37話 会合の前
異世界200日目
「た、助けてくれ」
さっきまで、奴隷の売買をしていた男が、今目の前で命乞いをしている。
「金もやる、奴隷も解放するだから」
ザシュ
「うっ、あっ」
目の前の男は、首から血を流して事切れた。
「「主殿」」
ジークとカイルだ。二人は俺を「主殿」と呼ぶようになっていた。
「残りの奴隷商人は?」
「集まっていた奴隷商人の主要人物は、すべて殺しました。他の物は拘束しています。」
「ご苦労さん。」
「これで元王国領のゴミは、大体片付きましたね。これからどうするのですか?」
「俺たちの働きで元王国領が早く片付いて、他国の代表が少しずつ集まっているらしい。だからここにいる奴隷を解放したら、一度皇国に戻る。」
「了解しました。」
この二人もずいぶん力をつけたな、ここには護衛を入れたら100人近いゴミがいたのにそのうち半分を片付けてしまった。他の仲間も、ここ数ヶ月で力をつけた。魔物の大侵攻まであと160日しかない気合をいれていかないとな。
異世界205日目
皇都への帰り道、足にフェリスとテツを乗せて馬車に揺られているとレティーシアが
「ジン殿、前方に牛鬼の群れだ。馬車が襲われているどうする?」
「・・・助けよう」
特別クエストは、三週間ほど前に終わったので牛鬼を倒しても金にはならないが、見捨てるわけにもいかない。
件の襲われている馬車の護衛は手練のようだがたったの6人だった。牛鬼の数が多く馬車を守るのに精一杯のようで、効果的な攻撃ができないようだ。あのままでは、いずれ牛鬼側に流れが傾くだろう魔物のほうが体力もある。
「先に行くぞ」
体に闘気を纏って飛び出す。すぐにスピードに定評のあるリリスが後ろに続く。牛鬼の数は、ざっと22体ぐらいだ。この世界にも少しは詳しくなった、だからわかるがこの数は異常だ。その異常性は一先ず置いておいて牛鬼を倒すことに集中する。
まず馬車から離れている牛鬼に向かって『風刃』を放ち四体始末する。残り18体
「テツ、二刀に」
テツを左右に持って、群れに突っ込む。そのまま馬車まで突き抜ける。抜ける間に三体の腹を掻っ捌く。残り15体
「あ、あんたは?」
馬車から女の子が話しかけてきた。
「通りすがりの冒険者だ。馬車の中に戻れ、もうじき俺の仲間が来る。」
そう言いながら目の前の牛鬼の首を刎ねる。護衛の人間も救援に勢いづき二体ほど倒す。残り12体
俺の仲間も到着し数が同等になる。そうなると後は問題なく討伐できた。一対一で後れを取る者はここにはいなかった。
安全を確認しているとさっきの女の子が
「ありがとう助かったわ。わたしは、シャール。あなたは?」
「俺はジン。冒険者だ。」
「そう、あなた達も皇都に行くのでしょ、一緒に行かないかしら。というよりうちの護衛に怪我人が出たから、ご一緒されてもらいたい、というのが本音だけど」
開けっぴろげな子だな。ただ発言に作為を感じるな、断りづらい状況をつくられている気がする。まあなにか問題があるわけでもないし別にいいか。
「いいよ、同行しよう」
「ありがと」
まあ同行と言ってもつかず離れずに皇都を目指し野営のときに少し世間話をした程度だったが。
異世界207日目
皇都にたどりついて、すぐにシャールとわかれた後、仲間ともわかれ一人で城に向かう。
城に着き皇帝に会うために回廊を進んでいるとアリシャが駆け寄ってきた。
「久しぶり、アリシャ」
アリシャは挨拶を無視して、なんとタックルしてきた。そのままジンの体に抱き付き。
「ホントに久しぶり」
「指輪で話していたじゃないか」
「偶にだった」
「えっと、今から君の父親に会いに行くんだけど」
「わたしも一緒に行く」
「えっとね」
「行く」
「わかった」
アリシャは、見た目に反して押しが強い。可愛いのでつい許してしまう。こういうのを甘え上手と言うのだろうか。
「クルト、邪魔するぞ」
「久しぶりだね、ジンくん。おや、アリシャも一緒なのかい」
「ああそこで一緒になった。」
「いつの間に仲良くなったんだい。アリシャは人見知りが激しいのだが」
「俺は、この世界で組織と繋がりがないから話しやすいらしい」
「・・・あれ?君ってたくさん女いるよね?(ジンくん意外と鈍感なのかな?)」
「うん?まあ、この世界ではいるな。でも前の世界では、一人身だったんだぜ」
「(そのせいかな?)えっとね。アリシャはだねヘブ」
クルトが何か言おうとするのを、アリシャが手に持っていた本を投げつけて黙らせる。
「ジン、速く本題を話す」
「まあ、そうだな」
聞かないほうがよさそうだな。
「今度の他国の代表者との会合の方はどうなっている?」
「集まりは、順調だよ。ただどうやって魔物の侵攻を信じさせるかが問題だよ。みんな頭固いから」
「それついてなんだが、大侵攻が始まる場所を、見てきたんだが、大きな真っ黒い半球ができていた。」
