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聖痕使い  作者: 中間
第二章:獣人の国
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2話 狐族の里


「なら、私に雇われない?」


初対面の相手にいきなり雇いたいと言い出した。ジンは驚いてクズハの顔をまじまじと見てしまう。その時のクズハの顔は、とても不安そうな表情だった。きっと殺されかけたことが関係しているのだろう。それを知るためにも、雇われてみるのはいいかもしれない。


「別にいいけど。雇うってことは、報酬を貰うってことだけど、いくらで?」


「えっ、えっと、その~」


クズハが目を逸らす。クズハは、領主だが自分の自由にできるお金なんてほとんどない。ましてやSランクの冒険者を雇うには高額な報酬が必要なのが普通だ。

クズハの様子からお金がないことを察したジンは


「別に雇われなくても、護衛くらいならするよ。」


「ダメ!私が雇わないとダメなの!」


クズハは、突然現れて自分を助けた男をどうしても自分の側に置きたかった。そのために何か確かなつながりが欲しがっていたそれが雇用だったのだ。


「そう言われても、どうするんだ?」


「だから、その・・・どうしよう?」


「俺に聞かれても。」


「いいから考えてみなさいよ」


「そうだなあ・・・・・衣食住の確保を」


「そんなの報酬にならないでしょ」


「じゃあ、出世払いで」


「それは、雇えていないでしょ」


「「・・・・・」」


しばらく二人は、考えこんで


「なら私を、あなたにあげるわ。」


「はっ?」


「だから私自身をあなたに捧げるって言ってるの!なによ、不足なの?」


平らな胸に手を当てて頬を赤くして涙目のクズハ。


「い、いや、そんなことはないが」


「なら雇われなさいよ」


かなり凄い事を言っている気がするのだが、まあ役得と思っておくか。


「わかった。その代わり条件がある」


「条件?」


「ああ、俺はさっきSランクのジンと名乗ったが、他の奴の前ではAランクのシンで通したい。」


「わかったわ」


クズハは、Sランクって大変なのねっと勝手に納得した。ジンにとっては、もちろん『黒翼の英雄』とばれないようにするためだ。


「これからよろしくね。私が主だけどクズハって呼んでいいわよ。」


「いやそういうわけには」


「クズハって呼びなさい」


どうやらクズハと呼んで欲しいらしい。


「わかったよクズハ。これからよろしく。」


「ええ、よろしくねシン」




ジンが『火避けの盾』を回収していると


「りょ、領主様、い、生きておられて」


クズハを殺そうとした狐族達が地割れを迂回してやってきたようだ。殺そうとしていたのは、クズハが襲われていたことと落とされた橋を見てほぼ確定した。


「残念だったな。私はシンと帰るから先に帰っていいぞ」


狐族達はジンを見て


「(ど、どうする?)」


「(一度戻ってジュウザ様に報告しよう)」


「(そうだな。)それでは領主様我々は先に失礼します。」


小さな声で話していたが、風を自在に扱うジンには余裕で聞こえていた。

狐族達はそそくさ帰って行った。狐族達が見えなくなると、クズハが不安そうな声音で


「ジンあのな、実は私・・・」


何かを打ち明けようとしているようだが


「うん?」


「いや、なんでもない」


結局クズハは話すのをやめてしまった。


武具を拾い終え、狐族の里に向かう。クズハの表情が狐族の里に近づくにつれて堅いものになっていく。


「大丈夫か?」


「大丈夫よ」


全然大丈夫に見えない。顔色もどんどん悪くなっていく。

しかし今日出会ったばかりのジンには理由がわからず何もできない。ジンはもどかしく思いながら狐族の里を目指した。


「ここが、狐族の里、『狐火の巣』よ」


里に着いたのは、真夜中だった。

二人が里に着くと狐族の男達が、どこからか現れ


「お帰りなさいませ、領主様。ジュウザ様が少々お話しがあると仰せです。」


そういいながらクズハとジンの周りを槍を持った狐族が固める。クズハにだけ聞こえる声で


「(どうするんだ?)」


「ついていく。シンも来い」


クズハが移動するので、それについていこうとすると


「冒険者のお方は別の場所でお待ちください」


周りの狐族が槍を突きつける。

クズハの表情が陰ったのを見たジンは


「断る。俺の依頼主は、クズハだ。あんたらじゃない。」


ジンは、突きつけられた槍を抜刀術の要領で半ばから斬り落とす。


「えっ」


元槍の棒切れを持った狐族は、その場に尻餅をつく。ジンはそれを無視してクズハの隣に歩み寄る。最初に話しかけてきた男が面白くなさそうにしているのも無視だ。クズハの顔から陰は消え、顔を少し赤くして前を向いている。どうやら嬉しさを抑えているようだ。頬が少し緩んでいる。


