思わぬ関係2
「シギサ・ダマスビト!
貴様には不正な取引の疑いがかけられている!
門を開けろ!」
ラソレドンが商人ギルドを名乗って今回の訪問の目的を告げる。
門番がシギサに確認しに中に入るが戻ってこない。
ただ他から逃げた様子もない。
ある程度待ってみてもなんの反応もないのでまた無理矢理入ることになった。
魔法を使って門を爆破する。
シギサが今屋敷にいることは内偵してある。
帳簿の調査によってシギサが自白しなくても罪に問えるようにはしてあるので後は捕まえるだけである。
もはやシギサが重大犯罪で逮捕されることは既定路線なので多少逮捕劇が荒々しくなってもしょうがない。
「シギサ・ダマスビト!
大人しく出てこい!」
最後の通告としてドアをノックするがなんの反応もない。
なんの考えがあるのか知らないが居留守を使ったところで帰るはずがない。
ドアを蹴破る。
ワッと中に人が入っていき、シギサの確保を目指す。
各部屋を確認していくが1階にシギサはいない。
「1階、シギサの姿を確認できません!」
「倉庫の方にはいません!」
「2階の奥にいるもようです!」
1階にいない、倉庫にもいない。
となれば自ずといる場所は限られる。
リュードたちは2階に向かう。
「う、うわっ!」
「この……大人しくしろ!」
2階の1番奥の部屋から悲鳴が聞こえてきた。
「お前人を呼びやがったな!」
「チッ、どうやったのか知らないが覚えおけよ!」
なんだか物々しい会話。
すでに商人ギルドの人がドアを蹴破っているのでリュードたちも中に入る。
部屋に入ってみると2人の男が暴れていた。
腕が立つようで何人もの商人ギルドの人たちがやられている。
「あっ!」
殴られたような顔をしているシギサの横で青い顔をして男たちが暴れるのを見ていた男がリュードを指差して驚いたような表情を浮かべた。
「あ、あいつです!」
「俺?」
リュードを指差した男、どこか見覚えがある気がするのだがどこで見たのか思い出せない。
男があまりにも大きな声を出したものだから全員の視線がリュードに集中した。
「あいつがビドゥーを殺した男です!」
「あー……なるほど、思い出した」
とんでもないことを言われてリュードの方も男のことを思い出した。
その男はビドゥーが泊まっていた宿ジュダスの支配人であるダッチであった。
ビドゥーを殺したリュードの顔を見た唯一といっていいほどの人である。
なぜこのようなところにいるのか。
「なんだと!」
「……やはりお前が仕組んだのか!」
リュードがビドゥーを殺したと聞いても商人ギルドの人たちは分からない。
けれど暴れる男たちには分かっているようだ。
しかしその話を聞いてシギサの方に詰め寄る。
「ち、違います!
あんな男など私は知りません!」
「チッ……まずはここから逃げないとな」
「その男も確保しなきゃいけないぞ?」
「ダッチは置いていくか」
「そ、そんな!」
暴れていた男たちはヒソヒソと話す。
声がデカいので丸聞こえでビドゥーを殺した犯人であるリュードも連れていきたいみたいだ。
てっきりシギサが雇った護衛かと思ったのに違うらしい。
考えてみれば不思議なことでもない。
シギサは奴隷売買をしていた。
その売られ先はウルギアだった。
ということはシギサとウルギアの奴隷商人に繋がりがあってもおかしなことではないのだ。
男たちは冷たい目をしている。
明らかに人殺しの目である。
「まあしかし……」
今はこちら側にも冷たい目をしている者がいた。
シギサに加えてにっくき宿の支配人までここにいる。
爆発しそうなテユノの殺気をリュードは感じていた。
こちらの世界にはないがこういう時にはぴったりな言葉がある。
ここであったが100年目。
「あいつらなら多少やりすぎても誰も何も言わないだろう」
「……行ってもいいかしら?」
「……行ってこい」
このまま押さえつけていたらこちらが危険だ。
今のテユノにはリュードも勝てる気がしない。
「覚悟なさい……」
「なんだよ、女に戦わせるのか?」
「お嬢ちゃん引っ込んでおいた方が……」
「よく喋る口ね」
床板がひどく割れるほどの勢いで駆け出したテユノは一瞬で男たちと距離を詰めた。
さっさと終わらせてはつまらない。
あえてそこで動きを鈍らせてテユノは槍を防御させた。
「ルフォン、ラスト」
ドラゴンも裸足で逃げ出したそうなテユノは男2人を相手取って暴れている。
テユノを心配するより相手を心配した方が早いぐらいの戦い。
心配はいらないと思うが熱くなりすぎて周りが見えなくなる可能性もあるので2人にいつでも支援できるようにはお願いしておく。
「な、何だこの女!」
「強いぞ!
油断するな!」
槍だから距離を取って戦うだろうとテユノと距離を詰めるが超接近戦もテユノはこなせる。
むしろそうした戦いは得意なのだ。
「たっ、ダァッ!」
「グオッ……」
テユノは槍の柄を男の体に押し当てて突き上げるように押した。
ダメージはないが大きく後ろに押されてふらつく男の脇腹に槍がめり込む。
一応殺さないようにするために先端の刃の部分は当てない。
ただ手加減はない。
手に鈍い感覚が伝わり男が大きく飛んでいって壁に激突する。