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鍵のかかった冷蔵庫

作者: 小雨川蛙

 我が家には冷蔵庫が二つある。

 一つは普通に使う冷蔵庫。

 そして、もう一つは何故か物置に置かれている大きな冷蔵庫。

 真っ暗で他の音もしない部屋の中、コンセントを差している冷蔵庫だけが機械音が響いている。


 その冷蔵庫には鍵がかかっていた。

 チェーンでぐるぐる巻きにしてその先端に錠前をつけてある。


 8年の夏。

 私は遂に気になってお母さんに尋ねてみた。


「中身は何が入っているの?」


 お母さんは笑って言った。


「考えてごらん」


 そう言われて私は考えた。

 幼いからすぐに答えは浮かんだ。


「イチゴがどっさりと入っているの?」

「可愛い答えね」


 お母さんはそう言って笑った。

 だけど、それっきりだ。

 冷蔵庫の中身を教えてくれなかったし、開けてくれることもなかった。



 *



 9年の夏。


 私は冷蔵庫の中身が気になってお母さんに尋ねた。


「中身は何が入っているの?」


 以前より少し痩せたお母さんはまた笑いながら言った。


「考えてごらん」


 私は考えて答えを出した。


「イチゴがどっさりと入っているの?」

「やっぱり可愛い答えね」


 お母さんはそう言って笑った。

 だけど、それっきりだ。

 冷蔵庫の中身を教えてくれなかったし、開けてくれることもなかった。



 *



 12年の夏。

 私はお母さんに尋ねた。


「何が入っているの?」

「考えてごらん?」

「イチゴがどっさりと入っているの?」

「……相変わらず可愛い答えね」


 お母さんは前よりもさらに痩せていた。



 *



 15年の夏も。

 20年の夏も。

 30年も、40年も、50年も……。


 やがて、お母さんはベッドから起きられなくなった。

 当然だ。

 歳を取らない私と違って、お母さんはもうお婆さんだから。


「冷蔵庫の中身は何が入っているの?」


 毎年、やってくるこの日に。

 飽きもせず、お母さんに尋ねる。


 何度も。

 何度も。

 何度も、何度も、何度も。


「分かっているくせに」


 お母さんはそう言った。


 冷蔵庫はとっくに壊れていた。

 中身はとっくに腐っていた。


「ねえ、お母さん。開けてよ」


 私はそう言った。

 あの日と同じように。


「開けてよ、お母さん。ねえ、お願いだから」


 あの日を繰り返すように。


「もうしないから。もうお母さんを怒らせないから。だからね」


 あの日と違う点は二つ。

 一つは私は冷蔵庫の外から声を出していること。


「ね。だから、ここを開けて。お願いだから」


 そして、もう一つはあの日と違って私はもう死んでいる。

 とっくの昔にね。


「出して。おかあさん。お願いだから、出して」


 お母さんは答えなかった。

 耳をふさいだまま死んじゃった。


「あーあ」


 私は呟く。




 これじゃ、もう出られないじゃん



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