第24話 君と雨の日の帰り道
静かな教室に雨音が響き渡る。窓から通り抜けてくる風は、いつもより冷たく肌寒く感じていた。
いきなり降ってきた雨だからか、多くの生徒達は傘を持っていなく立ち往生している。
「マジかよ。なんでこのタイミングで雨が降るんだ」
「だよな。マジでだるい」
生徒達から不満の声があがっている中、僕は颯爽と折り畳み傘を取り出す。
僕が帰ろうとすると、今井さんも傘がないみたいで立ち往生していた。
「今井さん?傘ないの?」
「うん…いつも入れてるんだけど、こういう時に限って家に置いてきちゃったみたい…」
悔しそうな顔をする彼女に、少し胸が高鳴った気がした。
「あのさ…嫌じゃなかったらなんだけど」
「ん?」
今井さんは僕の顔を見つめて聞く。
「僕の傘に入って帰る…?なんて…」
(いや、何を言ってるんだ僕は。普通にこんなこと言ったら気持ち悪いだろ!)
そう、言ったことを軽めに公開していると
「全然、嫌じゃないよ。傘入って一緒に帰ろ!」
彼女は顔を赤面させて嬉しそうにそう言ってくれた。
(良かった…)
絶対断られると思っていたから、一緒に帰ってくれることになって緊張感が解けて安堵した。
2人で傘を差し、雨の中を歩き始める。
「真也くん、雨って好き?」
「うん。好きだよ。音を聞いているだけで心が落ち着くから」
「私も好き…だよ」
「ん?ごめん。雨の音で聞こえなかった。なんて言ったの?」
彼女はお目の音でかき消されるほど小さな声で何かを呟いた。
「うんん。なんでもないよ!ただ私も雨好きだから一緒だねって言いたかったんだ!」
「そ、そうなんだ」
彼女の顔を赤面しているように見えるが、それはきっと気のせいだろう。
しばらく二人で歩いていると、傘の下は思ったよりも狭かった。
肩と肩が時々ぶつかって、そのたびに心臓が大きな音を立てる。
(近い…。こんなに近く歩いてたなんて気づかなかったな)
「ねぇ、真也くん」
「な、なに?」
「こうやって一緒に帰るのって、なんか新鮮だね。いつも一緒に帰ってたけど、雨だからかな?なんとなく新鮮に感じるんだ」
「そ、そうだね。僕もそう思うよ」
会話が途切れると、聞こえてくるのは雨の音と、二人の足音だけ。
その沈黙さえ、今日は少し心地よかった。
やがて小さな水たまりに差し掛かったとき、今井さんがふいに立ち止まった。
「わっ!」
小さな跳ね返りで制服の裾に水がかかってしまったらしい。
彼女は慌ててスカートを払っている。
「大丈夫?」
僕は思わず傘を彼女の方へぐっと傾けた。
その拍子に二人の距離がさらに縮まる。
「近いね…」
互いの方がくっつきそうなくらいの距離で今井さんが小さな声で呟いた。
僕はどう返せばいいのかわからず、ただ頬が熱くなるのを感じる。
「ご、ごめん!」
「…ううん。謝らなくていいよ」
彼女は恥ずかしそうに微笑んで、それ以上は何も言わなかった。
その笑顔に、雨の冷たさも不思議と和らいでいく気がした。




