38話 人の王達
異世界208日目
人が治める国の代表達が集まる日がやってきた。
今ジンとクルト皇帝は、会合を行う部屋で各国の代表が来るまで、これからのことを話していた。
「大進行は丸一日、24時間、朝昼晩戦闘が続く。そんな戦い誰も経験はないし、前例もない。ジンくん正直私は不安だよ」
「それでも、やらないといけない。」
「問題は、長い時間と夜の暗闇だね。こんな長時間の戦いも暗闇の中の戦いも人間はしないからね。」
「時間は、部隊いくつにも分けて何度も入れ替えるしかないし、夜は何かで光を確保して防御重視しかないな。」
「そうなるだろうね。夜に頑張って攻撃して同士討ちなんてごめんだからね。」
コンコン
「ウルティア国の代表がお越しです。」
「ちょっと早いな」
「ウルティア国ならかまわないよ。通して」
入ってきたのは、美しい美女だった。
「失礼します。久し振りですねクイント王。お願いがあって早めにきたのですが、そちらの方は?」
「彼は、冒険者のジン。我が国の英雄だ」
彼女の反応は、かなり意外なものだった。女性は、入り口から走りだしジンの隣まで来て。喜色に溢れた表情で
「あなたが英雄ジンなのですか。お会いできて光栄です。私は、ウルティア国代表カルディアと申します。よろしくのお願いしますね。」
とても一冒険者に対する態度だとは、思えない。
「よ、よろしくジンだ。(おいクルトどういうことだ)」
「(私にもわからん)カルディア殿、それでお願いとは?」
「実は、彼に会ってみたかったのです。水の聖痕を、持つ彼に」
「ああそういうことね」
なんだ聖痕が珍しいだけか
「それだけではありません。先の戦争で水の精霊術で5万の奴隷を殺さずに無力化した、そのお手並み、その発想、その精神は、我が国ではすでに伝説です。」
ここまで言われるとさすがに恥ずかしいな。
「何故そこまで?」
「我が国ウルティアは、湖と川の国、水というのは我が国では特別なんです。首都も湖の上にあるんですよ」
「湖上の都市か、見てみたいな」
「是非来てください。大歓迎します。」
「ありがとうございます。落ち着いたら行かせてもらいます。それで突然なのですが、カルディア様少し質問してもよろしいですか?」
「質問は構いませんが。様付けはお止めください。国の者に怒られてしまいます。」
カルディアが面白そうに笑って言う。
「では、カルディアさんのお国は今回の呼びかけをどう思っていますか?」
「我が国は、ジンさんに会えるので、嬉々として私を送り出しましたよ。土産話に期待するそうです。」
だめだ、参考にならない。
「え~と、では他国の反応を、どう予測しますか?」
「そうですね。書状には世界の危機とありましたが、信じていないと思います。呼び掛けに応じたのは、クイント皇国が大きくなったからと旅費の八割を皇国が負担すると書状にあったからでしょうね。」
「つまり他国は、大いに不満であると」
「そうかと」
カルディアが少し気まずそうに同意する。
「まあ、それくらいは想定の範囲内だし何とかなるだろう」
「ふふ、楽しみにしていますね。」
しばらく会話を楽しんでいると、会合の時間が近くなり次々と代表者が集まってきた。
参加者についてクルトから、事前に説明を受けた。
まず最初に現れたのは、
ヴァーテリオン帝国、帝王のラインツ王だった。
「失礼する」
ラインツ王の最初の印象は、王の中の王、まるで覇王のような男だった。従者を一人連れてクルトの正面に座った。
ヴァーテリオン帝国は、クイント皇国がグーロム王国を吸収するまで皇国と同等の国力だった、今でも人の国では、二番目の国力を持っている大国だ。そして数は少ないが竜騎兵を有する国でもある。この大陸で少数の部隊戦では、最強を誇っている。
次はリニヨン教国のカリウス教皇と聖女ウリアのツートップが入ってきた。
「失礼」
「失礼します。」
二人は、円卓の皇国よりの位置に座った。教皇は白を基本とした神官服を、聖女は同じく白を基本にした巫女服だ以前ソフィアが着ていたものに似ているが質はかなり違うのだろう。布が多くて正直動きずらそうだがこれでも軽装だったらしい。リニヨン教国は、この世界の宗教を司る国だ。人が治める国に対しては、すべての他国へ少なからず影響力を持っている。聖職者は、魔人を毛嫌いする者が多いらしい。今後の課題になりそうだ。
次はファーランド王国、国王のヘンリー王だ。
「お邪魔します。」
