20話 龍の思いと小太刀の思い
「俺は異世界人だ。」
「・・・・・」
まあそうなるよな。ちなみにこの場にいるのは、皇女のレティーシアとメイドのミリアそして女騎士のレイシアそして俺とティリエルの五人、これは俺が人数を減らすように頼んだ結果だ。この五人で、馬車の中で話している。風の結界で防音して外には漏れないようにしている。
「まあ、信用できないだろうから、これを見てくれ。」
そういってギルドカードを、見せる。
名前 ジン 男 18歳 人間
ギルドランク B
能力ランク 総合B 気力A 魔力C
チーム 『世界を結ぶ者達』
称号 聖痕使い 精霊王の友人 救世主 五人の女の主
奴隷の解放者 精霊術師
「救世主?精霊王の友人?」
「そ、俺って救世主らしいんだよね。」
「聖痕使いというのは?まさか」
「これのことだな」
左腕の聖痕を見せる。
「これが聖痕か、それであの精霊術か、納得だな」
「そんで、俺が何をしにこの世界に来たかだけど」
魔物の大侵攻について話した。
「そんなことが本当に起こるのですか、とても信じられません」
と、メイドさん。
「誰が何を言おうと起こるものは起こる、それに嘘をつく必要もないだろう。」
「そうですが」
「というより、考えても答えなんかでないだろ。今は、知っていてくれていればいい。皇族が知っているだけでこれからのことも変わるからね。」
「ジン殿、聖痕を使えば簡単に勝てたのではないですか?」
レイシアが不満というより単純に不思議がっていた。
「あ~実は、いま水の聖痕以外使えないんだわ」
「「「「・・・えっ」」」」
「実はここに来る前に銀龍と戦ったときに三つ使ってあんたら見つけるのに一つ使っていてな。聖痕って連続しようできないし、力が戻るまで少しかかるんだよね」
「ぎ、銀龍?銀龍と戦ったのか!」
「ああ、勝ったぜ。ちなみにティリエルの父親な。」
「・・・・・」
「だから、皇王との謁見よろしく頼むよ。」
「【ご主人様、人の姿になってもよいでしょうか?】」
ビクッ
三人が驚いているな。
「いいぞ。」
テツが人の姿になる。
「こいつはテツ、俺の小太刀だ。」
テツは突然、
「皆さん主はお疲れです。主については、これ以降ティリエルさんに聞いてください」
「どうしたんだテツ今は、」
テツが無理に俺を外に連れ出そうとする。
「お願いです。主一緒に来てください。お願いします。」
テツの声が震えている。
「わかった。すまない後は、ティリエルに聞いてくれ、ティリエルも何でも答えていいから。」
俺はテツを連れて馬車を出る。
-テツとジン-
人気の無いところまで俺を連れていくと、突然テツは、抱きついてきた。
「どうしたテツ大丈夫か?」
「私は問題ありません。私が心配しているのは主のことです」
「俺の、こと?」
「人を斬った時、主の心が軋んでいるようでした。」
その時に持たれていたからこそ、聞けた心の悲鳴だ。
「・・・俺は、この世界で何人も殺している。今さらだな」
盗賊、奴隷商人とそれなりに殺している。
そのはずなのに、
なぜ俺は今泣いている。
「私は、ずっと主の側にいました。なので主のいた世界のことも一番聞いています。」
それは他愛もないことを話した、ソフィア達との会話のことだろう。
「だから知っています。主の周りは、とても想像できないくらい平和な世界で、魔法はなく亜人もいない世界だったと」
テツは、俺のことを理解しようとしてくれていた。
「だから主にとって、人を『斬る』というのは、精霊術を使ってのものより『殺し』を特別意識することで。その事で、自分を責めているのだとわかりました。」
そうなのだ俺は今までの人間を、精霊術だけで殺してきた。怖かったのだ人を斬った時の感覚を覚えるのが、殺した人間の血を浴びるのが。
そして今日俺は斬る感覚を覚え、血を浴びた、恐怖を隠すために途中からは稽古に見立てたりもした。稽古に見立ててたくさん『斬った』のだ。
