53話 第1回 世界防衛戦:新たな力
開戦から12時間が経過した。大侵攻も半分が終わったことになる。
ジンが『黒飛板』を確保してからしばらくした頃、またしても魔鳥が黒い半球から出てきた。
それも今までとは比較にならない数だ、その代わりに地上の魔物は激減していた。
東方軍の空には、ジンとアルシナだけがいた。ティリエル達は、別の軍の救援に向かっている。
「さっそく来たか。(グスター王は後回しだな)アルシナさんは、俺が撃ちもらしたやつを頼みます。」
「わかりました。」
ジンは、『黒飛板』の上でこう言った。
「さあ、これから俺の『本気』を見せよう」
ちなみにジンにとって万の軍勢の戦争も、銀龍アルベルトとの戦いも本気を出してはいなかった。
正確には、本気を出せなかった、ということだが。
アルシナは、これから何が起きるかとても興味を持っていた。なんせ最初に見たのが、五千の魔鳥を消滅させた『万雷』だ。戦士としてジンの本気に興味を持つのは当たり前だろう。
この時、アルシナはジンの仲間ですら聞いたことのない。ジンの『詠唱』を聞くことになった。
「【我は創造する、源は火、形は銃、力は魔弾、・・・精製、『聖痕武器 紅炎銃・プロミネンス』】」
詠唱を始めるのと同時にジンの火の聖痕から赤い光が溢れ出てきてジンの前に、紅い光球ができる。火の精霊も今までにない密度で光球に集まっている。詠唱が終わると同時に光が弾け、中から紅を基本とし色彩で砲口は2つ、装填数は六発の大きな紅い銃が現れた。ジンは落ちてくる銃を右手で握る。
ジンが大侵攻に備え、長時間戦闘用に作り出した『聖痕武器』の初お披露目だ。
聖痕の発動は強力だが、発動中は何もしなくても力を消耗するし発動を止めると再発動に時間がかかる。その弱点を無くすための『聖痕武器』だ。
「魔弾装填、『灯火弾』」
ガンガンガンガン
ジンは、装填の言葉と同時に四発の『灯火弾』を撃ち出した。放たれた魔弾は、東西南北の空へ飛び、それぞれの軍の中央上空付近で止まり強烈な光を放ち始めた。
戦場は、4つの小さな太陽を迎え昼間のように明るくなった。
「こんなに、あっさりと」
アルシナは、自分たちを苦しめた闇がこうもあっさり解決したことに、愕然としていた。
「魔弾装填、『追火弾』」
ガガガガガガッ
六発の魔弾が連射され魔鳥に襲い掛かる。魔弾に気付いて魔鳥が射線から逃げるが、魔鳥の近くで魔弾が方向を変え魔鳥に向かう。六発の魔弾は、六羽の魔鳥に直撃し魔鳥を撃ち落した。
「『追火弾』を常時装填」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ
『追火弾』は、敵を追尾する必中の魔弾だ。ジンは絶え間無く魔弾を打ち出し、打ち出した弾数と同数の魔鳥を撃ち落としていく。
「すごいな、これは」
アルシナは、その様を側で見せられて、魅せられていた。
「【ジンくん、南方軍側にノワールサイが現れた。迎撃してくれないか?】」
腕輪から声が聞こえる、クルト皇だった。
「わかった。空は自分たちで守れよ。この明るさならやれるだろ」
「【ああ、大丈夫だ。それについても感謝するよ】」
「アルシナさん、ついてきて」
「了解した。」
「アルシナさんっていつもそんな喋り方なの?」
「ああ、変だろうか?」
アルシナにとってジンは初めての気になる異性だ、内心不安に思う。
ジンに言われて自分の男っぽい喋り方が気になり始める。
「いいや。俺は良いと思うよ。」
「そ、そうか」
アルシナにとって男の一言一言に一喜一憂するのも初めてのことだった。
「じゃあ行こうか。」
「ああ、行こう。」
二人は、南方軍の上空に移動してきた。
「魔弾装填、『連爆弾』」
ジンは、ノワールサイの群れに六発の魔弾を撃ち込んだ。
