42話 黒い半球
異世界215日目
「『炎蛇・四首』」
四体の牛鬼を炎の蛇で燃やす。
「魔物の数が増えてきたな。」
「そうだね。どうするジン?」
リリスが隣から聞いてくる。
「俺が外で警戒する。『無得と魔物の大地』はもうすぐそこだし大丈夫だろ。」
ガサガサ
藪からブルー・コブラが出てきた。牙をかわしながらその首切り落とす。他に魔物がいないのを確認してから採取をするためブルー・コブラに近づくブルー・コブラの死骸が黒い粒子になって消滅した。
「ジンこれって」
呆然とするリリスに
「たぶん、黒い半球と関係があるんだろう。リリスしばらくこれは内緒にしておいて。意識は統一しておきたいから『無得と魔物の大地』で実際に見せたほうがいいだろう」
「わかった。仲間にも秘密?」
「説明が難しいから、黙っとく」
「わかった。」
異世界216日目
「ここが『無得と魔物の大地』か、本当に何もないんだな」
そこには、草一本も生えていない荒地が広がっていた。荒地は中心に向かってゆるやかな下り坂になっていて、その中心には以前見たときより大きな黒い半球がある。皇都のお城が丸々入るくらいの大きさだ。
「なんだあれは」
王の誰かが呟いた。『世界を結ぶ者達』のチームメンバー以外は皆黒い半球に驚きを隠せないようだ。ジンを信じていた、クルトやカルディアですら驚いている。
「あれが、魔物の大侵攻を証明している。」
ジンは言いながら、光球を作り出し半球に近づけるが中を照らすことはできない完全な暗闇だった。
「確かに、あれは異常だ。近くまで行っても大丈夫なのか?」
「いや危険です。おそらくすでに魔物が少数出てきている可能性があります。」
「なんだと、それは本当か?」
「それを今から確かめに行く。王の方たちは、私の後を付いて来て下さい。」
「わかった。」
ラインツ王が代表して答える
先頭をジンが少し後方にジークとカイルが続き、そのさらに後ろに護衛と各国の代表それにジンが連れてきた亜人たちが続く。
ジンが100メートルくらいまで黒い半球に近づいたときに、異変は起こった。半球の一部が、ブクブクをふくれ大きな泡のような物がいくつかできる。
「なにが始まるんだ」
「ジーク、カイル少し下がって後ろのやつらを守れ」
「「了解」」
ジークとカイルが後ろに下がり臨戦態勢をとった頃に
パンッ
とすべての泡が破裂して中から100近い魔物が現れる。
ハイウルフ・燃狼・コールドオオカミと狼型の魔物ばかりだ。燃狼は、体が燃えている狼型の魔物だ。コールドオオカミは、冷気を纏った狼型の魔物だ。
後ろでは、驚きの声が出るが、ブルー・コブラの件である程度予想をしていたジンは、冷静に対処する。
まずは『風刃』で魔物を切り裂く、だがあまり減った気がしない。ここには、重要人物が多いリスクは極力省くべきだろう。
「土の聖痕を発動『岩皇』」
ジンは土精霊を纏い、魔物の群れを見る。
「『刺石槍』」
ガガガガガガッ
魔物の群れがいる地面から石の槍が無数に突き出し魔物を串刺しにする。
石槍を逃れた魔物は、ジンが斬り殺す。漏れた魔物はジークとカイルが始末した。目算で100近い魔物が一分ほどで片付いた。
「すごいこれが聖痕持ちの力なんですか」
「父上との戦いなんて大したことなかったんですね」
「娘よ、なにもそこまで言わなくても」
「なんだあれは」
ファーランド王が指を指した先では、先程殺した魔物が黒い粒子になって消滅していっているところだった。消滅が終わった場所に魔物の痕跡は何もなく。ただ石の槍が突き出ているだけの大地が広がっていた。
ジンは各国の王の場所に行き。
「急いでこの場を離れます。あなた方も状況の理解はできたでしょう」
「ああ確かに、嫌というほどな」