「『無得と魔物の大地』か」
魔物の大侵攻のある場所は、大陸の中心にある半径数十キロに及ぶクレーターがある場所だ。
ここでは、作物は育たず、水もない。そして、魔物をいくら倒しても強くなれない不思議な場所。なので魔物以外の人間をはじめとする、すべて生き物はその場所を求めない。ゆえに、そこは誰の領土ではなく多数の魔物が生息する場所。そこが『無得と魔物の大地』だ。
「それを、見せられれば。兵を出す思うんだが。」
「どうやって連れて行くかだね。」
「いざとなれば力ずくで連れて行くさ」
「ジンくんそれは、ちょっと」
「そうならないように、祈っていてくれ」
「まあ、それについては、任せるよ。呼んだのは私だが、会合の進行はジンくんに頼みたいんだが」
「面倒だが仕方ないか、俺なら一応中立ってことにできるしな」
「そういうこと。あ、これこの前の奴隷商人を潰した報酬ね。結構貯まったんじゃない。」
渡された袋には、金貨が五枚入っていた。
「この報酬合わせて、たしか100万ギルくらいだな。」
「稼いだねえ」
「まあな」
小人族の子供を助けられなかった後から、俺は精力的に元グーロム王国領のゴミ掃除に励んだ。
そのおかげで、かなりのお金が貯まったのだ。
その後、細かい打ち合わせをした後、皇帝の部屋をあとにする。
「ジン、がんばってるね」
「そうでもないさ、俺はやりたいようにやっているだけだからな。」
「あら、ジンこんなところで会うなんて奇遇ね」
つい最近どこかで聞いた覚えのある声が聞こえた。後ろを向くとシャールが歩いてきた。
「ジンこいつ誰?」
「なに、この失礼な子供」
二人の機嫌が悪くなったような。
「黙れガキ」
「ほんっとうに口が悪いわね。あんたのほうがガキでしょ。」
なぜか二人は、お互いを睨み合っている。
「二人とも落ち着け、何故そこまで初対面でいがみ合えるんだ?」
「「なんとなく気に入らない」」
「仲いいな」
「「よくない」」
ハモったやっぱり仲いいな。
「えーと、こっちはアリシャ、そんでこっちはシャールな」
とりあえずお互いの名前を教えてみる。
「シャール?」
「アリシャ?・・・そういうこと、ならここは私が引きましょう」
名前を言っただけで、争いは収まってしまった。分けがわからん。
「ジンあれには、気をつけてあれは商人、油断すると金を毟り取られる」
「まあそんな気はしていたがな。」
シャールは、会話がというより交渉が得意そうだったからな。俺たちにタダで護衛させていたしな。
屋敷に久しぶりに戻ってみると
キリとユリが、メイド姿で迎えてくれた。
「「お帰りなさいませ。」」
「二人とも別に働かなくてもいいんだぞ」
「いえ、働かざる者食うべからずですから」
「そうか、なにかご褒美をあげないとな」
「あのそれでしたら、その、お願いが」
「なにかな?」
「えっと、その~」
「もう、ユリ。私が言うよ、えっとね、ユリが夜一人が怖いから一緒に寝て欲しいんだって、いつもは私が一緒に寝てるんだけどね」
「う~~、キリだって暗くて狭いところ苦手なくせに」
「うっ」
そうか二人とも奴隷のころのことがトラウマになっているんだな。
「いいよ。それじゃあ今日は一緒に寝よう。それに今二人の部屋は別々だったね。今度一緒にしてもらおうか?」
「いいんですか、お願いします。」
キリの良い返事が返ってきた。
ユリがそれを聞いて微笑んでいる。
「・・・あ」
キリが恥ずかしそうにしているので
「可愛いよ、キリ」
「あぅ」
ますます、赤くなった。
「キリずるい」
「ず、ずるくない」
「ハハ、じゃあ夜にね。」
夜になって寝室にいくとベットの大きさが三倍くらいになっていた。ベットを三つほどくっつけているのだろうか。
「な、なんだこれ」
近くのメイドさんに訊いてみると
「お嬢様方の希望でベットと急遽大きくしました。」
「なんで?、大変だったろ」
「理由はこれからも女が増えるだろうから一度に一緒に寝られる人数を増やすため、と聞いています。大変でしたけど、その~、頑張ればご主人様に添い寝させていただけると言われまして」
頬を染めながらそう言ってくれる。それ自体は嬉しいんだが。
俺はまったく聞いてねえぞ。
「まあ、俺としては、嬉しいけど今日は」
「はい、今日はキリ様とユリ様が添い寝されると伺っています。それにこれからは屋敷にいることも多くなるそうですし、わたしはその時にでも。」
「そう言ってくれて嬉しいよ、ありがと」
「いえ、そんな」
「ああ~ご主人様となにしてるの」
「見つかってしまいました。それでは、ご主人様失礼します。」
そう言って同僚のもとに走っていく。
その夜、枕を持ったキリとユリが部屋を訪ねてきて、一緒に寝た。
二人とも怖いのか俺の腕をずっと掴んだまま離さなかった。それが少し心苦しかった。
ジンは二人を抱きしめて眠ることにいた。そのためささやかな胸が夜通し当たっていた。