16話 聖痕使いVS銀龍
あの後、いっしょにティリエルの父親の所に向かうことが決まった。朝食を食べた後にポーションをもうひとつ飲んでもらい、いくらか良くなったがまだ体が痛むようなので、俺が背負って行くことにした。
背負われたティリエルは、この時、道を指差しながら
(背中広いです。強いし優しい、私にはいないけどお兄様とはこんな感じなのでしょうか。)
なんて暢気なこと考えており、この後起こるであろうことをまったく考えていなかった。
ティリエルの言うとおりに進み、開けた所に山小屋が見えてきた。
山小屋?え?
「もしかしてあれ?」
「そうですあれです。」
なんというか。イメージが崩れていった。
「家なんだね」
「わたし達を何だと思ってるんですか。私達は、人の姿になれますから、家にくらい住みます。それに人の方が燃費もいいんですよ、怪我したとき人の姿になったのもそのせいです」
それでかと俺が疑問をひとつ解消していると。山小屋の扉から
「ティリエル、いったいど・・こ・に・・・」
渋いおっさんが出てきた。おそらくティリエルの父親だろう。心配していたのだろう慌てて出てきた、しかしそのティリエルの父親の言葉が途中から小さくなっていって最後は俺に焦点を合わせる
「貴様の仕業かーーーー」
「・・・面倒そうな父親だね。ティリエルちょっと降りてもらっていい」
「人の娘を勝手に呼び捨てにするなーーー」
「落ち着いてください、お父さん」
「だれがお父さんだーーーー」
最後はちょっと遊んでみた。
「貴様殺す」
ティリエル父は、いきなり銀色の光に包まれ丸い光の玉ができる。それが一気に大きくなって二階建てくらいの大きさで光がはじけた、すると中から、いかにも強そうな銀龍があらわれた。銀龍は、この世界でも有数の力を持った存在らしい。たしかに、彼から受けるプレッシャーは、戦闘時の精霊王たちに近いものを感じる。手加減なんてできそうにない。
「ティリエル急いで離れて、ちょっと派手な喧嘩になりそうだ。」
「だめです。死んじゃいます。私といた方が」
泣きそうになっている。まったく父親の癖に何してるんだ。
ティリエルの頭を撫でながら
「大丈夫どっちも死んだりしないから」
いざとなれば切り札もある。
「信じますよ。」
「信じて。」
ティリエルは急いで距離を取る。
「娘といい雰囲気をつくるなーーー」
「うっせー、子離れの時間だ親バカやろう」
聖痕使いと銀龍の喧嘩が始まった。
「『七重・土壁』」
まず土壁で俺の姿を隠すが、すべての土壁を尻尾の一振りで破壊される。狙いの定まっていない尻尾をなんとかよけて、土煙の中側面に回リ込む。
「『炎蛇・四首』」
炎の蛇、四匹で多角的に攻撃する。三匹直撃した。
が、まったくの無傷、しかし驚いてはいた、俺が二種類の精霊を使ったことに対してだろう。
それでも銀龍はその驚きを押し隠し、避けずにつくった時間を使って魔法を行使する。
「駆けるは魔の風、無数の刃となりて我が敵を切り刻め『トルネード』」
チッ、口を狙うんだった。というか竜の形態でも喋れるんだな。放たれた『トルネード』は広範囲に回転する風をぶつけてくるものようだ。その中に、風の刃が無数に存在する。詠唱そのままだな。
これは防ぐのも避けるのも難しい。なのでもうひとつの方法を取った。
次の瞬間俺のいた場所に『トルネード』が直撃する。風が止むと俺は、
地中から這い出た。
つまり、地中に潜ったのだ。それを見た銀龍はそれならばとブレスを放とうとしている。
このバカがこいつクラスの龍がブレスを放てば周りが吹き飛ぶぞ、ティリエルのこと忘れていないか。
仕方なく
「火の聖痕を発動『炎王』」
体を炎が包み炎の鎧を着ているようにも、ジンが燃えているようにも見える。
銀龍はまた驚きながらもブレスを放つ、規模は小さい意外と冷静か?それとも侮っているのか?