『無得と魔物の大地』から出たところで、野営をすることにする。そこで今後どうするかを話すことになった。
「ヴァーテリオン帝国はジン殿の発案に同意する。兵も出そう」
他の国もそれぞれ同意する。問題はカルモンド王国だが、そこはエクス王子が約束してくれた。
「絶対に父を説得してみせます。」
「よろしくお願いします。」
「急ぎ皇都に戻り他の王達にも話を通そう。」
「時間がないな、軍の配置が難しい小競り合いをしている国が多いし戦争をしている国もある」
「まずは、どの国にも武力衝突はやめさせる方針でよいですかな」
「同意する」
各国の王達は王らしく今後の話をまとめていく。
「ジン殿確認したいのだが後何日あるのかな?」
「144日間です。」
「すぐに動けるのは、皇国くらいだろうあまり時間はないな」
「そこら辺は、あなた方のほうが専門でしょう。」
「確かにそうだな。ジン殿は何かないかな?」
王がジンに意見を求めたのだ、ジンは確かな手ごたえを感じた。
「一つ提案なんですが『無得と魔物の大地』の近くに拠点が必要だと思うんです。それを四つ作って攻略の要にしたい。」
「確かに物資のことや長時間の戦いを考えると拠点は必要だ。今までは、この辺りに拠点を作ることは、まったく意味がなかったがこれからは違う。改めてお願いするジン殿力を貸してほしい。」
「もちろんそのつもりだ。拠点は皇国に作ってもらいたい、いいかクルト皇?」
「かまわないよ。皇国はすでに準備を始めている。それぐらいの余裕はあるさ」
「頼もしいな。たださっきは144日間といったが。実際はもっと速く『無得と魔物の大地』に入って迎撃準備と魔物狩りをしたいから時間は本当にない。だから今回の拠点は一つだけでいい」
「わかった。皇都に戻ったら正式に同盟を組もう」
「リニヨン教国とファーランド王国もそれでよろしいかな?」
そう、問題はこの二つの国なのだ。この二つの国は、国境に兵が集まっており小競り合いが絶えないのだ。小国同士の戦争は、黙らせることができるが、この二つの国はそうはいかない。どうしても両国の了承が必要だ。
「仕方ないでしょう。あれを見せられては。我が国は、リニヨン教国は世界を守ることを第一に考える。ファーランド王国との一切の武力衝突は避けよう。」
「ファーランド王国も、兵を国内に引かせましょう。それが世界のためです。」
「ありがとうございます。」
なんとか両国の了承は取れた。だが和解したわけでもないので問題は以前残っている。そこでラインツ王がジンに質問した。
「ジン殿もし両国が拒否したどうするつもりだったのだ?」
「答えなければいけませんか?」
「私は、君の覚悟が知りたい。異世界から来た君がどれほどの覚悟があるのか」
「では、ラインツ王ならどうしましたか?」
「質問を返すのは感心しないな」
「これは失敬、そうですね~。武力衝突はできないですから・・・トップを入れ変えます。」
当人のカリウス教皇とヘンリー王がギョッとする。
「あれを見てまだそんなことを言う愚物なら殺します。秘密裏に」
「・・・覚悟はわかったが、あまりそういうことは言わない方が良い。信用されなくなる」
「そうですね。それに排除は最後の最後です。それまで説得など手は尽くすつもりですよ。」
「ジンくんあまり無理しないようにね。聞いているよ君は戦争の時、人を殺して悲しんでいたんだろう」
「・・・この場で言うなよクルト」
「僕はね君が心配なんだよ。いつか君が潰れてしまうんじゃないかと」
「大丈夫だ、一人でやるわけじゃない。侵攻は三度あるんだまだまだ先はある。無理をするつもりはない。」
「わかった。その言葉を信じよう」
「帰ってから忙しくなる。俺は仲間のところで休ませて貰うよ。」
そう言ってジンは話し合いの場を去った。