冒険者学校2
「じゃ、じゃあ君も合格だ。もちろん優秀点もやる」
先程までの態度は何処へやらキスズはあっさりとリュードに合格を出した。
周りは不満げな反応を見せているけれどリュードは疲れない方がいいに決まっているのでわざわざ周りに実力を見せつけてやることもない。
「なら俺も挑戦する!」
「私も!」
最初のサンセールがヘボだっただけでキスズもそれほど強くないのではないか。
何にしても今なら弱っている。
生徒たちが我先にと前に出た。
「行こうか、ルフォン。これで今日は自由だ」
「うん、何しようか?」
戦闘訓練の授業は合格をもらったのでもう出なくても良い。
リュードたちは帰ってしまったので知らなかったがまるで鬱憤を晴らすように、調子に乗って挑戦した生徒の何人かが医務室送りにされていた。
次の日、サンセールの姿は教室には無かった。
ひどい怪我をしたように見えなかったのに。
あっさりやられたからプライドが傷ついたのかもしれない。
ガラリとドアが開いて年配の女性が入ってきて教卓の前に立つ。
「ごめんなさいね。本当は昨日が私の授業だったのに急用が入って。
私はケイヤ。知識系の授業を担当するわ」
ケイヤは教科書を開いて内容を掻い摘みながら読み上げていく。
全員が全員文字を読めるわけではないから仕方ない。
仕方ないとはいえ眠くなる授業なことは否めない。
開始早々すでに意識を刈り取られている生徒も何人もいる。
「冒険者は下から順にアイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナとなっていてそれぞれ+と−がありますので15段階に分かれていることになります。
昔はもっと大きく分けていたのですが近年の冒険者の多様化により……」
まず冒険者の説明を始めている。
冒険者のクラスはケイヤの説明の通り15段階もある。
これは魔力が弱くなり人は弱く、魔物が強くなったので今までの基準で分けることが難しくなり、全体的にランクを引き下げて厳選する必要があったからである。
冒険者学校卒業段階で与えられるランクはアイアン−。
成績優秀者は一つ上のアイアン。
アイアンでようやく駆け出しクラスになる。
「およそ500年前の真魔大戦で……」
ケイヤの話は続く。気づけば歴史に関する話を始めていた。
ふと読み上げられたところが教科書のどこだったかを探す。
「……ちゃん、リューちゃん!」
「あ……ああ、ルフォン」
「もう終わってるよ?」
気づいたら周りはみんな帰って誰もいなくなっている。
「なにかあったの?」
「んー、ちょっとね」
正直言って歴史に関してはちょっとした自信があった。
死んでから転生するまでの間にこの世界であった出来事をまとめた本を読んだ。
もはや朧げな記憶だけど中々読んでみると面白かったし記憶に残っているものもある。
他の人より知っていると思っていた。
ケイヤの話を聞いて教科書を見て驚いた。
魔力が無くなるきっかけになった戦争から今日ではおよそ500年が経っていた。
400年ではなく500年。
リュードはずっと真魔大戦を400年前だと思っていたのに実は真魔大戦は500年前の出来事である。
実際神様には400年前だと言われていた。
転生するまでの間に何と100年もの時が経ってしまっていた。
これを驚かずにいられるだろうか。
現代史だと思っていた出来事はすでに100年前の出来事で現代というには時が経ち過ぎている。
みんなと同じスタートライン、古いことをちょっと知ってるから少しだけ前にいるのだけど時代に取り残された気分。
予想だにしなかった展開にショックを受けて教科書の内容を読み漁ってしまった。
100年。
魔力が世界に再び満たされてから100年。
もう変化の波は世界を覆っているのだとリュードは知る由もなかった。
ーーーーー
冒険者学校の授業は様々である。
歴史のような勉学、戦闘訓練のような戦い、そして実際に外に出た時に必要になりそうな知識まで色々なことを学ぶ。
野営のやり方や保存食を使った簡単な調理、装備の手入れや裁縫の仕方。
野草の見分け方や魔物の解体、はては天気の見方なんてことも教えてもらった。
授業の中には講座だけのものも多く、ちゃんと聞いていれば合格や優秀点をもらえるものもあった。
魔物の解体なんかは実際やれれば優秀点だったので村で狩りをしていたリュードには楽勝だったし、ルフォンも時折狩りに参加していたので優秀点を貰える程度にはできた。
他にもサバイバル系の授業ではリュードは何の問題もなく、ルフォンもリュードの手助けもあって優秀点をもらって合格していった。
料理や裁縫の分野はルフォンの得意分野なので優秀点をもらい、料理が出来なくもないリュードはギリギリ優秀点をもらった。
先生の距離が少しばかり近かった気もするけど。
判定の甘さがあったにせよ優秀点は取ったもん勝ちである。
「そろそろ最後の授業である実戦訓練について話しておこう」
魔物学と称した低ランクの魔物の知識を教える授業。
担当はキスズである。
長い間授業を真面目に受けてきた。ようやく終わりが見えた。
実戦訓練は文字通り実戦。魔物と戦う訓練である。
町の外に出て魔物との戦いの経験を積んでいく訓練になるのだがツミノブの冒険者学校においては若干実戦訓練は他と異なったものになる。
このツミノブの近くには何と低ランクのダンジョンが存在している。
ツミノブは元々町が先にあってダンジョンは後から現れたのでダンジョンで出来た町でないがたまたま出来たダンジョンがために大きなった都市である。
ツミノブのダンジョンは危険度が低く管理がしやすかった。
お手軽ダンジョンとして初心者なんかに人気のダンジョンとなって、そこに目をつけた人がいた。
貴族相手に冒険者としての知識や技術を教えていた者が安全に魔物との経験を積ませる方法としてダンジョンを思いついたのだ。
長い時が経ち、限られた貴族相手だったものがいつしか学校となった今でもダンジョンで実戦の訓練ができる。
ツミノブの冒険者学校はその点で人気の冒険者学校だった。
湧く魔物は決まっていて、数も多くなく管理ができる。
時間が経てば復活するし生徒を連れて実戦訓練のために魔物を探し回らなくて良い。
問題は魔物が限られるという点。
魔物は無限と言ってもいいぐらいにわいてくる。
しかし次から次へとポンポン出てくるのではなく一定の時間を置かねばならない。
挑める回数は復活を待たなきゃいけないので有限ともいえる。
なのでダンジョンの実戦訓練には挑める制限が存在する。
これが合格や優秀点である。
合格数が一定以上かつ3人以上のパーティー。
これが最低条件。
一般に世の中の冒険者たちはパーティーと呼ばれる複数人での活動を基本としている。
1人や2人での活動がないとは言えないけれどずっとそうしている人は限りなく少ない。
理想と言われているのは4人か6人。
前衛後衛がバランス良くいるのが良いとされ、多過ぎても少な過ぎてもいけない。
訓練に使われていると言ってもダンジョンはダンジョン。
最低数とされる3人、これがいなければ中に入ることも許されない。
そして3人以上揃えれば挑めるのだがそれなりに人数のいる冒険者学校、みんな先に入りたいのであるが順番を決めるために必要なのが優秀点になる。
優秀点が多いものが優先。
これが成績優秀者が早期卒業できる理由である。
パッと入りパッと卒業するのだ。
「1人探さなきゃいけないのか……」
「2人とか3人でもいいんじゃないの?」
「いや、1人だ」
人付き合いが面倒だから、とかではない。
最後の最後に優秀点をもらい成績優秀者として卒業するためには1人であるのが望ましい。
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