そのまま二人で男についていく。


二人は、和式の屋敷につれて行かれ、屋敷にある一室に通された。その部屋は上座と下座が段差で区切られていて、もちろん領主のクズハは、上座に座る。


「シンは私の後ろに」


「了解」


二人が部屋に入ってすぐ二人の男が入ってきた。片方は案内をした男だ。


「話しとはなんだジュウザ?」


クズハが面倒そうに尋ねる。そこに案内をした男が


「その前に、そこの冒険者。シンと言ったか、領主様に雇われたそうだな。その倍を出すから即刻この里を立ち去れ。大方領主と聞いて護衛を引き受けたのだろうが、そやつの好きにできる金などほとんどないぞ。領主と言ってもお飾りだからな」


お飾りであることを知られてジンがいなくなるかもしれないという恐怖でクズハが身体を震わせる。ジンは肩に手をおいて。


「お前には、絶対に払えないよ。一生無理だね」


「貴様!」


「放っておけ、たかがネズミ一匹だ。それより領主様、部下を先に返したそうですな。チームの隊長であったあなたが部下を先に帰らせるとはどういうことですか?彼らに何かあればどうするつもりだったのですか?」


ジンが横槍を入れる。


「あれだけの、人数で無事にかえってこれないのなら、それは人選をしたあんたらの責任ってことになるだろうな」


「なんだと」


「帰ってこれなかったらだよ。何もなかったんだろ。ならあんたらの人選は間違っていなかったということだ。ならこの話題はもう終わりでいいだろう。なあジュウザさん。」


「・・・・・私はこれで失礼する。」


ジュウザは、面白くなさそうに部屋を後にした。


「すごいな、シンは。ジュウザを追い返してしまった。」


「まあ、俺は外から来たからな。それだけだよ」


ジュウザと入れ替わりに男が入ってきた。安堵した表情を浮かべ


「クズハ様、よくご無事で。こちらの方は?」


「こいつは、シン。私の恩人だ。シンこっちはミロクで私の叔父にあたる人だ。」


「クズハ様を助けていただいてありがとうございます。私、クズハ様の近侍のミロクと申します。」


「どうも、冒険者のシンです。」


「ミロク、今日はもう遅いから、休む」


「わかりました。では、シン殿の寝床は」


「き、気にするな私が何とかする。」


クズハはそう言うとジンの腕を掴んでその場を逃げ出した。


「どうしたんだ?そんなに慌てて」


「領主の私が、か、身体で、お、お前を雇ったとばれたら何を言われるか」


「ああそういことか、でも寝床はどうするんだ。」


「私のベットでいいだろう。」


クズハの部屋は、屋敷と同じ和装の造りなのだが真ん中にベットがあるのでとてもシュールだ。クズハがベット好きなのだろうか?


「そ、それに、私をお前に捧げると言っただろう」


そう言いながら先にベットに入ってしまった。クズハが毛布から顔を出して


「早く来い」


「はいはい」


ジンも隣に入って横になる。


「何もしないのか?何をしてもいいんだぞ?」


まただ、何故クズハが、よそ者のジンにこれほど、引き止めたがるのかわからない。クズハの領主としての立場が悪いのはわかった。そういえばクズハの無事を喜んだのは、ミロクという男だけだった。

もしかしたらクズハは寂しいのだろうか?

それなら


「大丈夫、俺はクズハの味方だから。」


「なんでだ?」


「俺は可愛いやつの味方だからな。さっきも言ったろジュウザには絶対に払えないって、あれはそう言う意味でもある。」


クズハがこちらを向いて頭をジンに預けるように倒した。


「ジン・・・・私、本当は領主になんてなりたくなかったんだ。こんなガキに一族を纏めるなんてできるわけないだろ。それなのに慣習で九尾ってだけで領主に据えられて」


「・・・・・」


「ジュウザは好き勝手するし、今日なんか殺されそうになるし、もうやだ」


クズハの頭を抱きしめてやさしく撫でる。


「クズハ、俺の前では一度大泣きしてるんだし、我慢しなくていいんだぞ。」


「大、泣き、なん、て、・・・うっ・・・うわあああああん」


クズハはジンの胸に顔を埋めて我慢することをやめた。

クズハが泣き疲れて眠るまでジンは、クズハの頭を撫で続けた。



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