41話 二つの馬車の中
異世界209日目
「何故こうなった」
今ジンが乗っている馬車には、アリシャ、シャール、カルディア、クリス、トウカ、ウリアと会議に参加した女性が勢ぞろいしていた。
ジンは最初、自分のチームと一緒に行動するつもりだったのだが、クルト皇が
「君の発案なんだから君はこっちでしょ」
とこっち側に連れてこられたのだ、そしていざ出発して馬車の中を見渡すと・・・女しかいない。
右隣にはアリシャが、左隣にはカルディア、正面にはシャールが座っている。シャールの両隣にクリスとトウカが座りウリアはトウカの隣だ。
「同乗を希望した。」
「私は、ジンさんと親睦を深めたくて希望しました。」
アリシャとカルディアは嬉しいことを言ってくれる。
「君たちは?」
他の女性に視線を向けると
「お父様にジンさんは婿候補だから会ってこい、と言われまして。」
「私も、父上に似たようなことを言われました。」
「あたしは、ジンがどれほどの器なのか見てこいって父が、まあ私は一度ジンに助けられているからそこんところはあんまり気にしていないけどね。」
黙っている聖女に視線が集まる。
聖女が顔を赤らめて否定する。
「な、なんですか。私は違いますよ。ただカリウスが他国の動きを見て。じゃあうちも一応、と押し込まれただけです。」
それは、他の娘とどこか違うのだろうか?
「そんなことよりアリシャさん、カルディアさん、ちょっとくっつきすぎではないですか。」
「そんなことない。これでも控えめ」
「そうですよ。隣に座っているだけですよ。」
「それで控えめって普段は、どうなってるんですか?」
もっともな発言だった。実際にジンと二人の間に隙間はなく肩には頭を乗せるという、かなりの密着度だ。他の姫も少し赤くなっている。
「見せましょうか?」
「いいです。遠慮します。」
トウカが話題を変える。
「そ、そういえばジンさんは、刀を使うのですよね?」
「ああ、一応な。」
「今度手合わせしませんか?」
「私も頼みたい。」
『剣姫』と『舞姫』から手合わせの申し出だ。
「いいよ。機会があればその時にでも」
「ねえねえ、ジンあの一角ってジンの仲間よね。あの一角って何を護衛しているの各国の代表じゃないよね?」
二度目の魔物の侵攻の時は、亜人にも手伝ってもらうことを話す。
「大侵攻ね〜いまだに信じられないのよね」
「私は信じますよ。」
そこで意外な発言をしたのは聖女ウリアだった。
「何故ですか?」
「主神オシリスから、世界に危機が迫っていることは、聞いていましたから」
この世界の神様か、
「・・・なんで公表しないのよ。」
「内容がわからなかったので公表できなかったのです。内容も解決策もないのにただ危機が迫っています。などと言えません。」
「じゃあなんであの場で言わないのよ」
「あの時は判断に迷っていたのです。各国が一定の理解を示したので今お話したのです。」
「まあいいけど。でもこれでジンの言葉が裏付けがとれたね」
「この世界では神の存在が認められているんだな。俺の世界の神は、ほぼ人間に無干渉だったから神はいないことになっているのに。」
「そうなのですか?まあこの世界でも神の声が聞こえるのは、世界に一人だけで代々声を聞いた者が聖女をしています。」
「そういえば、リニヨン教国は教皇と聖女の二君主制だったね。よく成り立つね」
「教国は、内側を教皇が、外側を聖女が司っているんです。内政と外交ですね。教皇は国民に支持されてなりますが、聖女は神に選ばれます。だから我が国には両方とも大事なんです。」
「つまり教皇の方が実権を持っているけど、それも神の後ろ盾のある聖女あってこその物ってことか?」
「よくわかりますね。たしかにそんな感じですね。」
感心したようにウリアが頷く。
その後もジンは各国の姫たちと交友を深めていった。
その頃、ジンの仲間達が乗る馬車では、
「まったくクルト皇帝は、余計なことをしてくれますね」
「「ご主人様と一緒にいられると思ったのにな~」」
「お兄ちゃんと一緒がよかったな~」
ソフィアが悪態を付き。キリとユリとフェリスは落ち込んでいる。キリとユリは、メイドの格好をし始めた頃から、ジンをご主人様と呼ぶようになっていた。
「申し訳ありません。父上が」
「レティーシアはいいのよ。」
「そうですね。レティーシア様も本来ならあちらに乗ってもよかったはずですし。」
レティーシアが謝り、リリスとミリアが擁護する。
「今頃お兄様は姫様方のお相手をしているのでしょうね。」
「ご主人様を盗られた」
「私は主の物なのに」
ティリエルが馬車の中を思い浮かべ、イリヤとフェリスが不満そうに頬をふくらませている。
「また、増えるのでしょうか?」
「そうだろうねえ」
「しかたないですよ、わかっていたことです。」
「この話はやめましょう。あまり良い結果には、ならないでしょうし」
「そうですね。」
リリスがここぞと話題を変える。
「それじゃあ、最近あった良いことを報告して気分を盛り上げよう~はいまずは、ソフィアさん」
「え~!。え、えっと実はジン様とこの前川で水泳を教えてもらいました。」
「どんなのを教えてもらったの?」
「くろーるという泳法で、これがとても速く泳げるんです。いつか海水浴に行く約束をしました。」
「「「いいな~。」」」
「そしてナイスよ、ソフィア」
「はい次、フェリス」
「この前チーズケーキをお兄ちゃんと二人っきりで食べました。」
「チーズケーキ!食べてないよ」
「お兄ちゃんとの二人だけだもん」
「くうう~次、テツちゃん」
「この前体の隅々まで綺麗にしてもらいました。」
「な、なんですって」
「小太刀の姿のときに」
「「「な~んだ」」」
皆安堵していた。特にキリ、ユリ、ティリエル、フェリスの年少組はあからさまにホッとしていた。
「次、ティリエル」
「実は今お兄様と聖痕無しで空を飛ぶ練習をしているんです。それがやっと形になってきてるんですよ。」
「・・・ご主人様は、どこまで行かれるのでしょう?」
「そりゃあ、この世界をまるまる守れるくらいでしょ」
「ねえねえ、どうやって飛ぶの?」
「薄い木の板を使うんです。足を板に固定して板と背中で風を受けるんです。」
「ジン殿は、すごいな。一度乗せてもらおうかな」
「お兄様でも当分は難しいと思いますよ。」
「「「そっか~」」」
ジンの女達は、ジンのことで一喜一憂しながら『無得と魔物の大地』への道程を過ごした。