第2話 話しかけてくる君
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次の日の朝。鳥のさえずりで目を覚ます。
僕の住む住宅街は人が多く、電柱の上にはスズメやカラスが止まって鳴いている。
両隣は犬を飼っているので、朝から犬の鳴き声も響き渡る。
父はうるさい生き物が苦手で、毎朝「鳥と犬がうるさい」と文句を言いながら起きてくる。
僕はその文句を聞くのが毎日ストレスだ。
朝から文句を聞かされると、1日が悪い状態で始まる気がしてしまう。
非合理的だと分かっているのに。
僕は父に「おはよう」とだけ言って、すぐ家を出る。
電車で学校へ向かい、門の前に立つ仁王立ちの教頭・都丸先生に怯えながらも「おはようございます」と挨拶。後ろから「おい、そこのお前!」と声がかかる。
挨拶が小さいから引き止められたらしい。
そんなことで止めるなよ…と思いつつ、「すみません、次から気をつけます」と答える。
教室に入ると、そこには今井彩花がいた。
まだ話したこともないし、話題もないので静寂が流れる。
すると、彼女が口を開いた。
「おはようございます。真也くんは登校が早いんですね」
僕より早い君が言うのかそれ…と思ったが、緊張のあまり口がうまく動かない。
「お、おはようございます…今井さんこそ朝は…早いんですね」と情けない声になる。
今井さんが微笑む。
「同級生にそんなに緊張しなくても」と言われ、僕はちょっと驚いた。
「僕は普段あまり人と話さないので…緊張しました」と告げると、「そういう人もいるよね。私も昔はそうだった」と彼女は笑う。
ギャップと好感が同時に来て、なんだか心が軽くなる。
少しすると教室も賑やかになり、僕は自然と身を引いた。今井さんの周りにはすぐ人が集まる。
帰り道、音楽を聴きながら歩いていると、後ろから肩を叩かれた。宗教勧誘かと思った。
僕の地域には「宗教勧誘おばさん」という謎の生物が存在する。
遭遇すると「なむしんにょって言ってごらん。神様が助けてくれるから」と言ってくるのだ。
しかも地味に煽ってくるところが、またウザイんだ。この前、こんな光景を見た。
「あなた、今何かに困っているわね。私には分かるわ」
「マジすか!?」と男子生徒が目が飛び出しそうなくらい驚いていた。
「ええ、そうよ。あなたは勉強になやんでいる…」
男子生徒は真顔だった。
恐らく勉強で悩んで居ないのだろう。
なんならこのやり取りの真横を、知らないフリして通り過ぎるのは気を使うから早く終わって欲しいという僕の悩みを解決して欲しいくらいだ。
「じゃなくて…恋愛で…」
男子生徒が図星でもない顔をした。
「そう!あなたは恋愛で悩んでいる!」
「な、なんで分かったんですか!?」
そりゃ、そのやり方でやってたらいつか当たるだろ。
このように、凄く厄介な生き物で正直絡んで欲しくない。
振り向くと、そこにいたのは宗教勧誘おばさん…ではなく今井さんだった。
「お疲れ様!」
「お疲れ様です」
「たまたま居たから、一緒に帰ろうと思って」「そうなんですね…」
「学校疲れたね。だって7階だもん、足パンパンになるよね。まるで泣いた次の日の女子の顔みたいにさ。ハハハ」
その例えは全く意味が分からなかったが、改めて明るい子だと分かる。
「僕も実は筋肉痛なんだ。あんな段数登ったことなかったから」と僕が言うと、今井さんは僕の足を見て「真也くん、足長いよね。身長いくつ?」と興味津々に聞いてくる。
「173cmだよ。中学3年生の頃から変わってないんだ」と答えると、「そうなんだね。でも、羨ましいな。私なんて158cmしかないのに…」と悔しそうな顔で呟く。
そんな他愛もない話をしていると、気づいたら駅に到着。
「もう少し話したかったけど…」と言った今井さんに、僕は「じゃあね」とあっさり別れた。
あまり目立ちたくない。変な噂になったら嫌だし、彼女も嫌だろう。
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