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サイボーグエクソシスト(仮)  作者: 登美川ステファニイ
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4-2

「そうだ。すでに何人も負傷者がでており、人質もいた。これ以上の説得は危険と判断し介入した」

「ふざけるな! 発症者は治療可能な患者だ。それを貴様は……!」

「患者、だと? お前たちは悪魔付きと呼んでいるではないか。悪魔とやらが何なのかは知らないが、要するに悪人ということだろう。悪人には更生の余地があるが、しかし武装した危険な犯罪者を放置することはできない」

「我々なら救えた。発症者を治療することができた」

「その為に何が必要だった? 正解は時間だ。お前たちが到着するまでに時間がかかりすぎた。その間ずっと待っていろというのか? 目の前で人質がいつ殺されるかもわからないのに? 被害者より加害者の方を気にするなんて、お前たち祓魔室は歪んでいるんじゃないのか。また市民団体に突っ込まれるぞ。同じ天文省つきの組織として、こちらもいい迷惑だ」

「……それは我々だけのせいではない」

「確かにな。天文省全体に問題があることは、私も認める。おっと、公式な立場ではないぞ。この場だけの話だ。とにかく、話が逸れたな。我々の実力行使には何の問題もない。遅かったお前たちが悪い」

「だからといって発症者を……!」

「人質は無事に救助した。負傷者は、これでも最低限に抑えた。お前たちに文句を言われる筋合いはない。大体その発症者というのも、健全な社会復帰は困難なんだろう? この前資料を見たぞ。発症者として保護された犯罪者、おっと、お前たちの言葉で言えば患者か。患者の復帰の割合は僅かに八%。他の九二%は一生を精神病院で送ることになる。そういった人間を差別する気はないが、しかし生きていても結局死んでいるようなものではないか」

「ふざけるな……!」

 言いながらもアイカは、確かに保護した発症者にはそういう側面があることも知っていた。昨日保護したメイアとハロルドも、恐らくは一生を病院で過ごすことになり介護施設に戻ることはないだろう。

 それでも、自分たちのやっていることには意義があるとアイカは考えている。生きていれば可能性がある。未来がある。犯罪者として処断し、時に命を奪うことは、それは全ての未来を奪うことだ。人質の命と天秤にかけた時にどちらを優先するのかは大きな問題になりうるが、それでも、ダグラスの言うように犯人として殺して当然というような態度は許容できるものではなかった。

「はっきり言って税金の無駄だ。去年の政府支出を見たか? また社会保障費が増えている。お前たちの言う患者もその金で養われているんだ。はっきり言って金の無駄だ」

「人の命を金で贖うことはできない」

「冗談を言っているのか? そんな綺麗事が通じるのは幼児教育までだ。金は命に直結する。治安も教育も医療も、全て金だろう。また話が逸れたな。とにかく、我々の仕事は終わった。これで失礼する。詳細を聞きたいのなら警察官諸君に聞くんだな」

「待て! 話は終わっていない!」

 食い下がるアイカを無視し、ダグラスはその脇を歩いていく。その後ろに二体のサイボーグも続いていく。アルファはその様子を眺めていたが、口を挟むことはしなかった。

 アイカはダグラスを追いかけようとしたが、視界の端に見えたものに気づく。担架で運ばれる黒い袋。ボディバッグだっった。状況から考えて、中に入っているのは殺された発症者だろう。

 そのまま警察車両に運ばれるようだったが、それをアイカが制した。

「待ってくれ。患者に祈りを捧げたい」

「え、何ですって?」

 担架を運んでいた警官は何事かと不思議そうな顔をする。そして助けを求めるように上司の方を見るが、その上司、警部も困惑しているようだった。アイカもその警部の方を向いて言う。

