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聖痕使い  作者: 中間
第一章:人間の国
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56話 第1回 世界防衛戦:贈り物

開戦から18時間が経過した朝の6時頃


クリスとシャルロットは数分してから意識を取り戻した。


「身体の調子はどう?」


ジンがいい笑顔で質問する。


「・・・疲れが、取れていますわ」

「なんでしょうこの敗北感は。」


「直接は、もっと気持ちいいんですよ。」


イリヤが、二人に耳打ちする。


二人は、何を想像したのか、顔を真っ赤にして俯いてしまった。初々しくて可愛いらしい。


「【ジン君、聞こえるか?】」


「どうした?」


「【東方軍に魔物が集中し始めた。とにかく来てくれ】」


「わかった」


「当たってほしくない予想ってどうしてこう当たるかな。君達も来てくれないか。きっと戦力が必要になる。」


二人は、ジンの言葉に頷いて立ち上がる。



開戦から19時間が経過した朝の7時になり辺りがすっかり明るくなった頃に、ジンたちは東方軍に着いた。


東方軍の戦場では、5千の牛鬼が防衛線を作っていた。その後方では黒い地面が見える。その黒い地面はノワールサイの大群だった今までとは桁が違う数千のノワールサイだ。


「クルトどうなっている!」


「ジンくんよく来てくれた。」


「それよりあれは何なんだ?お前も警戒はしていただろう」


「それが、急に東方軍以外のところから牛鬼が集まってきて防衛線を張ったんだ。それもほとんどの個体が盾を持っている」


「堀は?」


「無効化されている。さらに後ろには、大蛇が控えているのを確認している。」


「最悪だな。あれが突っ込んできたら、防げないぞ」


「ああ、今腕利きを集めているが、一度ワームの対策に三方に散ってしまっている。」


「これが狙いだったのか、これではっきりしたな。黒い半球には、何かしらの意思のようなものがある。そして高度な作戦を立てられる。神のやつはそんなこと言っていなかったぞ。最悪だな」


