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森の魔女とテ・アル・ラッテ・コン・ミエーレ

作者: 櫻井入文

遅ればせながら、新年おめでとうございます。

すっかり寒中見舞いな時期ですが……。

ご挨拶も兼ねまして、今年もどうかよろしくお願いいたします。

 アストリッドは、彼女の魔法の工房で今宵も儀式の準備を始めた。


 まず、大きな黒曜石の鍋を取り出し、月の光が満ちる窓辺に置いて清らかな泉の水を鍋に注ぐ。次に真っ直ぐに伸ばした指先を下ろし青白く輝く火を灯した。彼女の指先が左右に振れるたび、炎の高さが変わる。満足のいく高さに整えるとアストリッドは森の精霊たちが祝福した茶葉を取り出した。この茶葉は、魔女の森で夜明け前に摘まれた特別な黒茶だ。


「夜の精霊たちよ、我の呼び声に応えよ」


 鍋の中で水が踊り出したのを見てからアストリッドは慎重に茶葉を選び、まるで薬草の精を呼び出すように、鍋にひとつずつ落とした。茶葉が踊る水に触れると、部屋中に心休まる香りが広がり安寧の調和が生まれていく。


 次にアストリッドは、部屋の片隅に設けた氷の精霊の住処の扉を開け、天の川の雫を取り出した。それは銀河の星々から採れた特別な液体で、氷の精霊の住処に隠されたことで加護を受け、夜の静寂を閉じ込めたかのような冷たさを持つようになった。アストリッドは、これを慎重に鍋に注ぎ、雫が茶の渦に溶け込む様を注視した。鍋の中が柔らかな色合いに変化したのを見て、甘さと力を与えるため棚の上に置かれた瓶に手を伸ばす。

 瓶の中には、黄金色に輝く太陽の微笑みがたっぷり入っていた。それは、太陽の輝きを目一杯浴びて育った花の夢を集めて作られた甘さそのものだ。彼女はこの微笑みを魔法のスプーンで少しずつ鍋に加え、味のバランスを整えていく。


 そして、最後の魔法の儀式。


 アストリッドは鍋の上に両手をかざし、静かに唱えた。


「心地よい温もりと癒しをこの飲み物に、テ・アル・ラッテ・コン・ミエーレ」


 すると鍋の中では、クリーム色とオレンジが混ざり合い、まるで妖精が住む湖のような優美で深遠な色に輝き出し、魔力が溢れ出すかのように完璧な温度と香りが引き出された。


 彼女はこの神秘的な飲み物を、月の光が凝縮されたような銀色の輝きを放つ陶器のカップに注ぎ、深呼吸して香りを楽しむと満足げに微笑んだ。


「今宵も、魔法は我と共に」


 掲げたカップから一口目をいただく。その味わいに、思わず目を閉じてしまった。心と魂が癒されるのを感じる。


「おいし……」


 体の中心から温もりが広がり、ゆっくりと瞼をあげた。


 そこには先程までの魔女の工房はなく。普段暮らす彼女の部屋であった。


「さ、遊んでないで片付けて寝ましょ」


 ミルクティーを飲み干すと使ったカップと鍋と茶漉しは手早く洗い、紅茶缶はキッチンカウンターに、ミルクは冷蔵庫へ、はちみつは棚に戻してコンロも軽く拭き掃除する。


「よし」


 シンクがキレイに調ったことを確認して、アストリッドは歯を磨くために洗面所へと消えるのであった。





 彼女が本物の魔女であるかどうかは、…………ご想像にお任せする。





はちみつミルクティーは、寝る前に飲むと体が温まり、安眠できるみたいです。


まだまだ寒いですからね、体調にはお気をつけください。


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