1-1:朝方の浜辺にて
或記憶ノ断片
───色が、見えた。
───あかるくてやわらかい、ねずみ色が。
───もうひとつ、見えた。
───きらびやかにかがやく、しろい色が。
「特別な意味なんだろう?」
───しろい色が、言っている。
───なにかを。
「・・・きっと、ハッピーエンドにしてやる」
───しろい色が、かがやく。
───音が、きこえる。
「・・・運・・・は定めた」
───いろが、きえていく。
「過・・・は全て、ふ・・・・・の思うがま・・・だ」
───いろが、みえなくなる。
───おとが、かすれていく。
「・・・面・・・なこ・・・・・が」
───くろく、なる。
「・・・・・あ、た・・・・・み・・・・・・・・て・・・・・」
───── 一節:物語のはじまり
ぎらぎらと輝く太陽の下、陽の光で照らされる窓のそばで、ひとりの女性がラジカセの電源を入れた。
ジジジと声を上げながら起動するラジカセの裏にある、収納型のアンテナを引き伸ばしながら、彼女は机の上の紅茶を手に取って一口。
「・・・・・おいしい」
満足そうに、やわらかく微笑む。
すると、まるで狙ったかのようなタイミングで、ラジカセからブツリという音が鳴り、何やら軽快な音楽が流れ始めた。
『───さあて始まりました! わたくしタローの、正真正銘ソロラジオ! 本日も一人寂しく、廃墟のスタジオでやらせていただいております〜』
とても軽快なBGMとともに始まる、一本のラジオ。
パーソナリティの男性は、自虐を混ぜつつも楽しそうに話を続ける。
『ということでね、毎度の挨拶が済みましたところで、本日のお題ということで・・・・・』
と、これから楽しくなりそうなところで、彼女はなぜかラジカセの電源を切った。
ラジカセはブツリと音を立てて停止し、また次の起動までの間を静かに佇む。
「・・・・・」
何かに気づいた様子でカップをソーサーの上に置き、すっと立ち上がった彼女は、落ち着いた足取りで玄関へ向かい、扉を開けて家を出ようとする。
しかし、ぎらぎらとした陽の光が目に直撃したので、彼女は帽子を取ってくることにした。
「ぼうし・・・ぼうし・・・」
振り返り、ぱたぱたと小走りでスタンドのところまで行くと、純白で唾が広いハットを手に取って頭にかぶる。
そして、横にある立ち鏡を見ながら位置を整え、満足できたら控えめなポーズをとって確認を行う。
「・・・うん」
満足そうに呟くと、また振り返って扉のもとへ歩いて向かい、彼女は再び外に出た。
今度は日差しが目にぶっ刺さることはなかったが、その代わり、目の前に広がる広大な海の、小さな波から反射した光が彼女の目に直撃する。
「・・・・・」
しかし生憎、彼女は趣味じゃないからという理由でサングラスを持っていない。
不満げな表情をしつつも仕方ないと割り切った彼女は、後ろ手で扉を閉めてから、目的地に向かうために歩き始めた。
数歩ほど歩いて左を向き、右にある手すりに手を沿わせながら階段で下へと降りていく。
すると、そこには真っ白な砂浜が広がっていて、ところどころに正体不明で色とりどりの小さな結晶が散らばっていたりする。
「もう少し先かな」
彼女は砂浜をひと通り見回してからそう呟くと、そのまま壁に沿って歩き始めた。
「─────」
十数歩ほど歩いて角につき、また真っ白な砂浜が現れたところで、彼女は家を出た目的を発見する。
「・・・?」
さらに奥の曲がり角の近く、少し前の時間までは波打ち際だったであろう場所に打ち上がっている、人型の物体。
それはうつ伏せの状態で砂にめり込んでおり、下手したら窒息死していそうな様相だ。
「・・・生きてる?」
とはいえ、彼女は魔女。
さっきだって、あの人型の物体から発せられているはずの生命反応に気がついて、家から出てきたのだ。
それに、これで「間に合いませんでした」だと、ちょっと嫌な気持ちになってしまうだろう。
「うん・・・生きてるかな・・・」
歩いて近づきながら、魔法を使って生体反応を見てみた彼女は、目の前の人型の物体が生き物であるということを確認した。
だが、どれだけ近づいてみても、その生き物が動く気配はない。
「・・・・・」
ついに隣まで来て、しゃがみこみ、つついてみるが、まったく反応はない。
「・・・運ばなきゃ・・・かな」
怪我をしているなら治療しなければならないし、そうでなくとも放っておくのは寝覚めが悪いと、彼女はこの生き物を家に連れ帰ることにした。
「よいしょ・・・。ん〜っ!」
声を漏らしながら立ち上がり、ぐい〜っと伸びをする彼女。
それから一呼吸を置いて視線を落とし、右手の人差し指を人型の生き物に向けた。
「ぶーん・・・」
彼女が右手の人差し指に力を込めると、人差し指の周りには白色の淡い光が出現し、オーラとして彼女の指を包む。
「・・・ひょい」
次に彼女が指をくいっと上に向けると、人型の生き物の体にも同じようなオーラが出現し、肉体を包み込んでゆっくりと持ち上げていく。
「・・・・・うん」
人型の生き物の体が空中で安定したことを確認すると、彼女は可愛らしい声を漏らしながら、満足そうに頷いた。
それから、くるりと翻して、さくさくとした足音を立てながら、ごきげんな気分で家へと帰っていく。
「・・・・・」
帰る途中、乾いた砂の上を歩きながら、彼女は考える。
この、ヒトらしき生き物について。
「・・・ふふん」
どう使ってやろうか。
どんな扱いにしようか。
それとも、単に育てるだけにしようか。
・・・なんて、くだらないことを。
「・・・・・」
彼女の名前は、ルナ・リリウム。
とある孤島でひっそりと暮らす、月輪の名を冠する「魔女」である。
艶のあるお姉さんに飼われたい願望があるので、自給自足を始めました。
こっちは向こうのマジで書いてるやつと違って、キャラクターの動作と雰囲気を細かく描写して、それを楽しむ感じの内容で行きたいと思ってます。
※間にある記号については以下の通りに。
◇←これは本文か否かを区切るのに使っています。なろう版では前書きと後書きの機能があるので使ってません。
〇←作中で時間が空いた時や、場面転換の際に使っています。
▽←視点が変わった時に使っています。一人称から三人称、文中で視点が変わった際など。