64話 世界の敵
異世界382日目
ここは、『無得と魔物の大地』
そして『無得と魔物の大地』を巡回中の部隊
「あ〜あ、今頃皇都では戦勝パーティーでもやってるんですかね、隊長」
「もう終わってるさ、それに俺達には関係ない世界の話だ。」
「確かに、そうっすね。でも、英雄様はお呼ばれしてますよね。」
「まあ、あれだけの戦功をあげたんだからな当然だろう。」
「隊長、あれって本当に英雄様がやったんですかね?」
「どういう意味だ?」
「いやね、どうも信じられないんですよ。ノワールサイ、八千頭撃破なんて人間技じゃないでしょう」
「お前は最近そればかりだな。確か片思いの女が最近英雄の話ばかりするんだったか。」
「うぐ」
兵士がその場に蹲る。
「まったく、英雄の活躍は竜騎兵が確認している。そんなことばかり言っているとその女に嫌われるぞ」
「・・・・ぐす」
どうやら手遅れだったようだ。
哀れな部下に憐憫の眼差しを向けていると
「隊長、人が倒れています。」
「なんだと、何人だ?状況は?」
「それが、奇妙なことに1人だけポツンと倒れているんです。」
確かに奇妙な話だ。ここは、数日前に防衛戦が終わってから混成軍1万がずっと見回りをしている。見回りは部隊ごとだから1人というのはおかしい。異常事態でも死体くらいはありそうなものだが。
「緊急事態かもしれん、急いでその者を保護する。案内しろ」
隊長は、部下12人を連れて向かう。
移動するとすぐに見えてきた。どうやら一般兵の男のようだ。
「おい、大丈夫か?」
意識がないのか返事がない。さっきまで愚痴を言っていた兵士が真っ先に助け起こす。
「生きてるか?目をあ」
ドス
「えっ・・・あ、う」
生存の確認をしようとした次の瞬間、兵士の胸を血のように赤い剣が貫いた。
赤い剣を持った兵士が剣を兵士の胸から引き抜いて立ち上がる。貫かれた兵士はその場に倒れる。
「貴様どこの部隊の者だ!」
「俺様はもう何処にも所属してねえよ。バーカ」
男が、剣を振り上げ魔術を行使する。
「『ダーク・ファイヤ・ボール』」
聞いたことのない魔術だ。男の頭上に黒い炎で出来た火球が出現する。男が剣を降り下ろすのと連動して黒い火球が放たれ部隊に襲いかかった。
「あぁあああぁあ」
「ぎゃあああ」
「ああ・・・あづ・・・」
三人の兵士が黒い炎に呑み込まれ焼け死ぬ。
男は黒い炎を纏ながら生き残りに向かって名乗る。
「よ〜く覚えておけ人間ども、俺様は『黒炎使い』のガーランド。お前達の敵の名前だーーーーー」
叫びながらもう一発黒い火球を放つガーランド
「て、撤退だ。至急本部に連絡する」
部隊長は、すぐさま敵わないことを悟りその場を撤退した。
何故か黒炎使いは、逃げる兵の背中には攻撃を加えず、その場も動かなかった。
「これで良かったんだよな?」
逃げた兵士が見えなくなるのを確認して、ガーランドが暗闇に、いや黒い半球に向かってしゃべりかける。
するとなんと黒い半球の中から三人の男と一人の女が現れた。ガーランドに驚きは無い何故ならガーランドもそこから来たのだから。
ちなみにこの怪しげな集団の内訳は少年、青年、中年、老人、妙齢の女性の五人だ。
「ええ、いいパフォーマンスだったわ。これであなた1人に人間達の注目が集まるでしょう。」
五人の中で唯一の女が発言する。
「それはそれは、楽しそうだなああ」
「理解できないな」
五人の中で一番小さな少年がそう吐き捨てる。
「そう言うな坊や、世の中色々なやつがいる」
老人が宥めるが
「そんなの俺の勝手だろ。」
少年は反発するだけだ。
「我々は別に仲間という訳ではない。ただ同種の力を与えられた。それだけだ。後はそれぞれやりたいようにやるだけだ。」
最後の男が発言する。集団の中で一番身なりのいい中年の男だ。
「それには同意だな。俺は、殺して殺して殺し尽くす。」
「ご自由に」
「我はあの獣を貰う。やりたいことがあるのでな。」
中年の男が言っているのは少し離れた所にいる魔獣のことだ。
「どうぞ、わたしはこれを貰います。」
女は黒い槍を黒い半球から取り出す。
「僕は、このペンダントを貰う」
少年は、逆十字のペンダントを取り出し。
「では、残り物はわしがもらおうかの」
老人は、儀式剣を半球から取り出した。
ガーランドの赤黒い剣や魔獣も黒い半球から出てきたものだ。
「それじゃあ、それぞれやりたいことも違うようだし、俺は先に行くぜ」
ガーランドがその場を後にする。他の者達も無言でその場を後にする。
この時、この世界の敵が、ジンの知らないところで暗躍を始めた。