「『炎竜砲』」
俺はそのブレスを、超高温の熱線で全力を持って迎え撃つ。思ったよりブレスの規模が小さかったため、一瞬の拮抗の後、熱線がブレスをお押し返し銀龍に向かう。
銀龍は、自分に向かってくる熱線を見てブレスを中断し熱線を避ける。熱線は後ろの森に落ちクレーターを作る。
「避けんな!」
「避けるわ!」
ちっ、炎蛇はよけなかったくせに。
あ~あ、銀龍の後ろの森が火の海だよ。
「貴様、聖痕持ちかそれに複数の精霊術を扱う。人間か?」
「失礼なやつだな。俺は異世界人だ。」
「ほう、いっそその方が納得ができる。面白い、良かろう次の攻撃を凌いだら娘との仲を認めてやる」
まだ勘違いしてるよ。まあ親に先に認めてもらうのも悪くない。
俺は『炎王』を解除し、
「いいだろう受けてたつ。土の聖痕を発動『岩皇』」
『岩皇』は『炎王』とは違い見た目は変わらない。しかしよく見るとジンの足が地面に沈んでいる。ジンがとてつもなく重くなっているのだ。
「ほかの聖痕もあるのかますます面白い受けてみろ、銀龍の最大のブレスを」
「受けてたつ。俺の全力の守りだ『土鉄岩金壁』」
これは、土壁・岩壁・鉄壁・金剛壁の壁を最大の大きさでつくる術で、もっとも防御力が高い。
完成と同時にブレスが放たれる。土壁が岩壁が受けて威力を散らし鉄壁と金剛壁が防ごうとする。
金剛壁に亀裂が入った。地形すらも変えるだろう凄まじい威力。しかしこの術の最大の特徴、
それは、防壁の維持が必要ないことだつまり。
「雷の聖痕を発動『雷神』」
『雷神』は雷が体を包みジン自身が雷のように見える。
「『タケミカヅチ』」
雷で螺旋状の槍を作り出し、ブレスが防壁破ると同時に投げる。雷槍は、ブレスの中心を突き破って進む。勢いは止まらず銀龍は、直撃する前にまたも避ける。
「どうよ」
「・・・完敗だ。まさか人に押し返される、いや貫かれるとは思わなかったよ。」
そう『タケミカヅチ』は、雷の槍を回転させて一点を貫く技だ。
「いいや、まだだ、あんたに見せたいものがある」
「まだ何かあるのか?」
「ある。この後話すことを円滑にするために見といてくれ」
「いいだろう」
俺は、銀龍に切り札を見せる。
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今目の前には、誤解を解いたあとティリエルと銀龍あらためアルベルトさんに、魔物の大侵攻についてと異世界人であること、精霊界で修行しすべての聖痕を持っていることを話し終わったところだ。
「そのための切り札か。それでここに来た目的はなんだ?大体予想はつくが。」
「まずは、アルベルトに戦列に加わってほしいんだ、頼む」
俺は、頭を下げる。
「・・・いいだろう。我はしばらくの間ここにいるから、必要なときに呼んでくれ。」
「いいのかそんなにあっさり、龍でも危険な戦いかもしれないぞ」
「かまわない、ジンは我を凌駕しているし、全力をぶつけ合った仲だ。龍は強い物に従う。それに私はジンと友になりたいと思っている。」
凌駕か、確かに切り札の俺は反則みたいなものだからな。しかしこれはありがたいので。
「ああ、これからもよろしくアルベルト」
「そこでだな。ひとつ頼みがある」
「なんだ?」
全然予想がつかない。
「ティリエルを連れて行ってやってほしい」
「なにを言い出すのです。お父様!」
「はっ?お前ティリエルのことであれだけ怒ってたじゃないか。」
「まあ、そろそろティリエルにも世界を見せるべきだと思っていたんだ。ジンなら安心だ。それにティリエルもお前のことを好いているようだしな。そうだろうティリエル?」
「うっ・・・・はぃ」
頬を染めて小さく頷く。
「えと、俺複数の女性と関係持ってますよ。」
「龍はそんなこと気にせんよ、なあティリエル。」
「はい、その、連れて行ってください。お願いします。」
「いや、でも、まだ年齢的に」
「私これでも15歳です!」
15歳なのか12歳くらいに見えるぞ、でもかわいいしいっか。
「わかった。ティリエル一緒に行こう。」
うれしそうな表情を浮かべた後、恥ずかしそうに頼んできたのが
「あの、お兄様と呼んでもいいですか?」
これはいい、可愛すぎる、アルベルトの前なのにティリエルを抱きしめてしまった。
抱きしめられて赤くなったティリエルに
「こちらからお願いしたいくらいだ。よろしくティリエル。」
「はい、お兄様」
「うおーーーー」
アルベルトが暴走しそうななるが、
「お父様!またお兄様に迷惑をかけたら承知しませんよ。」
「うぅ~わかったよ、すまなかったよ」
「本当に反省していますか、お兄様でなければ死んでいたんですよ。」
俺としては、この世界で始めて本気で戦闘をできて楽しかったのだが、ティリエルは先の戦いについて父に対して少しご立腹らしい。
旗色が悪くなったのを感じたのか
「そういえば先程、まずは、といっていたね。まだあるんじゃないかな?」
話を変えてきた。なのでもうひとつの方をきりだす
「竜輝石ってのを探している。ついでに入手もしたい。知っているか?」
「ああ、知ってるしちょうどあるぞ。もう必要ないからあげよう」
「もう必要ない?」
「竜輝石は幼い龍が成長するのに必要な物でな、人間で言う栄養みたいな物だ。そしてティリエルには、もう必要ないからな。」
それでこの山に住み着いていたのか。それより少し前は、必要だったのか。
引き出しから袋を取り出し、渡してきた。竜輝石がいくつか入っているようだ。
これが竜輝石か。竜輝石は、自分で光を放っている宝石の原石に見えた。光が強いほどいい物らしい。
「そうか、ならありがたく貰おう。」
竜輝石の入った袋を冒険者の袋に入れる。
「今日は、泊まっていくといい、戦闘で疲れただろう。わたしも今すぐ娘と別れるのはつらい。」
後半に本音が出ているぞ。まあ聖痕を三つも使って疲れているのは事実だから。
「そうさせてもらおうかな」
「それでは、もう遅いですしお食事にしましょう。」
ティリエルの雰囲気に反し料理は丸焼きというワイルドなものだった。こんな山奥ではしょうがないか。
夜、枕を抱え黒いひらひらした寝巻きを着たティリエルが、
「お兄様、あの一緒に寝てもいいですか?」
本当に可愛いなティリエルは、
「いいよ、おいで」
この夜は一緒に寝た。ティリエルは抱きつき癖があるようで、腰に腕を回し、脚を俺の脚に絡ませてきた。
この日は俺もティリエルを抱き枕にして寝た。寝ただけだぞ。
だってアルベルトいるしな。
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