62話 世界防衛会議:三回目
異世界373日目
三回目の世界防衛会議が開かれた。
もちろん今後の方針についてだ。
「ジン殿確認したいのだが、次の侵攻までどれくらいあるのですか?」
ジンは神様に貰った懐中時計もどきを見る。
「1187日後だな」
「1187日後ですか?1067日後ではなく?」
「ああ、そうなっている。どういうわけか120日遅くなっている。」
今度の侵攻は本来なら三年後のはずだ。この世界の一年は360日だ、三年で1080日間だったはずが1200日間になっている。
「その頃は、冬です。もしかしたら黒い半球が季節も考慮したのでは」
「まあ、これについては考えても仕方ないだろう。今から今後の課題に移りたいんだが」
「そうですな。」
それぞれ今後の課題をまず出していく。
「まずは、夜ですね。光の確保の方法を考えなければ、ジン殿だけでは三日間照らし続ける難しい。できたとしても赤い銃を思いっきり使えないのは痛い。」
「次に、空ですね。高空戦力があまりにも少ない。ジン殿と竜騎兵と竜だけでは三日間はきついでしょう。」
「ノワールサイの大群はどうする?先の戦いのようにジン殿を使い潰すわけにはいかないぞ」
どんどん課題がでてくる。全ての課題にジンが関わっているところがなんとも言えない。
以前の会議に比べてみんなのやる気が段違いだ。あの戦いを経験して王達の認識も変わったのだろう、これならこの後の提案も何とかなるかもしれない。
出てきた課題は、
夜の暗闇・高空戦力の不足・ノワールサイの突進・三日間という長時間の戦闘
その他にも色々あがったが大きなものはこの4つだ。
次に対策の話に移る
ノワールサイの突進は、堀を増やして軍の後ろにも作るということになった。
つまり、 堀<<軍<<堀 にするのだ。
ノワールサイをわざと通して堀に突き落とすというものだ。これならまともに突撃を防ぐ必要はなくなる。
人間は、細い板でも使えばいい、ノワールサイは重いからその程度なら大丈夫だ。
ノワールサイの対策はできたが、他の課題に良い案が出てこず会議は難航した。
「皆さん」
ジンに視線が集まる。その視線に以前のような邪魔者を見るような視線は無く期待するような視線になっている。
「皆さんに提案があります。」
「なにか考えがあるのかい?」
「似たようなものです」
「では、お願いする」
次の瞬間、ジンは今までの会話と関係のなさそうな、かつとんでもない提案を口にした。
「奴隷制度の廃止を提案したい。」
「なっなにを急に言い出すんだジンくん」
「いったいどうしたんだ?」
「今日は、今後の侵攻の対策の会議だぞ。そう言うことは、別のときに」
「関係ならある。」
ジンの断言に王達が黙る。そんな中アリシャだけが平然と
「どう関係があるの?」
「ありがと、アリシャ。今あなた方が話していた通り今後の課題が多いです。そして今度の戦い人間だけでは勝てないと私は考えています。」
「どうしてそう思うんだね?」
「高空戦力を今以上増強することはほぼ不可能です。これはお分かりですね」
「確かに、ほぼ無理だな」
「そのほかの課題も解決は難しいです。そこで私は亜人を引き入れることを提案します。空は烏族がいますし、夜目の利く獣人もいます。そのほかにも彼らは突出した能力を持っています。引き入れることができれば大幅に戦力を多方面に拡大できます。」
「彼らが協力するかね?」
「この戦いは世界を守る戦い、この世界に住む以上は亜人にも協力してもらうのが筋でしょう。」
「だが、それが奴隷制度の廃止とどう関係があるんだい?」
「今の亜人は人間の対して不信感を持っています。その原因が奴隷制度です。奴隷制度をそのままにしては、亜人と同盟が組むことは難しい。」
言うべきことはすべて言った。
「今私が言ったことを一度皆さんで良く考えてみてください」
ジンは席に座って目を閉じる。すると辺りで奴隷制度廃止についての議論が始る。
「奴隷を解放すると労働力がなくなる」
「解放した後はどうする。面倒を見るのか?」
「金が無いだろう。亜人の奴隷もいる。」
否定的な意見ばかりが出る。内心奴隷を手放したくないのだろう。ひそかに失望しながらも静かに待つ
見送りで意見が纏まろうとした時
「ちなみに、俺は奴隷制度が嫌いだ。奴隷制度が残る世界を守るつもりはない。アルベルトとストルにも手を引かせる。」
この瞬間、提案は提案という名の脅迫になった。
「ジ、ジンくん?」
「俺は、本気だぞ。確かにこの世界では階級制や王制は必要だろうが。首輪で相手の意思を無視する奴隷制度が必要だとは到底思えない。」
「まあ、元々クイント皇国は奴隷を禁止しているのでそれほど問題ではないのだが」
「クイント皇国には、相談役になって貰う。」
「やっぱりそうなるんだね。」
「わが国も奴隷制度を廃止しよう」
ヴァーテリオン帝国がジンの提案に賛同する。
「私の国も廃止します。」
すると他の九大国も賛同する。
ジンの言葉を聴いて亜人との同盟が必要なことも理解しているのだろう他の国々も渋々賛同し始める。
ジンの言葉が王達の自国への言い訳にもなるのも賛同し易くした。自国で反対されてもジンの責任にすることができる。ジンは会議の場で発言した言葉の責任は取らなければいけないし、ジン自身自分の言葉には責任を取るつもりだった。
ジンは会議が奴隷のこと程度で揺れているのを見て心の内で
(この様子だと魔人の話は控えたほうがよさそうだな)
と思う。九大国の王達には折を見て話してみるかな。
こうして重大な決定が下されたことにより、今回の会議はひとまず終わりということになった。
各国の王が席を立ち部屋を出る。そんな中カルモンド王国の新しい王、エクス王がジンに近づいてくる。
「ジン殿」
「なんだ?」
「父上の無礼、真に申し訳なかった。」
グスターのことか正直その後の戦闘が激しすぎて忘れていたくらいなのだが。
「ああ、そのことか気にするな。それよりお前は大丈夫なのか?」
「はい、私が王位を継ぐことは、すでに決まっていましたから。」
「そうじゃない、肉親の死は誰の死だろうとつらい。お前は平気か?」
「・・・そんなことを聞かれたのは初めてです。そうですね、父が死んでからの国を見て、本当に父はわが国にとって邪魔者でしかなかったのだな、と痛感しました。」
「お前としては?」
「悲しい、ですね。ただ、国のためにもなると思っている自分もいます。ハハ、酷い息子ですね私は。」
「お前は、王の資質を持っているよ。胸を張って玉座に座るといい戴冠式はまだなんだろう?」
「ええ、ですが。次の会議で奴隷制度廃止の細かい決定をしたら戴冠式を行いたいと思ってます。今は戦時と変わらないので国内だけでになりますが」
「そうか、頑張れよ」
「ジン殿はこれからどうするのですか?」
「俺は世界を回るつもりだ。色々足りないものも見えてきたしな。」
「いいですね。僕も一度は旅に出てみたいと思ったことがありますよ。あれ?でも会議ではそんなこと一言も・・・いいんですか?」
「俺は、どこにも所属はしていないからな。後で九大国の王には話すがあくまで報告で相談じゃあない。帰ってきたら土産話をしてやろう」
「楽しみにしています。それでは、失礼しますね」
「ああ、じゃあな」
彼が王になればカルモンド王国も良くなるだろう。
それから1週間後、正式に奴隷制度廃止が決定された。
奴隷差別はすぐには無くならないだろうが、これはジンにとって大きな一歩だ。