24話 皇国軍VS王国軍
異世界33日目
グーロム王国軍側
「なんだ聞いていたのよりさらに少ないではないか」
コートル将軍は、敵の数を見てほくそ笑む
「そうでございますね」
副官が相槌を打つ。ラシード将軍は、自分の部隊を率いている。
「こちらから仕掛けてやろう。全軍に伝令、あのような陣地正面から粉砕させろ」
クイント皇国軍側
ワァァーー
「来たな」
「ええ来ました。手筈どうり陣地内まで引き込みます。」
「ああ頼むぜ、なんとか持たせてくれよ。」
「わかっていますよ」
しかし、この陣地には、今一万しか残っていないのだ。残りは、伏兵として左右に、一万ずつ伏せている。
今は、旗を増やしたり陣地を使って数をごまかしている。
一万で十万を受け止めることには不安がある。
不安が顔に出ていたのだろう。
「大丈夫です。相手は奴隷兵こちらは、正規兵です。見事に釣って見せます」
「わかった。信じるよアッシュ」
「全軍迎撃準備、各部隊長は手筈どうりに」
一番隊から十番隊まで作り各部隊長に千の兵を持たせたのだ
「敵近づいてきます。」
「弓構え・・・放て」
無数の矢が敵軍に降り注ぐ。
この矢のさきは潰してあるが、万の軍が動く戦場では、死者も怪我人もでる。
だが、もちろん被害は普通の矢に比べ少ない。
その代わり勢いもあまり落ちないまま先頭の部隊がぶつかり合う。
何とか初撃を受け流すと
「一番隊と二番隊は、後退してください。七番隊と八番隊はその援護を」
この陣地は元々逃げやすく作っている。
第一と第二部隊は陣地をうまく使い難なく後退をこなし、追撃してきた敵を七番隊と八番隊が攻撃する。一番隊と二番隊は、体制を整えたら部隊の援護に回る。これを繰り返しながら戦闘を行い敵を引き連れながら後退する。
これを難なくこなすのは、皇国軍の練度の高さの賜物だろう。
グーロム王国軍側
「いいぞ。押しているこのまま一気に全軍で攻め落とせ。」
コートル将軍には、それがわからず意気揚々と指示をだす。
「全軍で、でありますか?」
「そうだ、さっさとしろ」
隊長達は、渋々言われたとうり全軍が前進した。
皇国軍側
「思ったより早く。後続がでて来ましたね。」
アッシュが、嬉しそうな表情を浮かべる。
「よほど、こらえ性のない将軍なのでしょうな」
副官が相手の将軍を評価する。その評価は見事に当っていた。
「ではそろそろ。全軍、全力で後退してください。ジン殿に伝令を」
ジンの側には、ソフィアとレティーシアあと小太刀のテツがいた。
「ジン殿、アッシュ様から「いつでもやってくれ」とのことです。」
「了解。ソフィア準備はいいかい?」
「はい。大丈夫です。」
「じゃあ、いくよ」
俺は、そういってソフィアの手を握る
「水の聖痕発動『水龍』」
水の精霊が俺とソフィアを、包む。
「『水翼』」
さらに背中に、大きな水の翼ができる。
『水翼』は、大量の水を使うための準備だ。
「ソフィアは、危ないと思った人を助けることだけを考えて」
「はい!」
「いくよ。『陸津波』」
次の瞬間、翼から大量の水が噴出し、大量の水は制御され津波になる。陸に出来た2メートルの津波が五万の奴隷兵を押し流した。
ジンとソフィアは、この技そのものより、呑み込まれた人間を助けることに全力を尽くした。
ソフィアとの修行とは、この共同作業のことだったのだ。
溺れそうな人間を、波から出したり、流された武器を安全なところによけたり、何かにぶつかりそうな人をそらしたりした。
陸の津波がおさまった時五万の奴隷と後続の突出していた正規兵五千の兵が左右に押し流されていた。戦線復帰は不可能だろう。
「すごいな、これがジン殿の実力の一端か。」
アッシュは、しばらく呆けてしまった。その間に空に、青い光が撃ち上がった。
ジンが、光の精霊術で出した合図だ
この合図を、待っていた複数の人間がいた。
例えばクイント皇国軍には、
アッシュ皇子が、
「合図だ。騎馬隊を先頭に、突撃してください。魔術師はその援護を」
アッシュは、今まで温存していた九番隊と十番隊の騎兵二千を出して正面から反撃にでた。その後ろを、馬に乗った魔術師千人がついついく。
伏兵の指揮をしているゲオルグは、
「合図じゃな。一気に攻める。我らの目的は、貴族の私兵二万のみじゃ、それ以外は、手柄にならないと思え。突撃!」
