3話 金の炎
異世界396日目
二度目の侵攻まで、後1164日
ドンドンドン
クズハは、扉を叩く音を目覚ましがわり起きた。
「ふあ~ああ」
隣に、ジンがいないことに気付く。
「昨日あんなこと言っておいて、どこに言ったのだ、あいつは」
不満そうではあるが、不安というわけでは、なさそうだ。そう思っている間も、扉は叩かれている。正直うるさい適当に身支度をすませて。
「誰だ?」
「クズハ様、ミロクです。失礼いたします。」
扉を開けてミロクが、入って来る。ミロクは、開口一番
「シン殿が、とんでもないことを、してくれましたぞ。」
「シンが何をしたんだ?」
「ジュウザ殿の部下に、決闘を挑んで、・・・・・ボコボコにしてしまいました。」
「な、なんだと!?」
ガチャ
「よう、クズハ起きたか」
「よう、ではない!何をしているんだお前は!あいつ、絶対に仕返しにくるぞ。」
「それについては、今から話すよ。俺の素性も教えようと思ってな。」
「素性?」
ミロクが首を傾げる。
「クズハ、ミロクさんには、話してもいいのか?」
「ミロクなら大丈夫だ。それより早く話せ」
「わかったわかった。じゃあまずは素性からだが、俺は人間の国では『黒翼の英雄』って呼ばれてる。」
「『黒翼』ですと!?」
「ど、どうしたミロク、大きな声で」
大声で驚くミロクと、意味がわからないクズハ。
「『黒翼』と言えば、人間の国の英雄です。奴隷を解放したりと、それは凄い働きをしているとか。」
「ジン、本当か?」
「本当だ。」
「ジンとは?」
「こいつの本名だ。」
「シンは、偽名でしたか。何故狐族の里に?それ以前に、何故ルクトルーク群国に?」
「それも、今から話す」
一時間後
「黒い半球に、連合軍ですか」
「ジンは、初めからそのつもりで、その、私に近付いたのか?」
「それは違う。あの場に俺がいたのは偶然だ。」
「そうか。」
明らかに気落ちしている。
「ああもう、本題なんだが。・・・クズハ、俺と来ないか。」
「やっぱり」
「狐族の領主は、辞めて構わない。」
「えっ」
「な、何を言う。そんな無責任な。」
慌てて止めようとするミロクを、クズハが制して
「どういうこと?」
「今の君に、領主は無理だ。狐族を纏めることはできないだろう。君のためにもならないし、トップが定かではない組織は信用できない。だから、領主をやめて、俺の元に来い。領主は、ジュウザにでも任せればいい。さっき起こした騒動は、ここを出るための、ただの理由作りだ。」
「それでは、連合に参加するときに問題にならないか?」
「狐族が、連合に参加するときは、あくまでルクトルート郡国の一部族に過ぎない。何とかなるだろう」
それが、ジンの本題だった。クズハにとってそれは、とても魅力的に聞こえたが、ミロクの手前、なかなか頷くことができない。
「私は」
ガシャーン
ガラスが割れる音が、クズハの言葉を遮る
「何事だ!」
襖を倒して部屋に、侵入者が入って来る。侵入者は、外套で顔を隠していて、素性がわからない。
ジンは、クズハとミロクを抱えて、外に飛び出る。庭を飛び越え、屋敷の敷地の外まで出るが、そこにも外套を着た奴らが待ち構えていた。
ジンは二人を降ろして、二刀流中心の戦闘に入る。実力差は歴然で、ジンが侵入者を圧倒していたが、ジンが二人の敵とつばぜり合いをしていたとき、そこに特大の火球が降ってきた。
ジンは、なんとか避けたが、つばぜり合いをしていた二人は、目の前で焼け死んだ。
「お前、仲間を!」
ジンの視線の先には、尾が八本になったジュウザがいた。ジュウザが、こうも早く動くのは、想定外だった。おそらく昨日から、準備していたのだろう。
「仲間ではない、ただの駒だ」
「ジン!」
クズハの叫びにそちらを向くと、なんとミロクが、クズハに短剣を突きつけていた。
「何をしている、ミロク!」
沈痛な表情で押し黙るミロク。
「ジンと言ったか、動けばクズハの命はないぞ。わかったら、まず武器を地面に、置いてもらおうか」
ジンは、その場に刀を置く。
「ジン戦え、ジン!」
クズハが叫ぶが、ジンは動かない
「ミロク離せ。ジンがジンが」
「死ね、ネズミが」
ジンの頭上に、先程より巨大な火球が生まれ、ジンに向かって放たれる。
「ジン、ジン、ジン」
ジンが、水の障壁で防ごうとするが、
「ジンに・・・手をだすなーーー!」
クズハに異変が起きた。
クズハの尾が九本になり、身体からは金色の炎が溢れ出す。すごい勢いで、溢れた金の炎は、周囲一帯を瞬時に包み込んでしまった。
ジュウザも火球も敵も屋敷も
そしてジンやミロクさえも包み込んだ。
炎が消えた時、周りには誰も居なかった。その場にいた者たちを灰も残さず燃やしてしまった。
「あっああ、ジ、ジン、ミロク。私の・・・せい、で。あぁ、ああーーー」
クズハがその場に、泣き崩れる。心が壊れそうになった所で
ベシ
誰かに後ろから頭をはたかれた
後ろを向くと。
「ジ、ン」
無傷のジンが、そこに立っていた。
「ジン、生きて」
「咄嗟に、『火避けの盾』を出して時間を稼いで、刀を回収して、地中に逃げたんだ。」
金の炎の前では、『火避けの盾』も時間稼ぎにしかならず、数秒で燃やしてしまった。
「ジン、私、ミロクを」
「クズハ!お前が焼いたのは、敵だ。ミロクも、少なくともあのときは敵だった。」
戦いを遠くから見ていたのだろう。野次馬が集まってくる。
「お、おい、金の炎が暴走したぞ」
「ジュウザ様が」
「ミロクまで焼かれたぞ」
「ど、どうすんだよ。逃げるのか?」
「俺達が領主にどんな態度をとってたか思い出せよ」
「だからって」
「戦うのか金の炎と」
一部始終を、見られていたようだ。聞こえる会話の内容は、酷いものだった。
「クズハ、金の炎ってなんだ?」
「九尾だけが使える、最上位の炎のこと、なんだけど使えたのは初めて」
九尾だけか、この里で金の炎は、特別なものなのかもしれないな。
「クズハここを出よう。このままここにいたら、何が起きるかわからない。」
「う、うん。でもどうやって?」
周りを狐族に囲まれている。戦う意思があるかはともかく、無理やり抜けようとしたら、一悶着あるだろう。
「これで飛ぶ」
荷袋から『黒飛板』を取りだし、クズハを抱えて空を飛ぶ。
「きゃあーーー・・・と、飛んでる」
「中立街まで飛ぶから」
「わかった」
クズハは、複雑そうに、狐族の里が見えなくなるまで、見ていた。