ヘンリー王は、これといって特徴はないのだが、彼は王だ、と思わせる不思議な男だった。ファーランド王国は、なんと魔人を受け入れている国だ。そのせいでリニヨン教国と仲が悪いらしい。入って来たときもカリウス教皇とヘンリー王が睨み合っていた。そしてそのまま教皇の対面から少しずれたところに座った。
次はカルモンド王国、国王のグスター王と王大使のエクス王子が入ってきた。
「・・・」
「失礼します」
グスター王は、無言で適当な席につき、エクス王子は入室の言葉を言って席につく。正直カルモンド王国にはあまり良い印象を持っていない。グーロム王国との戦争の時に明らかにグーロム王国を援護する動きをとっていたからだ。国にいる奴隷の数も多い。それでも無視ができないのは、国内に二つの有数の鉱山を持っていて、そのおかげで経済力も軍の装備もかなりのものなのだ。しかしそれも今の国王になってから国力は下がっていっているようだ。
次はテンプル騎士国の、騎士王ジャックとその娘、『剣姫』の異名を取るクリス王女が入室した。
入り口でクリスが一礼して入室する。
騎士王と格好は普通の王と変わらなかったが、クリス王女はドレスと甲冑を合わせたような格好だった。
テンプル騎士国は、集団での戦闘能力が高い、軍人はすべて騎士道精神を持つ事が求められる国だ。礼節はしっかりしているが、騎士が貴族階級なためか差別的な考えを持っていて、平民層を守られる対象として平民を下に見る傾向がある。それもジャック王になってからはその傾向は減ってきているようだ。
お次は、ヤマト国の国王キリガネとその娘、『舞姫』の異名を取るトウカ姫の二人だ。
「邪魔するぜ」
キリガネは不遜な態度で、トウカは一礼して入室する。キリガネは服装は着物を崩した着方をしているトウカは、着物を動きやすく改造した物を着ている。
ヤマト国は、武士の国で個人の戦闘能力が高い者が多い。Sランクの実力者が複数いる。この世界の武士は主君に仕える者と傭兵として世界をまわる者の二種類がいる。
そしてテンプル騎士国の騎士と傭兵は仲が悪い。騎士は傭兵を意思なき者達と毛嫌いし、傭兵は騎士を群れないと戦えないと嘲っている。
ヤマト国が座った場所はテンプル騎士国の対面だった。キリガネ王とジャック王は、視線を交わしていたがそこに悪感情は感じなかった。例えるならライバルに向けるような挑戦的な視線だった。二人の姫もお互いを見て微笑んでいる。どうやらトップ同士は敵対してはいないようだ。
次はクラフト商国のトランド王とその娘が入って来た。その娘が
「あれ、ジン?なんでここにいるの?・・・あんたそんなにえらかったの!?」
シャールだった。
「娘よ、皇国でジンといえば、『英雄ジン』のことだとおもうのだが」
「うぇ、そ、そういえばそうね。だからアリシャがあんなになついていたのね」
「よろしく、シャール」
「え、ええよろしく」
「よろしくしなくていい。ジンが汚れる」
アリシャとアッシュもやってきた。
「なんですって!!」
「シャール後にしなさい。ここは、各国の代表がきているんですから」
「・・・はい」
アリシャとにらみ合った後、しぶしぶシャール達は、少し離れたところに座った。
クラフト商国は、商人の国だ。経済力が高くあらゆる国と商売をしている。交通の要所があり人が治める国だけではなく亜人の国に対してもそれなりの影響力を持っている。そして獣人の狸族が多数暮らしている国でもある。
「なにが、あったんだ?」
アッシュがさっきのことを聞いてきた。
「面倒だから秘密」
「ひ、ひどい。僕皇子なのに」
セリフとは裏腹になぜか嬉しそうだ。こいつ実はマゾなのか。
「あれ?ジンその指輪確かアリシャのこんやヘブッ」
確信を言う前にアリシャに黙らされた。それにしても『こんや』か・・・指輪・・・、まさか婚約指輪じゃないだろうな。考えても答えは出ないので考えるのをあきらめる。
これらの国にクイント皇国をいれた9ヵ国が主だった国だ。
発言は主にこれらの国がすることになるだろう。
その後は、小国が次々と入室し席を埋めていった。
すべての席が埋まった。その数21ヶ国の代表が集まった。この世界でこれほどの、国の代表が一同に会するのは、はじめてのことだ。
「すべての代表者が揃ったようですね」
すべての視線がジンに集まる。その中で、ジンは丁寧に始める
「それでは、この世界を守るための会議を『世界防衛会議』を始めたいと思います。」