第1話〜第10話
むかしばなし
マルメイソンは、最近生首になったばかり。胴体から下はどこかへ行ってしまった。
むかしばなしの魔女に憧れて魔女になりたてなのに、狩られてしまうなんて。でも生まれつきの体質で、首だけでもしななかった。
いやね、と呟いて、ひょんひょんと飛んでいく。森の木々はざわめき、夜空の月が目を丸くする。
マルメイソンは、他の魔女仲間の様子を見に出かけた。狩られてないといいのだが。
食事
やっぱり! マルメイソンは内心で悲鳴をあげた。狩られてる。
お隣の村で薬を調合して重宝されていた魔女ベリーは、首を失ったまま庭に突っ立っていた。身振り手振りで互いの近況を交換する。
ベリーは早朝に狩られ、食事もできなかったから、どうしたらいいか分からなくて立っていたらしい。
マルメイソンは、ベリーの胴体に乗らないかと誘われたが、体格差があり動きづらそうなので断った。
だんまり
街の方にも寄ってみる。薬草の卸販売をしている魔女タルトタタンは、ほっかむりして商品棚の陰に隠れていた。
初めはだんまりだったが、やがて息を吐くように話し始めた。とてもヤバい奴らが来たが、ここの店主は魔女じゃないし買い出しに出かけていると店員達が庇ってくれて、胴体と首は繋がったままらしい。
首だけになったマルメイソンに、コロコロして案外可愛いねえと言うので、飛ぶのも疲れてきたの、と応える。
一休みして、飴をもらった。
温室
街の指定公園の温室は、入り口のドアが開け放たれていた。やった! とばかりに中の色とりどりの鳥が逃げて、やっぱり寒い、と温室に帰ってくる。
ここの鳥に化けて潜り込み暖を取るのが趣味の魔女ヤガーを探したが、鳥達が案内してくれた先には、首だけになった鳥が眠っていた。年寄りだから、生首になる衝撃に耐えられなかったようだ。
眠る小さな鳥をくわえていって、近くの森に埋めると、鳥達が集まってきて、悲しい歌を歌ってくれた。
旅
一体、誰がこんなことを始めたのだろう。
魔女禁止令はお隣の国ではずっと出ているが、ここでは仲良く暮らしてきたはず。
マルメイソンは隣の隣の、もっと隣から旅をしてきて、この国で魔女修行をしたけれど、ひとり立ちしたばかりであまり魔女情勢を知らない。情報通を探してみることにした。
情報通、水晶玉の魔女プシュケーは、街の境目に住んでいる。
眠り
あら、マルメイソンじゃないの。いきなり入ってくるから、さっきの奴らかと思ってしまったわ。呆れたような声がして、マルメイソンは目が覚めた。とても良い眠りだったらしく、体の疲れは癒えている──首から下の胴体は見当たらないが。
自分の隣に、水晶玉の魔女プシュケーの顔が見える。大きな透き通った水晶玉と同じように、横に並んでいる。生首だ。やっぱり狩られていた。
あいつら、首を置いていっちゃった、とプシュケーは言う。胴体に用があるのよ、失礼しちゃう。
マルメイソンが、あいつらって何なの? と尋ねると、たぶん王国騎士よと返答があった。
まわる
あいつら、内輪揉めしてるみたい。魔女の胴体を集めて、自由に動かして騎士同志の争いに使うんじゃないかしら。私が先を見通せるからって、たくさん騎士を送り込んで悩み事相談をさせて疲れさせ、その上、ぐっすり眠れる香を焚いたの。私の周りを遠巻きにぐるぐるまわること小一時間、すっかり眠ったところをズドン、よ。
プシュケーはその場から動けないタイプの生首だったので、マルメイソンに依頼して髪型を整えてもらった。
あんまり長く飛ぶと、切り口が乾いてしまうわね、と、棚の薬草や膏薬をいくつかマルメイソンに使わせてくれた。
鶺鴒
マルメイソンは坂を転がった。飛んでいくのに疲れたのだ。いつもうきうきしていないと、飛ぶとき抵抗が大きくなる。
鶺鴒がせっせと広場を駆けて行く。小川沿いの広場には、いつもは散歩している人がいるのに、今日は誰もいなかった。
鶺鴒に聞いてみると、変な銀色のぴかぴかした人間達が、首のない者を並べて歩かせているところを見たという。その場から動かないタイプの胴体だけ、置き去りにされているようだ。
マルメイソンの胴体は行方不明なので、連れて行かれたに違いない。鶺鴒に礼を告げ、マルメイソンは胴体の列が去っていった方角に向かって転がった。
つぎはぎ
つぎはぎだらけの生首に出会った。マルメイソンの質問に、さまざまな声で答える。どうやら複数の魔女の寄せ集めらしい。胴体を持っていかれた後、カラスや熊にあちこちかじられて体力が落ち、風で飛ばされるうちに吹き溜まって、とりあえず一つになってみたそうだ。
マルメイソンちゃんは元気でいいねと言われる。でも気をつけて。あいつらが来るよ。魔女のことなんか嫌いなやつら。自分達だけで良い顔をしようとする連中。魔女よりいやしいなんて嫌な連中が。
来る
来るよ、と魔女の集合体が言った通り、何かが坂を進んでくる。マルメイソンはぽかんとそれを見守った。首のないものたち──胴体の列が近づいてくる。
マルメイソンは叫んだ。私! 私はいる? 自分の体の見分けはつかないが、胴体の方はこちらの顔くらい分かるはず。けれど胴体は素通りした。魔女の集合体は、ありゃ聞く耳を持ってないからねと呟いた。
そろそろ胴体の管理者が来るよ、隠れないと潰される、手伝っておくれ、と集合体に頼まれて、マルメイソンは彼らを茂みに押し込んだ。
銀色の騎士がやってきたが、彼らもうつろな歩き方で、マルメイソン達には気づかずに通り過ぎた。
なろうでは200文字以下が投稿できないので、短いものはカクヨムに置いてます。
せっかくなので10話ずつ再録してみます。