神様のお願い4
「……はぁ、場所、どこだって?」
もっとやらなきゃいけない目的のようなものに縛られずのんびりと旅するつもりだったのに。
神様のお願いとあっては断れないし、人の命がかかっているなら尚更だ。
「ありがとう!
北にあるグルーウィンって国にあるダンジョンの中だよ」
笑顔になるケーフィスがまんじゅうをリュードの前に一つ置く。
そんなんじゃよしとならないぞ
とりあえず目標や目的があることは悪くはないので前向きに考える。
「僕の神聖力を持っているとは言っても後10年しか持たないからね、なるはやで頼むよ」
流石に人の命がかかっていて10年も遊ぶほどリュードも薄情じゃない。
十分すぎるほどの時間があるとリュードは思うがケーフィスにとって10年はあっという間なのでだいぶ焦っていた。
「グルーウィンだな。
何があるのか知らないから任せておけとは言わないけどやるだけやってみるよ」
「あぁ、良かった! これで安心だ!
感謝するよ、リュー君」
「はいはい」
ダァン!
「話は……済んだかな?」
ちゃぶ台に叩きつけるように湯呑みが置かれた。
実はこの空間にはもう1人席についている者がいた。
ケーフィスが紹介も何もしないし、話し続けているので聞きそびれてしまってリュードもスルーしていた。
結果ずっと座ってお茶を啜り、まんじゅうを食べ続けていた。
よく話の最後まで我慢したものである。
「あっ、こちらシュバルリュイード。君たちの間では有名かな?」
「何事もなかったかのように紹介しているのではない!」
この名前が若干リュードに似ているこの人、姿もリュードと似ているのである。
ただし竜人化したリュードの姿と。
名前には聞き覚えがある。
竜人族なら誰しも、魔人族でも多くの人が聞いたことがある名前。
500年前の戦争の時に魔人族側の幹部として戦い、真人族を恐怖のどん底に叩き落とした竜人族の英雄の名前と同じ。
「まさしく、リュー君が考えてる通り、君たちの英雄が彼なのさ!」
許してもらい、お願いも聞いてもらったので距離が近づいたのか勝手にリュー君呼ばわりしていることはさておき、まさか英雄と同席しているとは思わなかった。
「へ、へぇ〜、そりゃすごい……」
「ほら見ろ、貴様がさっさと紹介しないから感動が薄れているではないか!」
英雄様には悪いけれどその通り。
ずっと視界の端でひたすらお茶を飲みまんじゅうを食べ続ける姿を見ていてしまったリュードに起こった感動はものすごく小さかった。
「もう仕方ない。シュバルリュイードだ。
お前たちの祖先に当たる」
「初めまして、よろしくお願いします、ご先祖様」
感動は薄いけれど尊敬がないわけじゃない。
竜人化した姿であるし間違いなく竜人族のご先祖である。
「うむ」
「なぜご先祖様がここに?」
神の世界にいるのもそうだし、ケーフィスとここにいるのもなぜなのか。
「彼がね、是非とも自分の子孫になった世界の救世主に会いたいって言うから連れてきたんだ」
「まあ、そうなのだが。
どこから話せば良いか……俺は戦争やその後の活動、人望なんかを認められて神になったのだ。
竜人族の神にな」
「竜人族の神、ですか?」
「そうだ。だから俺は竜人族に関することは知っておく必要があるし、権利がある。
お前に会ってみたかったのもそうした理由もある。
しかし、時代は変わったものだな。
俺たちの頃はこの姿が普通で真人族の姿にもなれるぐらいだったのにな。
いつのまにか逆になってるんだからな」
感慨深そうにリュードの姿を眺めるシュバルリュイード。
「今回は別に小言を言いにきたのではないからこれぐらいにしよう。
会いにきたのは1つ頼みがあってな」
「頼みですか?」
「そう嫌な顔をするな。難しいことでも期限があることでもない」
もうケーフィスのお願いを聞いたばかりだったので考えが顔に出てしまった。
なんせケーフィスのお願いとやらはめんどくさそうだったので。
「俺も今は神である以上信者の信仰というやつが必要なんだ。
今は英雄ということで信仰を得ているけれど戦争ももう500年も前のこと。
世界に魔力が戻ってきてこれから新たな時代を迎える。
そうなると私は忘れられてしまうだろうし信仰を失ってしまう。
そこで君に俺のことを布教してもらいたのだ」
思いっきり面倒ではないか。
宗教活動なんて興味のないリュードにとってはあまり関わり合いたくないものである。
ケーフィスのお願いだって若干宗教絡みで面倒だと思うのに。
「いやいや、信者を集めて教会を建てろとか信徒になって善行を積めとかそんなことじゃない。
単に俺が神となったことを竜人族に伝えて欲しいのだ。
それで信者の中から適当に人を選んで何とかするから難しことではない」
「確かに、伝えるだけなら……」
しかし、ご先祖様が神になったなんてヤバい奴ではないのかという思いに駆られる。
「望むなら俺の信徒として聖者……俺の力が弱いからそこまで強くはできないが、そうした扱いにすることもできるぞ」
「神になったことは伝えますんでそういうのはやめてください」
「あ、そう……」
シュバルリュイードはガックリと肩を落とす。
そんなハッキリ断らなくてもいいじゃないと思って。
リュードはため息をついた。
よくもまあどうしてこう面倒事が舞い込んでくるものだと。
「礼に1つ情報をやろう。
私が生前に使っていた剣があってだな、竜の骨を使って作られた特別な剣なのだが誰の手にも渡っていないのだ。
私が隠遁生活を送っていた最後の地にそのまま安置されているんだ。
ユウゼンという国にある大きな湖のほとりにある岩山の中の洞窟にその剣がある。
使われないのもかわいそうだし機会があれば探してやってほしい」
覚えていて、近くに行くことがあったら取りに行ってみよう。
今のところはラッツの親父特製の黒い剣がある。
後で聞いた話ではこの剣の名はダラクアギラというらしい。
古代の言葉で黒い角という意味。
「簡単に扱える武器ではないがお前なら心配いらないだろう」
「それじゃあ話も済んだし、君をここに留めおくのも大変だしこれぐらいでお別れといこうか」
「それでは頼んだぞ、子孫よ」
「僕に会いたくなったらこうしてお祈りしてくれればまたこうして会えるから。
またねー」
「えっ! ちょっ……」
意識が遠のく感覚。
視界が真っ白になって体が一瞬だけ軽くなって、すぐにズンと重くなる。
肉体に帰ってきて、重さを感じ、呼吸を思い出す。
「と待て……」
祈りの間に帰ってきていた。
あまりの出来事に夢心地だったけれど目の前にある祭壇にいつの間にか1個だけまんじゅうが置かれていた。
どういう現象で、どんな意図があるのかリュードにはちょっと理解できない。
「まあ、まんじゅうは美味いな」
言うだけ言ってお願い事を押し付けるだけ押しつけて返すとは神様もひどいやつである。
引き受けてしまった以上はやってやるが次に会うことがあったら文句を言ってやる。
ご先祖様はとりあえず剣の情報をくれたからギリギリ許すけどケーフィスに至っては無償。
なんか手違いで竜人族になりましたの謝罪だけされて終わりだったので許さないからな。
とりあえずこの世界でも美味いまんじゅうが食べられることはリュードにも分かったのであった。
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