29話 女達との休日 2日目
異世界39日目
-ティリエルの場合-
「あの、お兄様はお空のお散歩に行きませんか?」
朝にティリエルが訪ねてきた。
「う~ん、今聖痕は使えないからな~難しいな」
「いえ、私の背に乗ってくださればいいです。」
「いいのかい?前乗ったときはかなり疲れていただろう」
「わたしも成長していますし、そんなに早く飛ばなければ大丈夫です。」
「ティリエルがいいならいいけど」
「じゃあ行きましょう」
俺とティリエルは、朝のお散歩に空を飛んだ。
以前に乗せてもらった時は、とても速くて余裕がなかったからあまり楽しいとは思わなかったが、実際龍の背に乗って空を飛ぶのはけっこう楽しい。前の世界では夢想でしか出来なかったことがこの世界では出来る、こういう時異世界に来てよかったと思う。
ティリエルに乗って皇都を一週してから屋敷に戻る。
「あ、ティリエルそのままでいて」
「どうしたんですか、お兄様?」
「龍の姿のティリエルの世話をしてみたくてさ」
龍の姿のティリエルは、とても綺麗だ銀の鱗に覆われていてすべて本物の銀のような輝きを放っている。そしてその光が不快にならないのだ。そんなティリエルを世話したくなったのだ。
メイドさんに頼んで、タオルを持ってきてもらう。持ってきてもらったタオルでティリエルの体を拭く。
「気分はどうだ?」
「気持ちいいです。もっと強くして下さっても」
「そうか」
ティリエルにどうして欲しいかを聞きながらお世話をさせてもらった。
ティリエルの世話が一通り終わりティリエルも人の姿に戻る。
今は膝の上で遅めの朝食を取っている。昨日フェリスが膝の上で食事しているのが羨ましかったようだ。
食事をしていると突然ティリアルが
「お兄様、どうして私は夜伽に呼んでくださらないんですか?」
「ゴホ、ゴホ」
むせてしまった
「どうした突然?」
「私だってもう十五ですよ、前の世界はよくわかりませんが、この世界では結婚だって出来ます。」
ティリエルの見た目は、少々幼いフェリスほどではないが、アルベルトと話してからと考えていた。答えに困っていると悲しそうな声音で
「やっぱり見た目ですか?」
「そうじゃあないけど」
「じゃあ私のことがお嫌いなのですか?」
「それはありえない。愛してる」
「なら」
「・・・わかったよ。そうだな16歳になったら、俺の方から呼ぶよ、俺の国では女性は16歳から結婚できるんだ。頼む俺はティリエルを大事にしたいんだ。」
「・・・わかりました。今はその言葉で我慢します。ただ一つお願いがあります。」
「なんだい?」
「キスをしてください」
「わかった」
そう言って俺はティリエルにキスをする。
するとなんとティリエルが舌を入れてさらに舌を絡ませてきた。俺もそれにこたえる。
少し長めのキスが終わったとき
「ごちそうさまでした。」
うっとりした表情のティリエルがいた。
その言葉は、朝食の終わりともう一つの意味をもっていた。
-テツの場合-
ティリエルとの食事が終わり部屋でくつろいでいると
「主、私の番」
「どうして足音を殺してきたんだ。」
テツが音もなく現れた。
「主を驚かせようとした。けど、驚かなかった足音聞こえた?」
「いいや聞こえなかった。ただ精霊が教えてくれるんだよ、不自然な行動を取ればわかるんだ。」
「主に奇襲は効かないの?」
「少なくとも俺個人には、奇襲は無意味だな。」
「主すごい、さすが私の主です。」
「はは、ありがと。テツは、何をするか決まったのか?」
「決まらなかった。主何かない?」
「そうだな、・・・街に出ようか」
「街に?」
テツの頭を撫でながら
「何か楽しいことがあるかもしれないだろ」
「はい、行きましょう」
今は、テツと手を繋いであてもなく街を歩いている。テツは、歩いているだけなのに楽しそうにしてくれている。
だからといって何もしないわけにはいかないよなあ、装飾品店が見えてきた。テツは、女の子だし鉱石を吸収する、興味があるかもしれない。
「テツ、あそこに入ろう」
テツを連れて店に入る。
「わあ、主宝石がいっぱいです。」
よかったテツは、興味をしめしてくれた。テツと店内を見て回る。
「主ありがとうございます。」
テツが小走りで展示品を見て回る。テツのこんなにはしゃいだところは、はじめて見たな。
「この穴は、何でしょう?」
テツが見ている者は銀細工の首飾りで翼を模して作られているようだ。二つの翼が重なるように作られていて、翼に一つずつ穴がある。店主に聞くと
「その穴に宝石を埋め込むんです。プレゼントでよく使われていて受け取る側と渡す側で宝石を選ぶんです。」
その説明を聞きながらテツは、ずっとその首飾りを見ていた。気に入ったようだ。
「お値段は?」
「付ける宝石によりますが付ける石自体は小さいので、2000ギルから2500ギル程度になります。」
「テツは、何を付ける?」
「いいのですか?」
「いいよ、初めてのデートのプレゼントだよ」
「主ありがとうございます。」
テツはダイヤモンドを俺はブルートパーズを選んだ。俺は、確か前の世界で、トパーズの石言葉でいい感じだった気がしたから選んだ。テツにダイヤモンドについて聞くとダイヤモンドは、硬度がとても高いのでテツのような存在には特別であるらしい。
「どうですか主?」
「似合っているぞ」
「えへへ~~」
