ギルド長との取引
後日リュードとルフォンとエミナは冒険者ギルドに呼び出された。
「はじめまして、シューナリュード君にルフォン君、それにエミナ君だったかな?
私がここのギルド長をやらせてもらっているデュマムだ。
よろしくね」
ギルド長のデュマムは立派なヒゲを蓄えた老年の男性だった。
「話は聞き及んでいるよ。
とんだ災難だったようだね」
ニッコリとデュマムは微笑む。
まだ呼び出された意図がリュードには分からない。
わざわざ大変だったと労うためにギルド長が呼び出したとは思えない。
「来てもらったのは他でもない、そのとんだ災難についての話があって君たちを呼び出させてもらった」
デュマムは懐から1つの魔石を取り出すとリュードたちとの間にあるテーブルの上に置いた。
「これは君たちが提出してくれたやつだ。
話によるとだ、これはホワイトラインベアのものだとか?」
ダンジョンでは魔物を倒すと時々魔物の素材や魔石が魔力として消えずにドロップすることがある。
ボスであるホワイトラインベアも魔力となって消えていったがそこに魔石が残されていた。
ちゃんとそれは回収してボスを倒したことの証拠として教師に提出していた。
その魔石であった。
何か問題になる行為があったのかとギルド長の言葉に身構えるリュード。
「調べた結果この魔石から非常に強い魔力が検出された。
それこそホワイトラインベアに相応しくないほどの魔力が。
いやいや、そう身構えなくてもいいよ。
わざわざ数ある魔物の中からホワイトラインベアを選んで嘘をついたりする必要なんてないからね。
仮にだ、ホワイトラインベアでないとしたらこれはホワイトラインベアよりも上の魔物の魔石になる。
下のクラスの魔物の魔石だと言って利益なんてないあるわけもない」
リュードのピリッとした空気を感じてデュマムが笑う。
目上の者にいきなり呼び出されて目的も言われぬまま話を続けられれば悪いことがなくても疑ってしまうというもの。
デュマムは気を悪くすることもなく話を続ける。
「君たちの話を信じているからこの魔石はホワイトラインベアの物であるとする。
そうするとこのホワイトラインベアはホワイトラインベアの中でも最上位に存在するぐらいのものか、何かしらの異常種や変異種ということになる。
見てはいないので正確なことは何も言えないけれど魔石の魔力量から見て、通常のホワイトラインベアよりも1つの上の強さと言っても過言じゃない。
……本来のホワイトラインベアでも冒険者学校に通うような駆け出しの冒険者たちには手に負えない存在だ。
さらにその中でもさらに強いとされるボス個体を君たちは倒した。
ボス部屋の扉が開いていて、入ってもボスはいないし、他の生徒でも君たちがボス部屋から来たのだと証言している子たちもいる。
君たちがボスを倒したのは間違いない」
「ええと……本題は何ですか?」
しびれを切らしたリュードが切り込む。
「はははっ、ごめんね、年寄ると話が長くなって。
要するにだ、君たち3人は文句なしの成績優秀者として冒険者学校を卒業することが決まった。
だから冒険者の身分も本当は1番下のアイアン−から1つ上のアイアンランクを与えられる予定だったんだけど君たちの実力は明らかにランクを超えている。
実績がないから勝手にブロンズやシルバーとはいかないからさらにもう1つ上、アイアン+のランク君たちに与えようと思っているんだ」
その代わり、と言ってデュマムは3人の前に1枚の紙を置いた。
「今回のことを口外しないでほしい」
置かれた紙はいわゆる秘密保持契約書みたいなもの。
ダンジョンの再構築と異常なボスの出現。
幸運にも揺れたために転んで怪我をした人以外にダンジョンで死傷者は出なかったがダンジョンでの実戦訓練が売りの冒険者学校でダンジョンの事故が起きたとあれば評判にケチがつく。
冒険者ギルドやツミノブの収入源でもあるし、今後にも関わってくる。
要するに黙っていてくれればランクを上げてやるということである。
自分はアイアン+なんておこがましいと辞退しようとしたエミナも話の意味に気づいて口をつぐんだ。
正当な評価というよりも取引の要素が強い。
どうするべきであるかエミナには判断がつかなかった。
「もちろんこの魔石もギルドで責任を持って買い取らせてもらうよ」
デュマムはリュードと目を合わせる。
即席のパーティーでもリーダーは存在する。
ルフォンもエミナもリュードをチラリと確認していることからリーダー的な役割を果たしているのはリュードだとデュマムは気づいた。
リュードの答え如何によって他の2人も付いてくるだろうとリュードに向かって訴えかけた。
「……分かりました」
リュードは条件を承諾した。
ルフォンとエミナもリュードが承諾するのを見て、同様にうなずいて承諾した。
特に悪い条件ではない。むしろ良すぎるぐらいの条件だ。
ダンジョンの再構築は珍しい話だけど冒険者学校に損害を与える以外には酒場で出来る話ぐらいの価値しかない。
ランクは上がるしギルドで責任を持って買い取ってくれるとはすなわち色をつけて高値で買い取ってくれるということだろう。
十分利益があるのだから文句はない。
それにこんなことでギルドの反感を買って良いことなどない。
便宜をいろいろと図ってくれている以上はこのことを恩だとギルドは思わないだろうが拒否すれば黙っていたとしても心証は悪い。
3人が秘密保持契約書にサインしてダンジョンのことは関係者しか知り得ない秘密の出来事となった。
「これが魔石の買取金でこれが冒険者の身分証」
デュマムが事前に用意してあったお金と冒険者の身分証を自分のデスクから持ってきてリュードたちの前に置いた。
身分証は小さい鉄の板で名前とランクが彫ってある。
紐が通してあるので首からかけることもできる。
「これで君たちも冒険者だ。
何か困ったことがあれば僕のところに来なさい。
ギルドが手助けしてあげるから」
「ありがとうございます。
それでは他に用事がなければ失礼します」
政治的な裏側を見てしまったので気分が晴れやかとはいかないけれど、何はともあれこれで冒険者だ。
ランクもアイアン−から始まるところをその2つも上のアイアン+からとなった。
リュードたちが出ていき、少し間があって再びドアが開いた。
入ってきたのは副ギルド長。
「アレでよかったのですか?
何もあんなに便宜を図らなくても……」
丸メガネの副ギルド長は今回の裁定に不満がある。
いくらなんでも良くしすぎではないか。
サンセールとかいう生徒にはアイアンでの冒険者スタートだけを提示したのにリュードたちにはアイアン+と倍近い金額の買取金。
なぜそこまでしたのか副ギルド長には分からなかった。
「良いんだよ」
デュマムは自分の椅子に深く座ってため息をつく。
「彼ら、正確にはシューナリュード君とルフォン君かな。
あの2人はゴールド+ランクからの推薦状を持っていたんだ」
「ゴールド+、ですか?」
ゴールド+ともなれば高ランク冒険者。権力なんかは冒険者なので持っているものでないがそのランクになれば一声に影響力も出てくる。
「静謐の魔道士ヴェルデガーだ。
プラチナ入りも確実視されていた冒険者だよ。
今はどこにいるのか知らないけれどそんな人の関係者なんだから雑に扱うわけにはいかないよ」
「静謐の魔道士とはあの?」
「そう、あの、だよ」
デュマムは書類を見る目を揉む。歳を取ると文字を見るのも楽じゃない。
「彼らの行動には注目しておかなきゃならない。
もしかしたら未来のプラチナ候補かもしれないからね」
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