46話 世界防衛会議:二回目
異世界260日目
魔物の大侵攻までちょうど100日間になった日に、各国が集まっての『世界防衛会議』の二回目が開かれることになった。
今回の主催はまとめ役に決まったクイント皇国だ。もちろん以前の主催者のジンも参加することになった。
ジンはこの会議に、レティーシアとフェリスを同行させている。
今回の会議では、確認が主なものになった
「軍は東西南北に分けました。」
今回の進行役は、連合のまとめ役になったクイント皇国のアッシュ皇子がやっている。
「これが内訳になります。ここでは小国の兵を連合兵とさせて頂きます。」
東方軍は、クイント皇国10万とウルティア国3万、連合兵2万の15万
西方軍は、ヴァーテリオン帝国8万とクラフト商国5万、連合兵2万の15万
南方軍は、リニヨン教国6万とテンプル騎士国6万、連合兵3万の15万
北方軍は、ファーランド王国5万とヤマト国5万とかカルモンド王国5万の15万
「この合計60万の兵が、主力になります。さらに遊撃部隊として冒険者と連合兵の混合で5万を用意しています。さらに独立部隊として1万を用意しています。」
全部で66万の軍隊か、やっとこれだけの力を集めることができた。
「軍の責任者は、東方軍をクイント皇国が、西方軍をヴァーテリオン帝国が、南方軍をテンプル騎士国が、北方軍をヤマト国が、担当します。そして遊撃部隊をラシード将軍にお願いします。独立部隊は、ジン殿にお願いします。」
「ちょっと待った。」
このタイミングでグスター王が待ったをかけた。
「ジン殿に独立部隊を任せるのは反対です。」
「何故ですか?グスター王もジン殿の実績はご存知でしょう」
他の王たちも怪訝な顔をグスター王に向ける。グスター王はそれらの視線を無視して。
「ジン殿は、一度会議で決まった役割を放棄している。そんな者に1万の部隊を任せていいとは思えん。」
周りの王からも
「確かに少々無責任な気がしますな」
「それにジン殿はあくまで平民ですし」
「何か役職についているわけでもないしのう」
等と、次々にジンに対する不満の声が出てきた。今不満を口にしているのは小国の王達だ。彼らは小国とはいえ一国の王たちだ、冒険者にあれこれ言われるのに、抵抗があったのだろう。今までは、大国がこれといってジンに対して何も言わなかったので黙っていたが、カルモンド王国がジンを非難したことで小国の不満が表に出てきたのだ。
「それに実績といっても皇国内のことで、我々にとって利益ある行動を取ったわけではありません。」
「確かにそうですな」
「今のところジン殿には兵を出せと言われただけだな」
「ジン殿は何を考えているかわからないところがありますね」
「しかし、ジン殿はグーロム王国の蛮行を阻止した実績がある。これはあなた方々にとっても意味のあることだったはずです。」
アッシュがジンを擁護する。
グーロム王国の奴隷推奨の犠牲になっていたのは、そのほとんどが小国だった。グーロム王国は小国をいくつも食らって大国になったのだ。小国の王達は、グーロム王国に怯えていたのは確かで、ジンがグーロム王国を潰した時には感謝していたのだ。
「それは確かにそうですが。」
「グーロム王国を、潰したことは感謝しているが」
小国の勢いは治まったが、グスター王はこれを待っていたと言わんばかりに
「確かにジン殿はグーロムを滅ぼした実績がある。」
グスター王はそこで終わらず。
「だが、ジン殿はグーロム王国の王族、ミリー王女を匿っているようですな」
「ほ、本当ですか?ジン殿」
これにはカルディアをはじめとした大国の代表も驚いている。
「・・・」
ジンが黙っているとグスター王が続ける
「異世界から来たジン殿は知らないかもしれないが、国が滅んだときその国の王族は全員が斬首なのだよ。つまりミリー王女は本来なら生きていてはいけないのだよ。それに、グーロム王国に酷い目に合わされた人は多い、王女の生存を彼らは認めないだろう。それを君は匿っているこれは重大な裏切りだ」
