父の出した条件3
なかなか大胆な行動であるがもちろんこうした行動はルフォンが考えたものではない。
一部屋にしてくれないかなんて大胆さが出てきたのは実はメーリエッヒの教えがあってのことである。
ルフォンはメーリエッヒに戦い方を習っていたがメーリエッヒは戦い方だけを教えていたわけでない。
メーリエッヒはもちろんルフォンのリュードの対する気持ちを知っていた。
なので時として純粋すぎるルフォンに知識の伝授も行っていた。
少し、いやかなり攻撃的で実践することもはばかられる知識もあったけれどルフォンは勇気を出して実践できるものをやってみたのだ。
「もちろんイヤじゃないけど……」
こうなってしまってはリュードの負けなのだ。
大人しく一緒の部屋に泊まるしかない。
「なんか気になることあったら言ってくれよ?
ちゃんと直していくから」
「うん、わかった。リューちゃんも何かあったら言ってね」
この際だから気になることとか意見のすり合わせはしていこう。
夫婦間であっても些細な不満がたまり続けることだってあるのでルフォンが気になることがあるなら積極的に直していこう。
パッと花が咲いたように笑顔になったルフォンを見てしっかりと理性だけは保っていこうと心に決めたリュードであった。
「じゃあ俺はこのベッド使うから」
リュードはベッドの1つに座り寝心地を確かめる。最高級は望むべくもないが悪くない。
民宿や野宿に比べると天国みたいなものである。
「えっと、私は……」
『ベッドに潜り込んじゃいなさい』
ウインクしながら簡単に言っていたメーリエッヒの顔が頭をよぎる。
少し頬が熱くなり、頭を振って追い払う。
1部屋にするのも必死に頭を巡らせて言い訳したのに同じベッドに寝るなんてもはや言い訳のしようもない。
子供のころならともかく今そんなこと言えない。
さっきも恥ずかしくて目がうるんでしまっていたぐらいなのに。
「こっち、かな」
ルフォンが選んだのはリュードの隣のベッド。
ベッドは離れているとはいっても隣である。
「ま、まあ好きにしなさい」
リュードは一緒に寝るとは言われなくて少しホッとしていた。
ルフォンがやたらとリュードのことを見ていたので半分考えていることがばれていた。
「宿も確保したし教科書買いにいこうか」
ちょっとまったりしてしまった。
もう日が傾いてきているので閉まる前に早く教科書を買いに行かなければいけない。
冒険者学校でもらった必要なものが書いてある紙には教科書を売っている書店も書いてあった。
宿から一番近い書店はこじんまりとしていて雰囲気の良いお店である。
「ありがとうございまし……」
「おっと」
書店に入ろうとした時、開きっぱなしの入り口から出てきた女の子とリュードがぶつかった。
体躯の良いリュードは少しよろけただけだったけれどぶつかった女の子は倒れて尻もちをついてしまった。
女の子が持っていた本が床に散らばる。
「ごめん、大丈夫?」
リュードが手を差し出す。
「こちらこそごめんなさい。ちゃんと前見てなかったわ」
女の子がリュードの手を取り立ち上がる。
「はい、これ」
「ありがとうごさいます」
ルフォンが女の子が落とした本を拾って渡した。
「どうもすいませんでした」
女の子はもう一度頭を下げると足早に去っていった。
「怪我はない?」
「ああ、俺は大丈夫」
あれだけ走れれば女の子にも怪我はないだろう。
女の子の後姿を見送ってリュードたちは書店に入った。
「何をお探しで?」
「これを探しています」
店主の老人に必要なものがかかれた紙を見せる。
「冒険者学校かい。たった今中古のやつの最後が売れちまったから新品しかないけどいいかい?」
「中古もあるんですか?」
「ああ、あるぞ。今はないけどな
冒険者学校が時間をかけて作った教科書はなかなかためになることも書いてあるがなんせ本はかさばるからな。
卒業した後まで持っていられない連中から買い取って後の入学者に安く売ってやるのさ」
冒険者学校が後ろにいても教科書となる本はなかなか高価なものになる。
そして冒険者としてやっていくのに有益なことが書かれていても本を荷物として持ち運ぶことは現実的でなく正直邪魔でしかない。
書店はわざわざ商品を新しく仕入れなくてもいいし、本がいらない人は多少のお金が帰ってくるし、新しい入学者は安く本を入手できる。
合理的なリサイクルである。そもそもこの世界では大量消費社会ではなくて中古で使うことも一般的なので何らおかしくはない話である
リュードも安いなら中古でも構わないと思う。
ただ、今は中古がないので新品で購入するしかない。
このようなこじんまりした店でも中古が残っていないなら他でも残っていないと思われるし他の店を回っている時間もない。
中古の存在を知らずに新品で買うつもりだったから新品でも何の問題もない。
「新品2冊でいいかい?」
「はい、お願いします」
「はい、はい」
店主の老人は奥に消えていき2冊ずつ同じ本を持て来ることを繰り返した。
「これでいいかな?」
持ってきた本のタイトルを紙に書かれたものと突き合わせて確認する。間違いはない。
お金を渡して商品を受け取る。
「教科書がいらなくなったらぜひうちに売りに来てくれよ。
綺麗なら高く買い取るから」
無事教科書も買えた。
後は明日からの冒険者学校で良い成績を残してさっさと卒業するだけである。
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