43話 ジンとギルド
異世界222日目
皇都に戻ってきて、最初にしたことはこれからについての会議だった。
結局皇都での会議で決まった連合軍内の分担は
クイント皇国が、まとめ役と拠点設営を、
ヴァーテリオン帝国、テンプル騎士国、ヤマト国が軍部を、
クラフト商国、カルモンド王国、ファーランド王国が財務を、
ウルティア国、リニヨン教国がそれ以外を、
ジンは、冒険者ギルドを動かすように頼まれた。
これは、国ごとにそれぞれ準備をやってしまうと9ヵ国で帳尻合わせが必要になる。それでは、侵攻に間に合わないので仕方なく分担したのだ。
ジンが冒険者ギルドを担当するのは、国がギルドに介入するのが難しいからだ。
冒険者は自由を重んじるため、国が介入するのを嫌うのだ。そこで立場が微妙なジンが担当することになった。
そのあと各国の代表達は、一度国に戻った。自国の状況の確認と軍の編成と人材を集めるためだ。これから設営する拠点に各国の武官、文官が集まるそれを指揮するのは、クイント皇国の役割になる。
中立の意見を聞くためにジンが呼ばれることはあったが、基本的にジンは自分のことに専念することになる。
ジンは、自分の屋敷に戻ってまず、クレアさんに会いギルドについて学ぶことにする。
「ギルドマスターさえ押さえればいいのかな?」
「大抵のことは、ギルドマスター1人でいいですが、大規模に動かすなら支部長や有力チームにも話をしたほうがいいでしょうね。」
「チームにも、ですか?」
「はい、チームランクがAランク以上に限りますが。」
「チームランク?」
「ギルドがつけるチームのランクです。ギルドカードの機能とは、関係ないのでギルド内でしか通用しませんが」
「俺のチームは?」
「チームランクは、Aですね。一年たらずで、これは異例の早さですね。」
「皇国で有力なチームは、どこですか?」
「有力チームは、二チーム。ランクAの『ランスロウ騎士団』と『双獣の双炎』ですね。」
「その二チームと話せますか?」
「可能でしょう。ジンさんは気にしていないようですが、あなたのチームも有力チームなんですからね」
クレアは面白そうに笑って
「本当に名声に興味がないのですね」
「色々面倒だからな、名声は必要な分だけでいい」
「そうですか」
「クレアさん、頼みがあるんだが。できるだけ早くそいつらと話がしたい、なんとか出来ないか?」
「確約は出来ませんが、やってみます。」
「お願いします。」
「私も、ジンさんにはお世話になっていますから。それでは、今からギルドに行ってきますね」
「今からですか?」
「早い方がいいですから」
もう少しで日が暮れる時間だ。
しかしできるだけ早く、と言ったのはこちらだここは甘えよう。
「ありがとう、クレアさん」
異世界228日目
クレアさんのおかげでギルドマスターと二つのチームのリーダーと会えることになった。
今ジンは、彼らが待つ部屋へ向かっているところだ。クレアさんにこれから会う連中のことに聞いてみる。
「そうですね。ギルドマスターは、元冒険者で自由を大事にするお方ですね。国を嫌っているわけではないですが、口を出されるのを嫌います。チーム『ランスロウ騎士団』は騎士道を重んじる方々です。冒険者と騎士を混ぜたような方たちです。『双獣の双炎』のリーダーは、獣人の姉弟でチーム名のとおり火を扱い得意だそうです。」
「お会いしたことがあるんですか?」
「いいえ。あったことはありません。聞いたことがあるだけです。チームランクAって言うのは、本当に有名なんですよ。」
「ってことはうちも?」
「はい。超期待のチームです。つきました。どうぞごゆっくりお話ください」
話している間に部屋についていた。
部屋で待っていたのは、どこかの王かと見間違えそうなほどの威厳を備えたギルドマスターと騎士風の男が三人と獣人の男女だ。獣人の二人はどうやら狗族、犬の獣人のようだ。ギルドマスターが出迎える
「ようこそ『英雄ジン』」
「どうも」
「面倒なことは省こう黒い半球のことだね」
知っているのか!各国の代表すら知らなかったのだぞ
「・・・・・」
「私はこれでもギルドマスターだ。そしてギルドはもっとも情報が集まりやすい場所だ。これくらいは簡単だよ。ちなみにこの場にいるチームのリーダー格の者は、実物も見ている」
この世界に来てからここまで先を行かれたのは初めてだな。
だが、お話は始まったばかりだこれからが本番だ、と思っていたら
「我々ギルドは協力しない」
「なっ、なんだと!?」
「こちらの二つのチームリーダーも同意してくれた。」
「・・・・何故だ?」
「ギルドは国がすることに介入しない、そして国も必要以上にギルドに介入しないこれは昔から決まっていることだ」
獣人の姉が
「わたしたちは、国という組織を信用していない。クイント皇国以外はまだ奴隷をつかっている。そのような国に助力するつもりはない」
