H2OZOメルトダウン
タワーマンション最上階58階で小野すゐ蔵さん(88)が老衰で亡くなる。
彼はこれまでの人生において、戦後に若くして経営者として会社を牽引し、経済成長期に様々な会社の顧問として政治家以上に日本という国を引っ張った立役者であった。穏やかでそれでいて物事の本質を的確に射貫く。その姿に多くの人が付き従い彼の人生は大きく騙されたりすることなく、その生涯は非常に順風満帆であったといえよう。
そんな成功例の象徴である一方で、人として過去に例の無い個体であった事が死後の検分で判明した。彼の人生の成功も後年にその前例の無いそれのせいで大きくゆがめられてしまう事になった。
7/3(木)15:10。日中に亡くなった事を皮切りにすい臓で作られる消化液であるすい液が自分自身を溶かし始める。そもそも食べ物の消化はすい液のみあれば大きな問題は無いとされている。基質特異性(然るべき段階で特定の酵素で分解・消化して小さくしていく必要がある)と学校で習うがすい液はその限りでは無い。消化液として別格であるすい液。すゐ蔵さんは他に類を見ない特殊な酵素を持つすい液であった。すべての物質を強力に溶解させるが消化液自体は変化しない。
亡くなってからすい液から体を守る保護ベールが消える。内臓を溶かし、皮膚を溶かし、シーツやベッド本体を溶かし、そして床を溶かし始めたのだ。亡くなりわずか3分。15:13。58階で亡くなったそゐ蔵さんの1階層下。57階の天井が液体で茶色く滲んだように見え、間もなく液体が天井から垂れてくる。そして運が悪いことに57階層の住人に消化液がポタリと落ちる。
およそ4時間後の19:20、すゐ蔵さんの消化液は1階まで滴り貫通する。しかしその溶解液の潜行は留まらず1階の床に穴を作る。この事故?事件?には不明な点が多い。死者数は階層数と同様の58人。全ての階層で1人ずつ人が亡くなっていた。なぜ多くのベッドの位置が上下の階層で揃っていたのか…?昼過ぎから夕方の時間帯。人が最も活動的な時間帯で何故被害者の大半がベッドで横になっていたのか…?
何よりも逃げる時間が無かったという状態では無い。1滴。1滴。ポタ、ポタ。と。
穏やかに滴っていた状況の中で何故誰も逃げずに被害者はその身を溶かされ、
死ぬまで動かなかったのか…?
これはカルト教団による集団自殺ではないか?
黒魔術の一種の儀式ではないのか?
宇宙人に対する交信では無いか?
すい液が天井でシミを作った時点でその直下に住民は吸い寄せられてしまったのか?
匂いに体が麻痺する成分が入っていたのではないか?
週刊誌やTVの報道で何度も取り上げられたが勿論憶測の域を出る事はない。すい液そのものは一切痕跡を残さず1階に穴を残して潜行し消えてしまった。なおもし儀式だったとしたならその目的は
果たして地球を救う儀式だったのか、地球を壊す儀式だったのか、、、
1カ月経った今なお内部マントルへ目掛け、地球という星を溶かし続けているであろうすゐ蔵さんのすい液。何を目指して地上58階からメルトダウンしたのかは本人でさえ分からないだろう。
オチらしいオチは無いです タイトルはH2OZO、縦読みで小野と読ませています。メルトダウンは語感が良いので。