六発の魔弾が同時に爆発してノワールサイの群れを吹き飛ばした。
威力も申し分なしだ。
「アルシナさん、どうだった?」
「すごいの一言だったよ」
「そうか、良かった。それじゃあこのまま駆逐するかね」
ジンは、その後も紅炎銃・プロミネンスを駆使して魔物を殲滅して回った。
この時ジンは、空にいたため気付くことができなかった。地下で魔物が蠢いていることに。
ジンはこの時、気付けなかったことを後で悔やむことになった。
開戦から14時間、真夜中の2時にそれはやってきた。
最初に異変に気付いたのは、南方軍の前衛部隊を指揮していた。
テンプル騎士国の王女で『剣姫』の異名を取るクリス王女だった。
クリスが気付いたのは、偶々部下に、土の精霊術師がいたからだ。
「姫様、これは」
「わかっています。すぐに父上に知らせましょう。」
クリスが通信用の腕輪で連絡しようとした時、突然地面が隆起し始めた。
「遅かったようです。」
ボコッボコボコッ
と地面から巨大なワームが姿を現した。その姿は肉でできた丸い筒に、牙が生えたような魔物で見た目はかなり気持ち悪い。ランクはSランク、それが三体だ。
ワームが発生したのは、西方軍、南方軍、北方軍それぞれに3匹ずつだ。
出てきたワームは、近くの兵士を数人丸呑みして地下に戻った。
三つの軍は大混乱に陥った。ただでさえランクSの魔物は脅威なのに、今は夜中で同時に三匹だ、平静でいられるのは、本当の強者とバカだけだ。
「俺は南方軍のところに行く、北方軍の方も何とかするから、西方軍には遊撃部隊を向かわせて」
ジンは、指示を出しながら、『灯火弾』の効果が弱まったので、再度『灯火弾』を撃つ。
「【わかりました。】」
今連絡していたのは、いち早く状況を知らせてくれた東方軍のカルディアだ。クルト皇は、万が一のために指揮をしているそうだ。クルトには東側だけワームが出ていないことに何か思うところがあるようだ。
「アルシナさんどうしますか?自軍に戻りますか?」
「できれば、一緒に行かせてくれませんか」
「いいんですか?」
「ワームに対して我々竜騎兵では、地中のワームには太刀打ちできませんから」
「わかりました。それでは、急ぎましょう」
「ジン殿は、いつもその口調なのか?」
「・・・いいや、もっと軽い感じだな」
「そちらの方がいいかな」
「わかった。よろしくアルシナ」
「よろしくジン殿」
南方軍は大混乱に陥っていた。安全な場所がわからず兵士は右往左往していた。どこから出てくるかわからない敵というのが、恐怖を加速させる。
ボコッ
またワームが地面から現れて兵士に襲い掛かった。
「魔弾装填、『飛燕弾』」
ガガンッ
高速の二発の魔弾がワームを直撃する。しかしワームは、直撃したときに少しよろけただけで、何事もなかったように地中に逃げ込んでしまった。
『飛燕弾』は速度重視で威力が低いSランクのワームを仕留めるには火力不足だったようだ。
その後も他の魔弾を試すが、ワームはジンの近くには現れないため遠距離から撃つしかないのだが『追火弾』は、穴の中まで追いかけるが中で誤爆してしまう。『連爆弾』は、爆発する前に地中深くに逃げられた。『灯火弾』に殺傷能力は無い。最後の魔弾は、周りの人間を巻き込んでしまう。
紅炎銃・プロミネンスと、ワームの相性は最悪だった。
『聖痕武器』の弱点は、汎用が利かないことだった。
さて、どうするかな。
聖痕武器 〔スティグマ・ウェポン〕
紅炎銃・プロミネンス
五種類の魔弾
『追火弾』
追尾型の魔弾、必中の魔弾(地中の敵には当たらなかった)
『灯火弾』
補助型の魔弾、夜の暗闇を照らす光源を作り出す
『飛燕弾』
高速型の魔弾、威力は低い
『連爆弾』
爆弾型の魔弾、六発の魔弾を同時に爆発させる。高威力、広範囲の魔弾
『???』
??????、威力が高すぎるため、未使用