「それは本当ですか?ジン殿」
「それは、あんまりではないですか」
ジンにとってそれらは理解ができない感覚だ。何故親がやった責任を子どもが取らされるのか理解できない。それがこの世界の王族の責任の一つだとしても、それは歪んでいると思う。
「そして、そこにいるのが、グーロム王国の王族の一人ミリー王女だ」
グスター王がジンの隣にいるフェリス指差して宣言する。フェリスの顔色が悪くなっていく。
周りの王たち、これには言葉を無くした。それもそうだこんな場所に本人を連れてきているとは誰も思わない。
「・・・・・」
「何か言ったらどうなんだ?ジン殿」
「ああ、終わりましたか」
「貴様ふざけるのも大概にしろよ」
おお、ジン殿から貴様に戻ったよ。これだけで余裕がなくなるのか、やっぱり小物だな。大体俺をここから排除してこれからどうするつもりなんだか。そこは一度忘れて相手をすることにする。
「私としては、どうして親がやったことを子どもが責任を問われるのかわからないんですよねえ」
「それが王族というものだ、自らの命で物事を終わりに導くのも王族の務めだ」
「年端もいかない。何か罪を犯したわけでもない者を殺すことが正しいと?」
「そういうものだ。」
「この場に、フェリスのことを知っていた人はいるのですか?」
誰からも返事はない。ようするに知らなかったのだろう。
「それなら問題ないでしょう。そのまま知らないものとしてすごせばいい」
「そんなことが認められるわけがないだろう」
「別に認めてもらう必要は感じませんね。」
「ふん貴様ならそう言うだろうな。だから、私は貴様ではなく別の者に独立部隊を任せるべきだ、と言っているのだよ。」
これに多数の賛成あった。そこでジンが
「ああ~、盛り上がっているところ悪いんだが、あなた方は勘違いしている」
「・・・何をだね」
「フェリスはグーロム王国とは無関係だ」
「な、なにを言っている。どういう意味だ?」
「フェリスは王女ではないということだ」
「ふざけるな!私はグーロム王自身から娘だと紹介されたのだぞ、それを」
「騙されたんじゃないか。この子はただの村娘だよ。村を焼かれ城に監禁されていたのを助けたんだ」
「な、何のためにそんなことで嘘を」
「さあ?、エクス王子と結婚させるためとか、王族の肩書きはいろいろ使えるんだろ」
「何を証拠にそんなことを」
「じゃあ聞くがあなたは何か証拠を持っているのか?」
「だから私は直に聞いたと」
「それは証拠には、ならないでしょう。(馬鹿かこいつは)なにより何故他の王の方々はフェリスの存在を知らないのですか?」
「そ、それは」
「その時点でフェリスが王女である可能性は限りなく低いお思うのですが。フェリスは、ただの料理好きの村娘ですよ。今度振る舞いましょうか?」
「確かに私もグーロム王に子どもがいるなど聞いたことがありませんな」
クルト皇帝の言葉を皮切りに
「確かに王女というのは不自然ですな」
「決め付けるのは早計でしょう」
「料理が得意な王女とは聞いたことがありませんな」
「お兄ちゃん」
フェリスがジンの首に抱きつく。
そのフェリスを見てクルト皇帝が、
「そんなに小さな女の子を答えが出ない話で不安させることもないでしょう。独立部隊は、ジン殿に任せるということで」
「し、しかし」
グスター王が食い下がるが
「元々この1万は、グーロム王国の戦闘奴隷を中心とした者たちで、皆ジンの元で戦うことを望んでいる者たちだ。ジン殿の下で戦わせるべきでしょう。」
「・・・わかった。好きにしろ」
もう無理だと理解したのだろう、グスター王は自分の席に座った。
この会議では、グスター王に恥をかかせる事になってしまったが、別にいいだろう。正直グスター王は、何かと突っかかってくるから邪魔なのだ。適当な時にエクス王子と入れ替えたほうがよさそうだな。
その後は、細かい指揮系統を決めた。正直知らん名前ばかりなので省く。
これ以降は、何事もなく二回目の『世界防衛会議』は終わった。