21話 皇都へ
異世界21日目
俺達は今、追手に追いつかれそうになっていた。その数80前後の完全武装の正真正銘の騎士団だ。
「あいつら軍馬まで出してきやがった」
レオンが毒づいている。
しかし、騎士団と軍馬を出してきたということは軍が、つまりは国が動いていることの証明だ。
この行動は、皇女達に俺の言葉に信憑性を持たせてくれた。
この場を切り抜くことができれば、交渉はしやすくなる。
「どうするんだ、貴様のせいだぞ」
たしかに、追いつかれたのは、一番距離のある道を選んだ結果ではある。他の道が2、3日で皇国に着くのに対してこの道は、5日もかかるのだ。
他の道が正解だとも思えないが、軍馬を出してきたのは、想定外だった。
グーロム王国はもう隠すつもりがないようだ。
それに敵は、甲冑を着けていて、聞くとあれには耐魔耐精霊の術がかけられている。負ける気はしないが、守りながらでは厳しい、だから
「あの狭い道まで行けば俺が何とかする」
「本当だろうな?」
レオンがさっきからうるさいな
「レオン卿今は逃げることだけ考えなさい」
レイシアが一喝する。
「了解しました。」
狭い道までたどり着いた。俺は、馬車から飛び降りた。
「お兄様!」
「ジン殿!」
「先に行け」
これ一度言ってみたかったんだよな。
「『岩壁』」
道を岩の壁でふさぎ馬車が見えなくなる。
「悪いな、ここから先は、通行止めだ。死にたいやつはかかってこい。」
俺は、高低差を埋めるため土で足場を作り80近い敵を迎え撃つ。
皇女達は、夜にはなんとか国境を超え、国境の近くで野営をしていた。皇女たちはジンを待っているというよりティリエルへの配慮のつもりだった。
「お兄様」
ティリエルは、ジンが来るであろう方向をずっと見ていた。
そこに、レオンとミリアが近づいて来た。
「お前、戻って来ると思ってんのか?」
ドコッ
「ゴフッ」
声にびっくりしてティリエルが振り返ると、ミリアの拳が脇腹を抉っていた。
「言葉を選びなさい。ジン様は、我々のためにあの場に残ったのですよ。」
「ふふっ大丈夫ですよ。お兄様は帰ってきます。」
二人はその年下の少女の揺るがない声に呆気に取られていると
「あっ」
街道に二つの人影が見えた。次の瞬間ティリエルが走り出す。
「お兄様!遅いです。」
ジンのところまで走り飛び付く
「痛い、痛いティリエルそこはやめて」
「お兄様どこか怪我したんですか!。」
「ああラシードって奴がわりとできるやつでな、痛み分けになった。」
そこにミリアたちも追いついてくる。
「ラシード将軍ですか、よくご無事で彼は気力がSの実力者なんですよ。」
「へ~じゃあ、あいつ『超越者』なのか?」
「いいえ、彼は魔力が低かったのでAランクなんです。超越者は、能力ランクがSランクからなのでちがいます。彼は『到達者』です。」
レイシアまで出てきた。
「ジン殿戻ってきたのか、信じていたぞ。」
「ああ、レイシア達は、怪我はなかったか?」
「我々は大丈夫だ。それよりジン殿怪我しているのか、大丈夫なのか?」
「かすり傷だよ。」
レイシアは、心配そうな顔をしていたがそれを聞いて安心し今度は真剣な表情で
「ジン殿此度の件、真に感謝する。グーロム軍が出てきていたのだ、あなたの言葉は真実なのだろう。わたしはあなたを信る。皇帝陛下への取次ぎは任せてくれ。まあ元々皇女の恩人だ、会うことは簡単だと思うが。」
「それはありがたいな。」
「ジン様は異世界から来たのでしたね。ジン様は、なんのために戦っているのですか?この世界に思い入れのないあなたがどうしてそこまでできるのですか?」
ミリアにとって、それはとても不思議なことだった。
しかし、ジンはとっては当たり前のことで
「自分のためだな」
「自分のですか?」
「そう、さあ明日は皇都までまだ距離はあるんだ今日は休もう。というより疲れた休みたい」
そういって締めくくった。
異世界24日目
三日かかって、やっと皇都の城門についた。
もう昼を回っている。
「やっと、皇都についたな。」
「ご主人様~、ご無事で~」
イリヤが凄い勢いで走ってくる。側まで来ると飛びついてきた。
「ご主人様、寂しかったです。」
「ずっと城門前で待っていたのか?」
呆れるような嬉しいような。
「はい。三人で順番に待ってました。」
「ジン殿我々は、先に城に向います。明日の昼ごろにお出でください。」
気を使ってくれたのか、レイシアたちとはここで別れることになり先に城に向った。
「わかった。イリヤ二人のところに案内して。これからのことを話そう」
「わかりました。行きましょう」
イリヤはそう言って俺と手を繋いで歩き出す。
クイント皇国は皇都は、グーロム王国の王都に比べてとても綺麗な所だった。少なくとも表通りには孤児は、見えない。しかし、孤児院も見えなかったからどこかにはいるのだろう。
市場にも活気があり個々の家も立派だ。あらゆる点でグーロム王国を凌駕している。
なぜ、グーロム王国は、皇国に戦争しようとしているのか、わからない。とても皇国に勝てるとは思えない。そこで、グーロム王国の目的が勝つこちではないことを思い出し怒りを覚えた。
いかんな、こんな状態であいつらに会うのは、なんとか気を鎮めようと思って、テツを抱きかかえる。
「と、突然、ど、どうしたのですか主?」
「ちょっとだけこうさせて」
「はい、ど、どうぞ、好きなだけ、むしろずっとでも」
「むう~」
ティリエル達がむくれているのは見ないことにして二人の待つ宿を目指す。
宿に着くと
「ジン様」「ジン」
テツを降ろして飛びついてきた二人を抱きとめる。
ソフィアなんかちょっと泣いている。
二人を解放して全員の顔を見る。
「これから忙しくなるぞ、なんせ国を一つ潰すんだからな」
「わたし、あの国嫌いです。」
「そうそう」
奴隷にされていたことがあるイリヤとリリスは、全面的に賛成という感じで、他の者も
「主が潰すと言うのなら潰すまでです。」
「人の国にあまり興味ありません。」
龍と小太刀の二人には、人の国という形に興味がないらしい。
ただソフィアだけは
「ジン様、わたしの村は大丈夫でしょうか?」
ソフィアの村は、王都から近いため巻き込まれないか心配なのだろう。
「大丈夫できるだけ綺麗に片付けるつもりだし、皇国が勝てば国民からは問題なく受け入れられるだろう」
ソフィアは、一応それで納得してくれたようだ。
「わかりました。」
「明日の昼に、登城だ。皆準備しておいてくれ。」
「はい」
「それでご主人様今日の夜は」
「イリヤさん、お兄様は疲れています。そういうことは後日にしてください。明日は登城なんですよ」
「む~、いいじゃないですか、お二人はずっと一緒に寝ていたんでしょ」
「うえ、まあそれは」
「やっぱり寝てたんだ~」
「うっ」
「大丈夫だよティリエル。まあでも一緒に寝るだけな」
「やった」
イリヤが嬉しそうにしているところに
「じゃあわたし達もいいですよね、ジン様」
「そうだね~、ジン」
「なんでそうなるんですか!」
「まあまあイリヤ、二人も一緒にいられなかったのは、同じだろ」
「う~わかりました。」
世界は救うつもりだが、やっぱりこういうのは大事だよな。
結局この夜は、三人を抱くことになったが。
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