祖父譲りの正義感1
「なんで私がこんなことを……」
依頼を遂行するにあたってヘランド王国から案内人が1人付けられた。
未だに祖父の話に納得がいっておらず、この案内人の仕事にも納得がいっていないアリアセンが案内人だった。
ブツブツと文句を言うアリアセンの先導の元、リュードたちは南にある港湾都市のデタルトスを目指していた。
ザダーからデタルトスはそれほど遠くはない。
楽勝な依頼だと考えていたのにそう甘くもなかった。
「やあっ!」
アリアセンが魔物を切り捨てる。
それが最後の1体。
アリアセンが大きく息を吐き出して戦闘が終了した。
これまでの旅では人工的に整備された道を通っている限りは魔物に襲われる可能性は低かった。
ほとんど道沿いに魔物は出てこないのであった。
しかしへランド王国においては道を通っていても関係なく魔物が襲ってくる。
1日1回、多いと2回3回と魔物と遭遇することもある。
なのでデタルトスに向かうのにペースはゆっくりとしていた。
道中現れる魔物は強くない。
積極的に襲いかかってきても危険度が低いので後回しにされがちで大規模に討伐されることがあまりない。
それでも連日のように襲われて戦うことは初めてで、常に気の抜けない緊張感にエミナたちは段々と疲労がたまってきていた。
動きに精彩をかいてきているのでリュードやルフォン、アリアセンが主に戦っていた。
「あなたたち、よく平気ね」
魔物の血で汚れた盾を拭きながらアリアセンがリュードに目を向ける。
リュードもリュードで剣の血を拭い、手入れをしている。
魔物の対応をしている間に日も落ちてきてしまったので進むのはやめて、魔物から離れたところで野営することになった。
アリアセンはこの国の出身でこうした魔物の活発さに慣れているので魔物の襲撃に慣れていて、精神的な疲労もない。
リュードやルフォンは若く、エミナたちと歳も離れていないようにアリアセンから見えるのに今の状況にケロッとしている。
魔物の襲撃が多いと大概の人は精神的に疲労してくる。
現にエミナたちはぐったりとしていて元気がない。
先ほどの襲撃も数も多くないし魔物も強くなかった。
エミナたち3人でも対処出来るレベルの魔物だったけれど度重なる襲撃に疲れてしまったのだ。
「俺たちは慣れているからな」
アリアセンが首を傾げる。
自慢にもならない魔物の活発さは他の国ではまず見られない。
魔物の巣窟に住んでるのでもない限りなかなか毎日魔物に襲撃されることになれるはずもない。
そんな過酷な環境他の国には無いのだがリュードたちの村にはあった。
周りの森は魔物だらけだし、森でなにかするには常に魔物の危険がつきまとう。
極めつきは15歳の時にあった地獄の訓練である。
何も昼だけくるとは限らない化け物のような強さのおっさんたち。
1節丸っと警戒し通しなので精神力も鍛えられるものである。
「おじいちゃんは本当に最後まで人の心を持ったまま死んでいったの?」
もう数日一緒にいる。
リュードと距離をとっていたアリアセンだったのだが、上手く周りをフォローしながら戦うリュードとは自然と連携を取り始めた。
まだわだかまりはある。
祖父についてウソはついていないと思う心と認めたくない心があって複雑な気分があった。
そんな思いとはよそにリュードは柔らかい態度でアリアセンに接していたので1人ツンケンしてもいられなかった。
戦いにおいても優秀。
周りをよく見ているし、自分が指示を出すよりもリュードに従った方が効率がいいのでリュードを認め始めていた。
時間が距離を溶かし、アリアセンはポツリと呟く。
リュードがアリアセンの方を見るとアリアセンは盾を磨き続けている。
赤い夕焼けを反射する盾には細かい傷が多く見受けられる。
アリアセンがいかにこの相棒と努力を重ねてきたかが分かる。
「本当の話だよ。
ほとんどの人がスケルトンになって自分をみうしなってしまっていた中で君のおじいさんは強い意志を持って自我を保ち続けていた」
「そうなんだ。
私、おじいちゃんには会ったことがないんだ」
アリアセンの若さなら当然のこと。
暗い閉鎖空間では時間経過が分からないのでどれぐらいの時間が経ったのかリュードもゼムトたちから聞けなかった。
こうして遺品を渡しに来たのだが失踪から何年経ちましたかなんて聞けるタイミングもなかった。
ただ長い時間が経っていることは分かる。
若い口調で話すゼムトを兄と慕うドランダラスの大体の年齢から想像できる。
何十年と時間が流れている。
アリアセンが産まれたのはガイデンが失踪してからなので会うことがなくて当然である。
「もうこんなに時間経ってるしさ、会えるとは思ってないけどさ。
私たちは遅い時にできた子だからお父さんがもうおじいちゃんみたいな見た目になってきてるし」
まさか尊敬する祖父がそんなことになっているとは思いもしなかった。
「なんか……当たっちゃってごめんね?」
遺族に遺品を渡す。
この時点で感謝されるばかりでないことも予想はできていた。
アリアセンのようにそうした事実を受け入れがたい人だって当然いる。
だからって批判されたり罵倒されてもいいって思うのとは違う。
たが、そうされる可能性があることは覚悟はしていた。
今はアリアセンも反省しているのでリュードも怒っていない。
夕日に照らされていない耳も真っ赤になっているのも見なかったことにしてやろうと思う。
「おじいちゃんはどんな時でも冷静沈着、剣の実力だけでなく判断力もすぐれたひとだった、なんて毎日聞かされてたのに。
私もまだまだだな。
きっと私がスケルトンになったら自分のことなんてわからなくなっちゃうんだろうな」
磨いていた盾を置いてアリアセンは膝を抱える。
「一国の騎士団の副団長になったんだろ?
頑張ってるじゃないか」
ガイデンは騎士団長だった。
なら立場だけで見ればアリアセンもガイデンにあと1歩で並ぶところまで来ている。
「ううん、私なんか比べ物にならないよ。
お父さんもおじいちゃんも騎士団長だったから2人に気を使って私もお飾りで副団長にしてもらっただけ」
決して実力だけが判断されて副団長に命じられたのではない。
アリアセンの目は焚き火の光を浴びているにもかかわらず暗く見えていた。
「私なんて……」
「誰か助けてください!」
軽い鬱モードに入りそうなアリアセンの耳に悲痛な叫び声が聞こえてくる。
もうすっかりあたりは暗くなっていて良く見えていなかったけれど1人の女性が走ってきていた。
「旅のお方、どうか助けてください!」
息を切らせて脇目も振らず走ってきた女性は靴も履いていない。
服装も外出するものではなくて薄手の室内着である。
「私は第3騎士団の副団長アリアセン・マクフェウスです。
何があったんですか?」
膝を抱えていたアリアセンはすぐさま立ち上がり、ピンと背筋を伸ばして女性に対応する。
「村が……何者かに襲われて……ハラヤ村が…………」
アリアセンにすがるようにして崩れ落ちる女性。
どれほどの距離を靴も履かずにはしってきたのか。
疲労の限界を迎えた女性はそのまま気を失ってしまった。
「……ハラヤ村」
アリアセンはエミナに女性を預けると荷物の中から地図を取り出す。
今いる場所を確認してその周辺にある村を探す。
「ここか……!」
村の位置は今いると思われるところから遠くない。
「まてまて……」
盾と剣を掴んで飛び出していこうとするアリアセンをリュードが止める。
「なぜ止める!」
「1人でどこに行こうとしてるんだ?」
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