44話 婚約と和解
異世界229日目
アッシュに、ギルドとの連携を頼んだ(押し付けた)後、城内を歩いていると、アリシャに見つかった。前から思っているのだが、もしかして待ち伏せされてるのだろうか。
「ジン、一緒にお昼食べよ。」
「いいよ」
挨拶などをすっとばしたアリシャの申し出をジンも快く承諾する。
アリシャの部屋で食べることになり、アリシャの部屋に向かう。
その途中で見覚えのない禿頭の男とすれ違った。その禿頭の男に何故か憎しみと殺意のこもった視線を向けられた。
部屋に着いてからアリシャに聞くと
「ジン、それはちょっとひどい。あれはラウル」
「ラウル?ああ、あの身の程知らずか、髪切ったんだな。」
「・・・ジンが髪の毛を燃やしたんだよ」
さすがにアリシャもラウルを哀れに思うが、よく考えたらあんなのどうでもいいので、これからやることに気持ちを切り替える。
「ジン指輪は、つけてる?」
「もちろん」
「ありがとう。実は今日は私の誕生日」
「えっ、ごめん知らなかった。」
「気にしない。ただお願いがある。」
「なんだい、今なら大抵のお願いは聞くよ。」
「椅子に座って、私の手を握って目を閉じて欲しい。」
「わかった。」
アリシャに対する申し訳なさのため、ジンは奇妙なお願いをあっさり聞いた。
椅子に座り目を閉じた。
そのまま十秒ほど待つと指輪が熱くなってきたと思ったら膝にアリシャの掌を感じた。
チュッ
驚いて目を開くとアリシャの唇がジンの口に触れていた。
普段無表情のアリシャが嬉しそうに笑顔を見せる頬は少し赤い。
「契約完了」
「契約?」
「うん、婚約」
「こ、婚約?・・・何故こんなやり方を?」
「私は公務でジンの傍にいられないから。ジンは、契約の破棄ができるんだよね。もし嫌なら破棄して、嫌じゃなければ・・・キスして」
チュッ
アリシャを抱きしめてこちらからキスをする。
「嬉しい」
アリシャは、静かに喜びを言葉にする。
「ジン、一つやりたいことがある。」
「なんだ?」
「ギルドに連れてって」
今のジンには何気にハードルが高い。しかし今日はアリシャの誕生日ということなので。連れていくことにする。
「わかった。一度屋敷に寄るけどいい?」
一応テツを連れていくためだ。
「かまわない」
「それじゃあ、行こうか」
屋敷に戻ると
「お帰り、ご主人様」
「お帰りなさい、ご主人様」
キリとユリが出迎えてくれる。
「そちらの方は?」
「彼女はアリシャ、この国の第一皇女だよ。」
「こ、皇女様、は、はじめまして」
「第一皇女?にしては小さいね」
「キリ失礼だよ」
「わたしエルフのクォーター、何故か成長が遅い」
「なんだか私たちみたいですね。私は小人族なんですよ。」
「おかげでご主人様に子ども扱いされがちなんだよねえ」
「親近感がわく」
「私たちいい友達になれそうですね。」
三人娘はすぐに仲良しになってしまった。
それにしても知らず知らずの内に子供扱いしていたのか、これからは気を付けよう。
「ご主人様お願いがあるの、私たちギルド登録がしたいの」
「したいんです。」
「・・・なぜだ?俺はストルに無事に村に帰すと約束している。あまり気が進まないんだが」
「その、ただご主人様と一緒にいたくて」
「ダメ?」
「う~ん」
「別にいいと思う。屋敷に閉じ込めるのはどうかと思う」
アリシャがキリとユリを擁護した。
確かにアリシャが言うことも、もっともだここは二人の意思を尊重しよう。
「わかった。ただ当分は外に出るときはランクA以上の人と一緒な」
「「は~い」」
その後テツを探してからギルドに向かう。
ジンがギルドに入るとそこに静寂が生まれた。
酒を飲んでいた男たちが近づいてきた。一目で酔っているのがわかるほど顔が赤い。
「てめえか、俺たちの自由を奪おうとしている英雄様ってのは」
「さあな」
男の一人がジンの肩を掴む
「しらばっくれんじゃねえぞ、調べはついてんだよ」
「なら最初から聞くな、面倒なやつだな。俺は今ギルドのことで機嫌が悪い文句があるやつは全員かかって来い。」
「上等だ。全員で袋叩きにしてやる。」
ギルド内の人間のほとんどがその場に立ち上がった。
ジンは冒険者たちを見渡し
「ギルドマスターに言った言葉をそのまま送ってやる。自由ってのは、責任を果たした者だけが与えられるものだ。お前の言う自由はただのわがままなんだよ」
男たちが一斉に飛び掛ってくる。