次の瞬間一万もの伏兵が、地中から現れた。ジンが土の聖痕の『岩皇』を使って作った地下の空洞から出てきたのだ。ジンが、敵軍の足止めをしていたのは、彼らをここに伏せる時間を稼ぐためだったのだ。グーロム王国はこの空洞を知らないため伏兵に対して無警戒だった。
さらに敵軍を挟んで反対側には、ゲオルグの副官が、同じ内容を叫んで突撃を仕掛けた。
グーロム王国では、
戦闘奴隷の一角のレクト達が
「合図ですムガルさん」
ムガルとは、レクトの次に解放した戦闘奴隷だ。レクトをつけて後を任せた一人だ。
「見えとるよ。」
彼の目の前では、部隊長だった者の死体がある。この時、いたるところで奴隷を操る指輪持ちの部隊長が不意討ちで戦死していた。
「虐げられるのは今日で終わりだ。俺達には、救世主のジン様がついてる。ジン様の頼みで今から貴族共を殺しに行く。いいか野郎ども」
「「「オォォーー」」」
ここにいるのは、五十人程だが、解放した戦闘奴隷は、二千いる。
「救世主様のために」
「「「救世主様のために」」」
二千の奴隷が牙を向いた瞬間だ。
正規兵の一角ではラシード将軍が
「私は、民達を守るためこの国を捨てるついてきてくれるか?」
「我らラシード将軍と共に」
彼らは、ラシード将軍に鍛えられ、ラシード将軍を尊敬している兵達だ。その数五千。
「ありがとう。これよりコートル将軍を討つ。ついてこい」
ラシード将軍と五千の兵が、駒から人に戻り。反旗を翻した。
合図を聞いた五ヶ所が反撃に出たとき、ジンはティリエルの背に乗り空から戦場を見渡していた。ティリエルも合図を見て行動した一人だ。
戦場は、すでにほぼ決着がついていた。
奴隷兵五万は、すでに『陸津波』により左右に割られており、元々高くない士気が全くなくなっている状態で騎兵を止められる筈もなくほぼ素通りして貴族の私兵に肉薄する。
戦闘奴隷一万は、指揮官をすべて失い。何もせずに伏兵一万と元戦闘奴隷二千を、貴族の場所に通した。
正規兵二万は、五千を『陸津波』に呑み込まれ、さらに五千に裏切られ半分になっていた。残った一万もラシード将軍を見てどうすればいいのか分からなくなりラシード将軍と合流したゲオルグ将軍率いる一万に簡単に突破されてしまう。
こうして
貴族の私兵 二万
対
正面 三千
右 一万二千
左 一万五千
の三万の戦闘入った。
貴族の私兵は、何とか抵抗しようとするが、『陸津波』を見せられ動揺しているところに、突然の三方向からの攻撃に組織立った抵抗ができず簡単に崩されていく。
それに比べて攻める側の、皇国軍、ラシード将軍の兵、元戦闘奴隷と三種類の人間が混じっているにも関わらず。かなりの連携が取れている。
この時、指示していたのは、戦場の流れを空から見ていたジンだ。風の精霊を使って各リーダー格に命令を出し、合流させ連携を取らせていた。空から戦況を見ていたジンには簡単なことだった。
グーロム王国側は、
「なんだこれは、なぜこんなことになっている。」
命令を出すべきコートル将軍は呆然としていて、碌に命令も出せていない。
しばらくして自分を取り戻した時の第一声は
「もう無理だ。私は、逃げるぞ」
とだけ叫び一番最初に、逃げたした。元々将軍の器でわなかったのだ。それを見た他の貴族(奴隷商人でもある)達も我先にと逃げ出す。逃げる彼らの道は、後方しかない。
前方は三千の敵と五万の奴隷の壁その後ろには七千の敵、左右には一万を超える敵がいる。彼らが後方を選んだのは必然だった。しかし、その必然は作られた必然だった。
後方には、『嵐帝』を発動したジンが待っていたのだ。
コートル将軍がジンを見かけた時すでに辺りは血の海だった。すでに逃げようとした者がいたようでジンは、『嵐帝』の広範囲索敵を使い後ろ側に逃げてきた敵をすべてを殺していた。一人残らずだ。
「お前がコートル将軍だな。その首貰うぞ」
ヒュン
小さな風の音がした。
それだけでコートル将軍は、首を体から切り離され絶命した。
この時のジンは、口以外全く体を動かしていなかった。
コートル将軍の首が風に運ばれジンの近くに落ちた次の瞬間、
「『削嵐』」
逃げてきた貴族とその私兵は、声を出すこともできずに無数の風の刃にすり潰されて肉片になった。
間もなくして、正規兵の指揮を取っていたグーロム王国側の最後の将軍が降伏勧告を受け入れ戦いは、終わりを告げた。
こちらの被害は死者百人、怪我人が七百人ほどだ。
グーロム王国側は、貴族の私兵二万のほぼすべてが戦死、それと正規兵に少し死傷者が出た。
文句無しの完勝だった。