今日はテツがよく笑ってくれるのが嬉しい、テツはあまり表情をださないから笑っているということは本当に楽しんでくれているのだろう。
いつもは、落ち着いていているからか見た目より大人っぽく見えるが、笑うと雰囲気が見た目相応に幼く見える。
笑顔のテツと腕を組んで俺は帰路についた。
テツの首には銀の首飾りが揺れていた。
これ以降テツが小太刀の姿になった時、柄の下の部分に銀の装飾と二つの宝石が輝いていた。
43000ギル-2400ギル=40600ギル
-フェリスの場合-
「テツさんが笑顔で部屋の方に歩いていっていたんですが、お兄ちゃんがいないところで笑うなんて結構珍しいですよね。お兄ちゃん、テツさんと何してきたんですか?」
「テツとは、街でデートをしていたんだ。それより、フェリスは何をするか決まった?」
「デート羨ましいですね。私がしたい事はですね、わたしといえばやっぱり料理なのでお兄ちゃんの故郷の料理を再現したいです。」
「・・・ありがとう、フェリス」
思わずフェリスを抱きしめてしまう。フェリスは、顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうに
「それで、その、食材のお買い物に一緒に行きませんか?」
「いいよ、それじゃあお買い物という名のデートにいきますか?」
「い、いえデートとかそんなのじゃあ・・・デートなのかな?・・・デートかあ」
最初は狼狽していたが、最後の方は嬉しそうに頬を緩めていた。
出る前に料理を決めるのが意外と悩んだ。出来そうな物でこの世界で似ている物がなく、かつ俺が食べたい物となると意外と少ない、この世界の食べ物は、異世界人の俺が不自由しない程度には、前の世界と似通っていた。
結局作るものは、ハンバーグになった。この世界では、基本的に肉は焼くだけだったのだ。
「お兄ちゃんの話を聞くと混ぜるお肉と野菜が問題ですね、香辛料はなんとかなりそう。」
「いくつか買って帰って試そうか?」
「そうしましょう。余ったお肉は、別のときに使えばいいですし」
「それじゃあ行こうか」
まずは、肉屋だ。聞くとこの世界のお肉は、魔物の肉が多いらしい。一応牛や羊は、いるらしく放牧もしてはいるがそれは毛や乳を得るためだ。魔物の危険があって大量に家畜を飼うのが難しいらしく、家畜を潰して食べることはまれらしい。ちなみに豚はいない魔物にずいぶん昔に絶滅させられたらしい。
「それじゃあ牛型の魔物のお肉を二種類と猪のお肉に猪型の魔物のお肉をお願いします。」
四種類のお肉で挑戦することになった。
おじちゃんが話しかけてくる。
「嬢ちゃん、家の手伝いかい?えらいねえ、こちらはお兄さんかい?」
フェリスは、今メイド服を着ていないので家の手伝いと思われたらしい。
「いいえ違います。」
「あれ?でもお兄ちゃんって呼んでなかったっけ。じゃあ近所のお兄さんかい?」
「違います」
「じゃあ親戚」
「う~、ちがうもん」
フェリスの素が出てきて泣きそうになってしまった。理由がわからない理由がわからないので慰めることも出来ない。
おじちゃんもお客を泣かせたことにかなり焦っている。
「あんた、なにお客泣かせてんだい!」
「いや、俺もよくわかんなくてよお」
「まったく、この二人はデートの途中だったんだよ。それをあんたは、妹の枠に押し込めようとして」
「そ、そうなのかい嬢ちゃんそれは悪かった。この鳥肉もおまけするから許しておくれ」
おじちゃんが慌てて謝罪を口にする。
「いえご迷惑をおかけしました。大丈夫です、私のほうにも問題がありましたから」
居心地が悪くなったので店を出ることにする。
「お兄ちゃん、私たちってデートしてるようには見えないんだね」
「周りの目なんか気にするな実際はデートをしているし、俺はフェリスを大事に思っている。それでいいじゃないか、それにその内、気にならなくなるさ」
「どうしてですか?」
「俺は、精霊界で長く過ごしていたから体質が変化して少し自然そのものに近くなっているんだ。そのおかげで俺は長寿で歳を取るスピードも遅いんだ。水の精霊王の話では300年は生きられるらしい」
フェリスの頭を撫でながら
「三年後には、しっかり連れ合いに見えるさ」
「嬉しいですけど、それだと私のほうが先におばあちゃんになってしまいそうです。わたしも冒険者になろうかな」
「どうしてそこで冒険者になるんだ?」
「冒険者の人はある程度強くなると少し長寿になるらしいんです。能力ランクA以上必要らしいですが」
「へ〜それなら同じ時を過ごせるかもな。」
「はい、がんばります。」
フェリスがやる気になっている。まあいいか護身にもなるし
「それじゃあ残りの食材を買いに行こうか」
「はい」
後は、混ぜる玉ねぎとかの野菜だなこれは、もうフェリスにお任せだった。
家に帰り、フェリスと一緒に夕飯を作ることに手間のかかる挽肉は俺が担当した。
結果ハンバーグは牛型の魔物のお肉と猪型の魔物のお肉が一番おいしかった。
その夕食には食卓にハンバーグが並び、フェリスはいつも以上に幸せそうに俺の膝の上で食事を取っていた。
その夜
「「「今日は私たちです。」」」
やっぱり、寝室に三人娘がやって来た。ティリエルとテツとフェリスだ。
ティリエルの抱き付き癖に対抗するようにほかの二人も抱きついてきた。
一番小さいフェリスが体の上でティリエルが右、テツが左に抱きついたままの就寝となった。
三人ともやわらかかった。