騎士風の男の一人が
「冒険者とは自由なのだ、国の駒になるわけがないだろう」
「そのとおりだ、我々冒険者ギルドは冒険者の自由を守るため。国に対して助力はしないこれが我々の総意だ」
ブチッ
この瞬間ジンの中で何かが切れた。
「言いたい放題言ってくれるな、おっさんちょっと耳が早い程度で天狗かこの野郎」
ジンのあんまりな口調にこの場にいるすべての人間がギョッとする。
「自由ってのは、責任を果たした者だけが与えられるものだ。お前の言う自由はただのわがままだ」
「わ、わがままだと」
「だいたい、自由も何も世界がなくなればそんなの関係ないんだよアホが」
この時のジンは、この世界に来てから200日以上この世界のために動いていた。前の世界の快適な暮らしを捨ててだ。ジンは、奴隷の解放、元王国領のゴミ掃除とずっと働いていた。そして積もりに積もったストレスが冒険者どもの妄想を聞いて一気に爆発したのだ。
「それに奴隷だあ、こっちが頑張ってグーロム潰して奴隷解放に勤しんでいたっていうのに自由だなんだと、ほざいているやつが、奴隷をつかっているから信用できないだあ?。ならてめえが奴隷解放しろってんだよ。」
獣人の女は少し気まずそうに顔をそらす。
「国の駒になるわけにはいかないだあ。しっかりとした意思があれば駒になんてならないんだよ。駒になることを気にしている時点であんたらは、駒以下だ。」
騎士風の男は、口をポカンとあけている。
「ああ〜なんか馬鹿らしくなった。世界見捨てちゃおうかな〜」
「ジ、ジンさん正気に戻ってください。あなたにもこの世界で守りたいものがあるでしょう」
「別に俺の仲間だけなら世界ごと守る必要ねえもん」
「・・・こ、こんなジンさん初めて見ました。ってそれどころではありません。ジンさんお願いですこの世界を守ってください」
「でもさあクレアこいつら世界が滅んでも関係ないって言ったんだぜ。」
ここでジンは核心を言った。ジンからすれば呆然としている彼らの言葉は、世界が滅ぼうが知ったことではない国が勝手にやるだろ、と言っているようなものだ。ジンは、すべてを守ろうとしているつまり彼らのことも守る対象だった。その彼らが別に滅んでもいいといったのだ。ジンの怒りはもっともなものだった。
「それでもお願いします。ジンさん私を助けてください」
クレアの真摯な言葉にジンが正気に戻る。
「クレアさん・・・わかったよ。まあすでに国は巻き込んでしまっているんだし仕方ないか」
正気には戻ったが、ジンは今も蔑んだ目でギルドマスターとチームリーダーを見ている。普段向けられなれない侮蔑の視線に耐えられずに獣人の弟のほうが
「そ、それでも、人間の王たちが奴隷を容認している事実は変わりません」
「なら奴隷制度をなくしてやろう。それで問題ないな。じゃあ今からお前こっち側な」
「うぇ、な、なくす、?奴隷制度を?」
「そうだ、俺がなくす奴隷制度なんてムカつくもん絶対なくしてやる」
「君は国の使いではないのか?」
これが彼ら冒険者側の一番の失敗だ。
彼らはジンを国の使いとして見ていた。しかし、ジンはただ頼まれたから来ただけだ。この部屋の中で正しくジンを見ていたのはクレアだけだった。
「当たり前だボケ。ああ、真面目に話す気が失せたから、今から言うことに黙って頷けよ。あんたらには大侵攻に参加してもらう。いいな?」
「な、それは・・・・・」
彼らがすぐに頷けないでいると。ジンはこの部屋の空気すべてを支配して音を消した。
そして、この部屋にいるクレア以外の人間は、今まで感じたこともない目の前に壁があるかのようなプレッシャーを部屋の入り口にいるジンから感じていた。ギルドマスターとAランクチームリーダーたちは、殺気は含まれていないそのプレッシャーに死の覚悟し、圧倒的な実力差を実感していた。
「わかったか?」
「・・・わかった。ギルドは協力する」
「それでいい。それじゃあほかの国のギルドにも話を通しておいてくれ、おっさんならできるだろう。もしふざけたことをしたら消すからな」
そう言ってジンは部屋をでた。これをギルドマスターチームのリーダーたちも本気だと理解できた。
こうして、ギルドとの関係は、最悪の状態から始ることになった。
「よかったのですか?ジンさん」
「あ〜〜実はあんまり良くないけど。アッシュに丸投げすることにした。ムカついたから仲間と侵攻までのんびりすることにするよ。」
「それがいいと思います。ジンさんにも休日は必要です。」
「意外だな。幻滅するかと思ってた」
「前からお体が心配になるほど頑張っておいででしたから」
「そうだったかな?。」
「はい、ギルドの方は、任せてください。」
「それでは、お言葉に甘えます」
クレアはもう一度、部屋の中へ。ジンは屋敷へと戻った。