「主は優しいです。すべてを捨てて、この世界を救いに来てくれました。主は強いです。銀龍にすら勝ってしまいました。主は私達の誇りです。」
テツが喋ることを、やめない。
「ですけど、主は人なんです、時には私達に甘えてください。自分の中に溜めず、たまに吐き出してください。わたし達は受け止めますし支えます。そしてずっと側にいます。」
「ありがとう、テツ」
今日俺はテツの胸の中で泣いた。
馬車の中
ジンがでて行った後の馬車は沈黙が続いていた。テツ出現しその後すぐにジンを連れて行ったことで、その場をしばらくの間沈黙が支配していた。
レイシアが、沈黙を破って口を開く
「その、ティリエル殿」
「ティリエルで結構ですよ。」
「じゃあティリエル、ジン殿もああ言っていたしジン殿について聞いていいかい?」
「どうぞ、なんでも聞いてください」
「ありがとう、さっき龍がどうたら言っていたがジン殿はやはり強いのか?」
「ええ、強いんですよ。私の父に勝ってしまいましたし、個人で勝てる人間はいないと思います。聖痕を使えば一国とも戦えると思いますよ。」
「そこまでか、お兄様ってどういうこと?」
「旅に同行するさいに私からお願いしました。」
こうしてレイシアが、質問しティリエルが答えレティーシアとミリアは聞き役に徹した。
質問にいくつか答えたころにレティーシアが
「お二人の様子を見に行かなくてよろしいのでしょうか?」
「絶対に行かないでください!」
幼いティリエルの剣幕に三人が戸惑う
「お兄様は今きっと辛い思いをしています。」
「ここに来るまでに何かあったんですか?」
「いいえ、お兄様が辛いのは、人を殺したからだと思います。そのことはテツさんの方が分かると思います
。だからお兄様を任せたのですから。」
「人を殺したから?それだけ?」
「お兄様は、お優しいのです。本当は殺しなんてしたくないんです」
「あれほど力を持っているのに」
「そんなことは関係ありません。お兄様は、この世界を救うために力をつけたと言っていました。人を殺すためではありません。」
また馬車の中が静かになる。レイシアは、ジンの力のみに気を取られていたことを恥じていたし、ティリエルも今自分がジンになにもできないことを再確認して沈んでいた。
「え〜と、ティリエルちゃんは、どうしてジン殿と一緒にいるのですか?」
皇女が場の空気を変えるために新しい質問をする。
「えっ、え、えと、大好きだから」
空気がやわらぐ
「あ、あと支えになりたいんです。お兄様はこの世界に一人で来たらしいので故郷もないですし、だから、その」
「俺の話か?」
「うひゃ!」
「どうしたティリエル?」
「ど、どこから聞いて」
「どうしてジン殿と一緒にってあたりからだな」
ボン
真っ赤になった。
落ち着くのを待っていると
「その、大丈夫ですかお兄様?」
「大丈夫だよ。にしても俺ってそんなに顔に出てるかな」
「大丈夫ですよ。少なくとも皇女様方は気づいていなかったので」
「それはよかった。」
「お兄様、あの、今日は三人で寝ましょう。」
「・・・ありがとうティリエル。じゃあまた明日、お休み皇女様」
そういって馬車を後にする
その後の馬車
「ティリエル様の言葉を聞いてどう思われますか?レティーシア様」
「信用していいだろう。ティリエルの信頼は本物だった。」
「その上でどうするのですか?、皇女様」
「わたしはあいつが気に入った。何より強い」
(姫様がここまで異性を気に入るのは初めてね。どうなるのかしら)
「強いのは関係ないでしょうに、まあいいです。では、渡りはつけるということでいいんですね?」
「ああ、そうしてくれ。ふふっ、あいつの驚く顔が楽しみだな〜」
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