「この人は無慈悲にも殺されてしまった。せめて祈りを捧げたい」

「……わかり、ました」

 視線を泳がせながら警部は答える。アイカは軽く頭を下げ、担架に向き直る。警察官たちは担架をおろし、アイカは片膝をついて祈りを始めた。

「天の父なる神よ。我ら罪人つみびとを憐れみたまえ。世を贖いたまいし子なる神よ。我ら罪人を憐れみたまえ。父と子よりいづる精霊なる神よ。我ら罪人を憐れみたまえ。いときよくして栄光ある三位一体の神よ。我ら罪人を憐れみたまえ。主よ、我らと先祖の咎を思うことなく、また我らの罪を罰したまうをなかれ。憐れみ深き主よ、たっとき血にて贖いたまいし民を赦し世々怒りたまうをなかれ。主よ、我々を赦したまえ」

 目をつぶり朗唱する様子を警察官たちが見守っていた。変な宗教だ。そう思われていたが、実際、この年でのキリスト教の知名度は低い。キリスト教という宗教があることさえ知らないものがほとんどだ。この発症者にしても、恐らく、ほぼ絶対に、キリスト教徒というわけではないだろう

 それでもアイカは祈った。この祈りにより発症者の魂が救われることを信じて。

「……終わりました。ありがとうございました」

 立ち上がり、アイカは周囲の人間に目礼する。アルファも帽子を取って目礼する。そして担架は運ばれていった。

「それが祈りか」

 アイカの背後からダグラスが声をかける。帰る足を止めて、アイカが祈る様子を興味深そうに眺めていたのだ。

「ああ。嘆願の祈祷だ。魂の救済を願う」

「言葉だけで救われるのか。簡単なものだな。お前からすれば、私は罪人なのか」

「人は生まれながらにして罪人だ。原罪を背負っている。その救いのためには神を信じ、魂が御国へと導かれることを祈るしかない」

「ふん、やはり理解できんな。私が祈るのは……」

 腰の銃を叩き、ダグラスが言う。

「弾がジャムらないことだけだ」

「知るか。用が終わったのならさっさと行け」

「そうさせて……ん?」

 ダグラスが住居の方を向いて声を上げる。

 犯行現場となった住居には多くの警察官が出入りしていた。だが今出てきた警察官は様子が違っていた。アイカもそれに気づく。

 一人の警察官が頭を押さえながら歩いてくる。すれ違う警官が手を差し出すが、振り払って歩いていく。そして両膝をつき、自分の体を抱きしめるようにして震え始めた。

「何だ? 現場を見て具合でも悪くなったのか?」

 アイカの言葉にダグラスが返す。

「いや、そうではないだろう。彼は新入りではないはずだ」

「アイカ」

 アルファの呼びかけに、アイカが振り返る。

「異常度判定……Eナインを認めます」

「何?!」

 アルファの言葉に、アイカは再び膝をついた警察官を見る。警察官はみを身を震わせ、そして口の端から泡を吹いていた。何かの強烈なアレルギー反応のような状態。そして自分の体を掴む指は制服に食い込み、頑丈なその生地を引きちぎろうとしていた。普通では考えられない力だった。

「馬鹿な。警官が発症者だと?!」

 ダグラスが驚いた声を上げる。そして腰の銃に手を伸ばす。だがアイカはその動きを見て言った。

「発症者はいつ誰がなるかわからない。今度こそ私達の出番だ。もうお前たちに殺させたりはしない! 行くぞアルファ!」

「了解」

 アイカとアルファが警察官に向かって駆け出す。まだ周りの警察官たちは事態に気付いていない。

「Eナインだ! 全員その警察官から離れろ!」

 アイカが大声で叫ぶ。それを聞いて、ようやく周囲の人間は異常を理解し始めた。だが彼らが逃げるよりも早く、両膝をついた警察官、発症者が動いた。

「ああぁぁっ!」

 苦鳴のように、叫びのように吠えながら、その発症者は立ち上がり近くにいた別の警察官に襲いかかった。全く予想しないことに驚き、なすすべもなく殴り倒される。そして発症者は警察官に馬乗りになると、その両手を組んでハンマーのように顔に振り下ろした。