「確かに最悪だな。何か策はあるかい?」


「・・・ちょっと待ってくれ、考える時間をくれ」


突っ込んでこられたら負けだその前に終わらせなければいけない。牛鬼はどうとでもなる。ノワールサイを潰せればいいんだ。時間稼ぎがいる。


「アルベルトは?」


「ここいいるよ、ジンくん」


「良かった。ブレスは撃てるか?」


「二発ぐらいなら何とか」


「上出来だ。クルトまず牛鬼を殲滅してくれ。俺がノワールサイを殲滅する。テツ付いて来てくれるかい?」


「私はいつも主と共にあります。」


テツは、当たり前という顔をして頷く。


「ちょっと待ってくれ、そんなことが可能なのか?」


「俺を信じろ」


「ご主人様、私も」

「主、私も」

「お兄様!」

「ジン様、私も連れて行ってください」


ジンの仲間達が次々に同行を申し出るが


「ダメだ。危険すぎる。君達では間違いなく死ぬ。生き残れるとしたら」


ジンは天幕の中を見渡して。


「俺だけだ。」


ジンの言葉に皆、押し黙る。そこにアルベルトが近づいてきて小声で。


「(ジンくん、奥の手を使うのかい?)」


「(・・・使う)」


「(あれは、長時間戦闘には向かない)」


「(それでもだよ。)」


東方軍、指揮官のクルトが


「ジンくんにすべて任せるよ。皆には無責任と言われるだろうが、我々には他に手立てがない。・・・また、ジンくんに頼ることになってしまったな。」


「次に活かせ三年後がある、それじゃあ説明するぞ、戦いの流れはこうだ」


ジンが皆に説明をすると。


「ジン様」

「主、ご再考を」

「お兄ちゃん」

「ご主人様は、死ぬおつもりですか」


仲間がジンを引き止める。奥の手を知らない仲間には、余程無謀な作戦に聞こえたのだろう。


「大丈夫だ、奥の手を使う」


「奥の手?」

「でも、」


いきり立つ仲間をアルベルトが


「ジンくんに、任せなさい。」


「お父様!」


「ティリエル、アルベルトは俺の奥の手を知っているからの言葉だから、そう責めるな」


「・・・すみません」


「さあ、いくぞ。時間がない。クルトすぐに牛鬼を殲滅してくれ。そのあと鶴翼の陣を作ってくれ。一匹も逃がすなよ」


「わかっているよ」


「俺は、時間が来たら出る。その前に、他の王にも説明がいるな。クルト任せた。俺は準備してくるから」



しばらくして、各国の王族が東方軍の戦場に到着する。クルトが各国に作戦を話す。するとラインツ王が


「・・・できると思っているのか?」


「できる。それに他に方法がない。」


「素通りさせられないのか?」


「三年後、後ろから攻撃を受けかねない、もしそうなったら確実に負けるぞ。」


「そう、だな。結局我々は彼に頼るのか。」


「くそう!」


キリガネが、嘆く。

トランド王が


「シャール、アレを英雄殿に届けてくれ」


「わかりました。」


シャールが天幕を出る。


「皆さん、配置に着いてください。これがおそらく最後でしょう。我々がジンくんの負担を軽くしましょう。」




シャールは、ジンを探して陣地を走り回る羽目になった。居場所がはっきりしなかったのだ。目撃証言を元にジンを探して見つけた場所は馬車の中だった。


「ジンさん、こんなところで何をしているんですか?」


そこには、台座に座って震えているジンがいた。顔色も悪く見える。


「えっ」


「・・・見られたか」


「だ、大丈夫ですか?」


「大丈夫。ちょっと怖いだけだよ。」


「怖い?」


「ああ、怖いんだ。確かに俺には力がある。大抵の事ならできてしまう力が、だからだろうな、俺は今まで命の危険を感じる戦いの経験がないんだ。だから、これからある死ぬかもしれない戦いが怖いんだ」


シャールにとってジンは、まぎれもない英雄だ。それは今でも変わらない。一度は命を助けられてもいる。

しかし、英雄としてしかジンを見ていなかったシャールには、目の前のただの少年に掛ける言葉が出てこなかった。


しばらくして。


「あー落ち着いた。シャールも座ったら。」


「あ、はい」


ぎこちなくシャールがジンの隣に座る。


「さっきの秘密にしておいてね。」


「な、んで、ですか?」


言葉に詰まりながら質問する。


「俺は、連合軍を作った張本人だからな。象徴みたいな意味もあるから、ああいうのは見せられない。」


そこには、いつもの『英雄ジン』がいた。今のシャールには、それがとても脆く見えた。


脆く見えたからか、シャールにはジンが死んでしまう気がした。

だからか、シャールはとんでもないことを言った。


「い、生きて帰って来たら、一つなんでも言うことを聞くわよ!」


言った内容もすごいが、このタイミングでは、死亡フラグになりかねないと思うのだが。


「なんでもだね」


「え、ええ、余程のことではない限りは。」


「わかった。絶対に帰ってくるよ。」


シャールの頭を撫でる、気持ちよさそうに目を細める。


「あの、これ餞別せんべつ。」


シャールが赤い紙の束を五つ取り出した。


「これは?」


「爆符五十枚を束にした物よ。爆符は、火炎系の上位の魔術『エクスプロージョン』を込めた魔符よ。」


「高いんじゃないか?」


「爆符1枚、1万ギルぐらいね。」


5束×50枚×1万ギル=250万ギル


ジンがこの世界で元王国領の奴隷推奨派ゴミ掃除をして稼いだのが100万だった。その2.5倍だ。日本円に直すと二千五百万円相当だ。


「いいのか?」


「いいの。クラフト商国なんて今回大した事していないんだから。その、頑張ってね」


「ありがとう、シャール」


もう少ししたら決戦だ。

決戦前にシャールが贈った言葉と魔符は、ジンに力を与えた。




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