第8話 ポニーテールと赤い顔
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大汗先生の拷問を耐え、ついに球技大会の時が訪れた。
「今日は暑いな〜。40度くらいあるんじゃないか?」辛そうな顔で隼人が呟く。
確かに今日は暑い。大汗先生がいるからか、それともあそこに居る暑苦しい集団のせいなのか。
「気合いだ!気合いだ!気合いだ!テメエら負けたらぶっ殺すからな!」
男達が集団で円陣を組んで、叫んでいる。僕はああいうのがとてつもなく苦手だ。
炎天下の中、汗をかいた男達が密着し叫ぶ。ただでさえ暑いのにあんな臭くて暑そうなところになんて、こちらから願い下げだ。
しかも、ここは体育祭の会場ではない。体育祭の会場はここから3キロくらいのところにある。
では、ここがどこなのか。学校の校門の前だ。毎年うるさくて、警察に通報が入るそうだ。
柴崎先生が言っていたのは競技中だけではなく、その前のことも含めて盛り上がりすぎて警察沙汰になると言っていたのだ。
「あいつら、本当に元気だよな」
元気だよなだけで済ますな。周りの人が炎天下の中、冷たい目であいつらを見ていることに気づけよ。
「ああ、元気だな」別にそんなこと1ミリも思っていはいないが、空気を読んで言っておいた。
僕らは、会場に向かって走り始めた。
この暑い中でも隼人は元気だ。おまけにナルシストでもあるようだ。
「俺ずっと思ってたんだけどさ、このクラス俺がいる時点で優勝は確定なんだから心配なんてしなくて良いのによ。真也だってそう思うだろ」
満面の笑みで言ってくる。
いや、こいつ縄跳びだし、うまくできたところでそんなにポイントはもらえないだろとは言わなかった。
しばらく歩いていると女子達が見えた。その中には今井さんもいる。僕は少し前のことを思い出した。
今井さんに抱いたあの感情…あれはいったい何だったのか未だにわかっていない。
今井さんをよく見るといつもと髪型が違っていた。残念ながら僕は髪型に詳しくない。
歩きながらそう考えていると隼人が言った。
「今井さん、今日はポニーテールだな。いつもは下ろしてるけど、あれも良いよな!」
僕は思い出した。そうだ、ポニーテールだ。しかし、あの髪型はすごく似合って…
「いや、僕は何を言っているんだ。最近おかしいな」
つい口に出してします。すると隼人が心配そうに「真也、熱中症なんじゃないよな?無理するなよ」
思わず疑問に思ってしまい「何でそうなるんだよ」と言ってしまった。
「だってさ、真也。お前…顔めっちゃ赤いぞ」
何も言葉が出てこなかった。なぜだろう…何でこんなにも不思議な気持ちになるんだろう。
すると今井さんがこっちを見る。目があったので僕は目を逸らした。
「真也くん、隼人くんおはよう!今日は暑いから熱中症に気をつけて頑張ろうね!」いつも通りの満面の笑みのはずなのに、なぜだろう。
彼女の額から流れる汗、見えるうなじ。全てが何か特別なものに見える。
「うん、お互い頑張ろう」
同様を悟られぬよう、顔に感情を出さないよう静かに心をなだめた。今井さんはすぐに友達の元に戻って行った。
僕は思ったんだ。
彼女が…いや、満面の笑みを浮かべているはずなのに、背を向けて歩いていくその姿は、不思議とどこか寂しげに映った。
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