 あわや潰される……その寸前でアルファの太い腕が発症者の腕を掴んで止めていた。発症者はそれでも狂ったように暴れて馬乗りになった警察官に襲いかかろうとするが、アルファが発症者を羽交い締めにして拘束する。発症者は人間離れした力を発揮していたが、それでもアルファの馬力には敵わない。アルファの鋼鉄の腕ががっしりと発症者を固定する。

「おい、こいつの名前は何だ! 誰でも言い、答えろ!」

 アイカは拳銃をテーザーモードにして構えながら大きな声で言った。周囲の人間は戸惑っていたが、やがてそのうちの一人が答えた。

「ジャスティン……ジャスティン・ハーレーです」

「よし! ジャスティン、聞こえますか! ジャスティン!」

「あ、あぁぁ……聞こえる、聞こえるぞ豚の声が! 汚らしい裏切り者め! 負け犬! 尻を出して這いつくばれ!」

 ジャスティンは目が飛び出しそうなほどまぶたを開きながら言った。口の端からは泡と嘔吐物の混ざった体液がこぼれていた。

「俺を離せ! 俺を離せ! 鎖に繋いだつもりか、これで! 勝ったつもりか、これで! 俺は絶対に死なんぞ! 貴様らのけつを犯して笑ってやる! そこのお前! そこのお前もだ!」

 異様な様相に周囲の人間は逃げるのも忘れ立ちすくんでいた。アイカはその様子をじれったく思いながらも、目の前のジャスティンに意識を集中する。

「あなたはジャスティンですね? 答えてください!」

「豚め、雌豚め! 俺は王だ! 地獄の灰から生まれたものだ! 後悔と寂寥が俺の翼だ! お前たちを殺してやる! その死体を夜通し犯してやるぞ!」

「ジャスティン、答えてください! あなたはそこにいる!」

 アイカは呼びかけながら困惑していた。不意に発症したこともそうだが、この急激な症状の悪化はなんだろうか。普通は緩やかに発生し、異常な行動や言葉が始まり、そして次第に凶暴になっていく。だがこのジャスティンは違う。発症した瞬間から強い凶暴性を発揮し、その言動も時間を経た発症者の様子そのものだった。

 今までにない困難に遭遇する。そんな託宣AIの言葉が脳裏をよぎる。昨日の三人の発症者。そして今日の、突然の二人目の発症者。異常なことが続いている。そこに不安を感じるのは仕方がないことだった。

 しかし、分析するのは後でもできる。今しなければならないのは、発症者となったジャスティンを救うことだ。

「ジャスティン、あなたはそこにいる。思い出しなさい。あなたは神の前にいる。神よ、彼に手を差し伸べ、その敵からお守りください! その剣で地獄の火を打ち砕いてください!」

 聖句を交えながらアイカは呼びかけを続ける。するとジャスティンの唸り声が弱まり、アルファの腕の中でぐったりとし始めた。呼びかけにより、ジャスティンが正気を取り戻しつつあるようだった。

「ジャスティン、戻りなさい! 神の御前に、光の中に!」

 アイカが脳刺激性フラッシュを使用する。その光でジャスティンの体は痙攣する。だが正常な反応だ。そして続けて筋弛緩テーザーを撃ち込む。ジャスティンの体者電撃で痺れ、そして完全に力が抜けた。獣のように変わっていた容貌も元に戻る。

 アイカは銃を構えたまま荒い息をついた。祓魔が完了した。

「鎮静措置、完了」

「脈拍も正常に戻りつつあります」

 アルファがジャスティンを抱えたまま答える。アイカは近づき、ナイロンタイでジャスティンの足を拘束する。そしてアルファがジャスティンを寝かせ、その両手も拘束する。

「お、おい……どうなってるんだ一体! そいつはどうなった?!」

 現場責任者である警部がアイカに問いかける。周囲の警官も不思議そうにアイカ達を眺めるだけで、事態を理解しているものは誰もいないようだった。


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