思いを返しに1
へランドの首都はだいぶ南寄りに存在している。
首都の名前をザダーといい、もう少し南に行けば海に出られるほど南側にある。
元々へランドはそのザダーを中心とした小国家だったのだが度重なる戦争に勝利して領土を拡大した。
もっと条件の良い土地もあったのだが初心を忘れないように首都はザダーのままなのである。
北側にあるトキュネスから入ると途中途中に元他国の首都だったりする大きな都市もあるのだが、ほとんど通過するだけでザダーまで一気に下りてきた。
というのも用事があるのはザダーにであるからだ。
ザダーだけで済むかは今の所不明だけど中心地であることは間違いない。
この国は冒険者が多い国でもある。
戦争が多く、魔物にまで手が回らなかった過去があるので平和になっている今でも冒険者が魔物を討伐する構図は他の国よりも多い。
さらにへランドの魔物は他の国よりも活発なのだ。
血塗られた戦いが魔物をより凶暴にしているなんて噂もあるけれどへランドの地が全体的に魔力が濃く、肥沃な大地であることが関係しているのだろうという説が今1番有力である。
そうであるので魔物に襲われるということがあった。
人が作った道に出てくるのはあまり賢い魔物ではないので苦労はしなかった。
ちょうどよかったのでヤノチやダカンの戦いぶりも見させてもらった。
まだまだ未熟だったが筋は悪くない。
兄のセードはソードマスターになるほどの才能があった。
ヤノチもそれ及ばずともしっかりとした基礎はあって、見た目ばかり気にしてるようなダカンよりもよほど良く見える。
冒険者としてもやっていけるぐらいにはヤノチも戦えていた。
「そう落ち込むなよ」
ヤノチはいいのだが心配なのはエミナの方だった。
良いところを見せなきゃいけないと思って空回りしていた。
ダカンに魔法を当てかけたりとイマイチ調子が良くなかった。
エミナが全部悪いというよりもリュードたちが上手く合わせすぎてエミナの成長の機会を奪ってしまっていたのかもしれない。
「ヤノチちゃんたちよりも私が先輩なのに……」
「だ、誰でも失敗はありますよ!」
「……うぅ、見ててください!
私だって出来るってこと証明してみせますから!」
落ち込んで、ヤノチに慰められてもへこたれないあたりは成長していると言えよう。
技術面はともかく精神的にはエミナも強くなっている。
リュードたちは現在、ザダーの宿にいた。
男女で分かれて部屋を取っているのだが今は広い女子部屋の方に集まっている。
とりあえず目的地には着いたので今後どうするのかを話し合っていた。
「この後どうするかだけど」
エミナたちはひとまずリュードたちに付いてきたという形になり、活動方針などはあやふやなままである。
「俺たちはこの国にある用事があるから、それを片付けたいと思っている。
だからエミナたちとは別行動を取ろうと思っている」
「えー、用事って私たちも一緒じゃダメなのー?」
ヤノチがぶーたれる。
あんまり自分の主張をするのが苦手なエミナと違ってヤノチは割と正直に自分の気持ちを口にする。
「ちょっと特殊な用事だからな。
何も俺たちがいない間に遊んでろとは言ってないからな。
お前たちは冒険者登録でもしてランク上げでもしているといい。
大都市の周辺なら強い魔物もいないし連携のいい練習になるだろ」
まだヤノチとダカンは冒険者ではなかった。
さっさとザダーに行きたかったので特別そこらの都市ですることはなくこのまま来てしまっていた。
これから冒険者登録しても遅くはなく、いいタイミングだ。
「リュードたちも一緒にやろーよ」
「それじゃあ、お前たちが成長できないだろ?
3人パーティーならちょうどいいし練習だと思ってやってこい」
「……ぶー」
こうして別行動を取ることが決まった。
先輩風を吹かせたいエミナに2人を任せてリュードたちも宿を出た。
どうするのか迷ったのだけれどやはり1番確実なところに行くのが良いとなった。
「どういった御用でしょうか」
リュードたちは一軒一軒遺族を探して回るよりも確実なところに来ていた。
それはヘランド王国の王城である。
当然のことながら門前で止められるのだがリュードは懐から札を取り出す。
それはゼムトが渡してくれたもの。
「それは……少々こちらでお待ちください」
門番が走って城内に向かう。
晩御飯の話でもしながら待っていると慌てたように年配の男性を伴って門番が戻ってきた。
「……お待たせ、いたしました……」
年配の男性はよほど慌てて来たのか肩で息をしている。
そこまで急ぐことはないのに。
「私この国の宰相を務めさせていただいております、ファロンドールと申します」
「はじめまして、シューナリュードです」
「ルフォンです」
「失礼ですが門番にお見せになったという札、見せていただいてよろしいですか?」
「はい、どうぞ」
札をファロンドールに渡す。
一目見るなりファロンドールは目を大きく見開き震える手でフチをゆっくりと撫でた。
「これを……いや、こんなところで立ち話するのはなんでしょうから中にお入りください。
こちらはお返しします」
ファロンドールが指示を飛ばして門番たちが慌ただしく城内に入っていく。
一国の宰相に案内されて通された狭い応接室。
しかし軽んじられているのではない。
逆である。
上手く隠してはいるけれどドアは普通に見えて鉄板が入っている。
壁も厚く、こちらもヘタをすると金属で補強してあるかもしれない。
ほんのりと壁から魔力も感じる。
盗聴防止が何かの魔法でもかけられているのだろう。
「こちらでもう少々お待ちください。
これらはご自由にお食べください」
テーブルの上にお茶とお菓子が運ばれてくる。
言われた通りに遠慮なくお菓子を食べているとファロンドールが2人の男性を引き連れて応接室に戻って来た。
バタンとドアを閉めてリュードたちに向かい合うように3人が椅子に座る。
真ん中に立派なヒゲを整えた老年の男性が座り、ファロンドールがその左隣、もう1人の中年男性が右隣に座る。
「まずは自己紹介といこう。
私はドランダラス・ゴラム・ヘランド。
この国の王だ」
「私はベルベラン・ドゴノスディアと申します。
国務大臣を勤めております」
真ん中が王様のドランダラス。右隣が国務大臣のベルベランである。
「俺はシューナリュードです。
こっちはルフォンです」
ルフォンが軽く会釈をする。
リュードとルフォンはこの国の臣民ではない。
自分の王でもない以上対等な立場であり、人としての敬意は払っても必要以上に謙ることはない。
「君たちが見せたという、札だが私に見せてもらってもよろしいかな?」
「はい、もちろんです」
リュードが札をテーブルに置くとドランダラスが目を見開く。
ファロンドールと似たような反応を見せる。
わずかに震える手で札を取って、隅々まで穴が開きそうなほど札を確認する。
「これを……どちらで手に入れられたのかお聞きしてもよろしいですか?」
「とある方から預かりました」
「とある方とは一体どなたですか」
「……今これから話すことは嘘偽りのない真実です」
リュードは何があったのかを3人に話した。
ゼムトがリュードに渡した札は身分証であった。
王族の一員であることを表す世界に2つとないその人だけが持つ札。
リュードがたまたまスケルトンになったゼムトに会ったことや遺品を託されたことを伝えるとドランダラスはハラハラと涙を流し始めた。
王としてもあるまじき行為だがファロンドールも涙を堪えるのでいっぱいいっぱいだった。
壁の厚い重警備の応接室を選んで正解だった。
ここなら他に醜態を見る人はいない。
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