!」


「いいや、俺はあの時ジュウザを挑発した。その結果、ミロクが巻き込まれて死んだ。俺がすぐにジュウザを殺していれば問題はなかったんだ。だからこれは俺とクズハの問題だ。」


「・・・わかった。」


「ミロクの奥さんはロビーに?」


「あ、ああ」


「この部屋に通してくれないか、外で話すことじゃないからな」


「別にいいけど」


アルシナとファーラは、状況が飲み込めないながらも了承する。


二人が部屋を出た時、クズハが


「ミロクの、家族か」


と呟いたのが、聞こえた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