「『竜巻』」
ジンとキリ達を囲むように竜巻が発生した。近くの者は宙に巻き上げられ、離れている者は吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。竜巻が消えると巻き上げられていた、男達は平衡感覚がなく受身も取れずに地面に叩きつけられた。
ジンは悶えている男を踏みながら受付に進み
「登録がしたいんだけど」
「ひっ・・・えと、その」
すごい怯えようだな。少し傷つく
「あー、女の子には手荒なことはしないから」
「は、はい、すいません。どうぞこちらに」
三人の登録は滞りなく終わった。
名前 アリシャ 種族 人間 性別 女
ギルドランク E
能力ランク 総合C 気力D 魔力B
チーム 『世界を結ぶ者達』
称号 皇女 エルフのクォーター ジンの婚約者
アリシャは、何故か満足気だ。
名前 キリ 種族 小人族 性別 女
ギルドランク G
能力ランク 総合E 気力C 魔力F
チーム 『世界を結ぶ者達』
称号 ジンの娘
名前 ユリ 種族 小人族 性別 女
ギルドランク G
能力ランク 総合E 気力C 魔力F
チーム 『世界を結ぶ者達』
称号 ジンの娘
「「私達ご主人様の子供じゃない(です)よ!?」」
キリとユリが叫んでいる。それにしても本当に子ども扱いしていたんだな。
「ジン殿」
キリとユリを見て和んでいるところに不愉快な声が聞こえた。
「・・・なんだ?」
無視しようかと思ったが、アリシャ達の前だから返事だけはした。
「この前は申し訳なかった。」
顔を向けるとそこには頭を下げる『ランスロウ騎士団』のリーダー格の三人がいた。
「でっ」
我ながら扱いが酷い。
「私のチームは元グーロム王国の騎士だった者達ばかりです。」
突然の身の上話だ、これには面食らう
「我々は、国のやり方についていけず国を捨てました。自分たちは正しい道を選んだと昨日まで思っておりました。」
チームリーダーは、決意を込めた顔をこちらに向け
「しかし、それは間違いでした。我々は、国民を見捨ててただ逃げていただけだと、ジン殿の言葉で気づきました。ですから、我々は国民を救ってくれたジン殿の力になりたいのです。お願いします。我々に世界を守るための戦場をお与えください。」
大人三人が頭を下げてきた。彼ら騎士にとって頭を下げることはそう軽いことではない。ジンは彼ら認めることにした。
「・・・わかったよ。この前のことは、水に流す。ただ今の責任者はアッシュ皇子だ。まあ、口利きぐらいはしよう」
「ありがとうございます。」
また頭を下げるチームリーダー
「それは止めろ。あんたの方が年上なんだからな」
「そうだな、わかった。ところでジン殿、友好の証にギルドカードを見せあわないか」
「まあいいが」
「それでは、我々から」
名前 カロルド 種族 人間 性別 男
ギルドランク S
能力ランク 総合S 気力S 魔力S
チーム 『ランスロウ騎士団』
称号 特一級騎士 剛槍 超越者 到達者
名前 アーマイン 種族 人間 性別 男
ギルドランク A
能力ランク 総合A 気力S 魔力B
チーム 『ランスロウ騎士団』
称号 一級騎士 到達者
名前 ヤッシュ 種族 人間 性別 男
ギルドランク A
能力ランク 総合A 気力A 魔力A
チーム 『ランスロウ騎士団』
称号 一級騎士
「剛槍?」
「あれ知らないかい。Sランクになったら。ユニークな称号がつき易いんだよ。」
「そうだったのか、それじゃあ俺のだな」
名前 ジン 種族 人間 性別 男
ギルドランク A
能力ランク 総合S 気力SS 魔力A
チーム 『世界を結ぶ者達』
称号 聖痕使い 精霊王の友人 救世主 英雄 11人の女に愛される男 奴隷の解放者 精霊術師 準貴族 超越者
「き、気力、がSSだって。君もSランクじゃないか。」
まあ驚くわな。
「そんなに驚くなよ。」
「ユニークな称号が多いですね。」
「これに、さらに精霊術があるとは」
ヤッシュとアーマインも驚いているようだ。
「なあアリシャ、『準貴族』ってもしかして」
「皇族との婚約の副産物だと思う」
「もしかして結婚したら皇族?」
「もちろん」
王侯貴族か、なんだかドロドロしたイメージしかないぞ。
「まあいいか、じゃあな『剛槍のカロルド』俺は屋敷に戻るよ。三日後ぐらいに城に行ってくれ、話は通しておくから」
「わかったよ『英雄ジン』」