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第39話 追い込まれたのは……?

 それから首都に戻れたのは三週間後。

 もっと早く帰路につけるはずだったのに、そうならなかったのは、偏にシオドーラの護送に揉めた……は揉めたが、最大の原因はその方法だった。


「あいつが近くにいると、八つ裂きにしそうだ」


 そう、シオドーラはガーラナウム城に収監されていたわけではない。城外にある、なんと自警団の牢屋に入れられていたのだ。


 アリスター様がこっそりやり兼ねない、という理由で。だから護送もまた、同様のことだった。

 そんな物騒なことを口ずさむアリスター様を、私はソファーに座りながら、その横顔を見た。


「お願いですから、止めてください。聖女殺しという悪評まで立てられたらどうするんですか」

「偏屈にもう一つ、付くだけだ」

「屁理屈を捏ねないでください。旦那様の話題が上がる度に、シオドーラもワンセットで付くのは嫌ですからね」


 最終手段、とばかりに拗ねてみると、「それもそうだな」と素直になるのだから、さらに嫌になる。


「しかし、メイベルの近くにあいつを置くのはまた違う話だ」

「では、転移魔法陣で一気に首都まで行きましょう。お金はかかりますが、罪人の護送と言えばなんとかなるでしょう」


 クリフに頼む前に、そのような名目でシオドーラを聖女から罪人という立場にすれば、皇后様の耳にも届くだろう。もしくは皇帝から皇后様に。

 それでも、二、三日はかかるだろうけれど。


「……背に腹は代えられんな」

「そんなにお嫌ですか? シオドーラを首都に連れて行くのが」

「そこまで譲歩する必要があると思ってな」

「言いたいことは分かりますが……そもそもシオドーラがあそこまで追い込まれてしまった原因は、私にあるので……」


 たとえ不可抗力であっても……。

 しかしアリスター様は納得できなかったようだ。


「間違ってはいないが、自分の中で解決するのが聖女、いや大人ってもんだろう。それに俺の方が迷惑をかけられた挙げ句、追い込まれたんだぞ。メイベルが気にかける必要はない」

「追い込まれるって、そんなにシオドーラと結婚しろと周りに言われていたんですか?」


 私もあまり話題に出したくないから言わなかったけれど、シオドーラが勘違いするほどだ。気にならないわけではなかった。


「……俺は一人っ子だからな。二十六、という年齢も相まって、周りが要らぬ世話を焼くんだ。その中の一つにシオドーラがいたというだけだ」

「えっ、でも、あの時は『なりたい連中は山程いる』って言っていませんでした?」

「……憶えていたのか」


 まるで、重要なことは憶えていないくせに、どうでもいいことは憶えているんだな、と言われているような気がした。

 一応、契約結婚の話なのだから、憶えていて当然だと思うんだけど……。しかも、まだ一年は経っていない。忘れたくても忘れられるだろうか、と思えるほどの出来事だったのに。


「旦那様からしたら十三年振りの再会ですが、私にとっては初めて会ったのと同じなんですよ。忘れてもよろしいんですか?」

「だがアレは……」

「ご自分でも悪いことをしたと思っています?」

「いや、こうして念願だったメイベルを手に入れたんだ。悔いはないさ」


 これは屁理屈? それとも自慢? いや、自慢げにいうことじゃない気がするけれど。

 思わず反応に困ってしまった。だけど、何故か顔が熱い。


「加えていうと、うるさく言ってきた奴らの念願も、そろそろ出来でもいい頃合いだと思うんだがな」

「念願?」

「そういうところは察しが悪いのはワザとか? 跡継ぎのことだよ」

「跡継ぎ……っ!」


 アリスター様にお腹を指差され、私は咄嗟に手で隠すような仕草をした。途端、ソファーに押し倒される。


「まだなら今からでも……」

「だ、ダメです! 明るい内からは嫌だって――……」


 言ったじゃないですか、という言葉は、アリスター様に口で塞がれてしまい言えなかった。


「ならば寝室に行こう。あそこは天蓋カーテンがあるから明るくないぞ」

「はぁはぁ……。揚げ足、いえ屁理屈を捏ねないでください。私が言った『明るい』はそういう意味じゃないことくらい、知っているではないですか!」

「関係ない。シオドーラの件で譲歩したんだ。今回はこっちにも譲歩してもらうぞ」

「えっ、ちょっと!」


 すでに私の拒否権などなかったのだ。横抱きにされたと思ったら、宣言通り寝室へ。しかもちゃんと天蓋カーテンを閉められたものだから、私に逃げ場などなかった。


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