悪を暴きて8
正確な理由は分からないがこんな事をするということはシギサは男たちのことを切り捨てて殺そうとしているのだと小太りの男は考えた。
「あの野郎……!」
他に犯人が思いつかない以上は小太りの男の中でシギサが犯人なのである。
「帳簿はくれてやる!
あんにゃろ、覚えてろよ!」
頭に血が上った小太りの男はさっさとリュードに帳簿を渡してしまおうと家の中に入っていった。
まだ刺客がいるのか考えないのかとリュードも慌てて追いかけるがもう敵はいなかった。
家の中は酷かった。
割といつも荒れているのだけど、そのいつもよりも荒れているらしい。
見れば棚や引き出しも全てひっくり返してあって、流石に普段からそうはなっていないことはリュードでも分かる。
「なんだよ……チクショウ!
嫌がらせかよ!」
この状況を見てなるほどとリュードは思った。
男はいざとなれば殺しもするのだけどメインの目的は殺しでなく探し物だったのだろう。
本来なら男たちはまだ戻る予定ではなかった。
黒尽くめの男はきっと何かを探していて、早くに戻ってきてしまった小太りの男と間違って遭遇してしまったのだ。
だから始末して口を塞ごうとしたのだけどリュードが思いの外強かった。
それで死を選んだのは謎だが逃げるにしても実力差がありすぎるので無理だっただろう。
それを察するだけの実力があって捕まるぐらいならと思ったのかもしれない。
何を探していたのかも予想するのは難しくない。
多分帳簿だろうとリュードは予想する。
小太りの男はなぜかそこに考えが至っていないようで非常に怒っているけれども。
「あーあー……なんでこんな事…………」
戸棚から雑に取り出したのか皿の破片も床に散乱している。
掃除しようと思ったら頭の痛くなる惨状である。
「帳簿は無事なのか?」
黒尽くめの男は特に何も持っていなさそうだった。
それにまだ家にいたということはまだ探し物は見つけていなかったはず。
小太りの男は悠長に足で破片を避けたりしているので心配になって聞いてみる。
「こんな状態だってことは逆に無事ってことだ」
部屋をひっくり返して探していたのなら見つかっていない証であると小太りの男は鼻で笑う。
深いため息をつきながら小太りの男はカーペットをめくる。
そして壁にかけてあった鉄の棒を取ると床の穴に突き刺してテコのようにして床板を外した。
ありがちであるが忘れがちな隠し場所だと納得する。
小太りの男は帳簿を床下のスペースに隠していたのであった。
いくら家の中をひっくり返しても帳簿が見つからないはずである。
紐でつづられた2冊の帳簿を取り出して埃を払う。
「これが帳簿だ」
ためらいもなく帳簿をリュードに手渡す。
「それで俺たちはどうなるんだ?」
「冒険者ギルドか商人ギルドに引き渡すつもりだ。
死ぬよりはいいだろ?」
「そうか……まあ、そうだよな」
これまでやってきたことの罪は決して軽くない。
全ての罪が明らかになればこれからの人生を罪を償って生きることになるが命を失うことになるよりいい。
それにもう小太りの男も限界だった。
生粋の悪人でもない小太りの男も行ってきたことに対して良心の呵責を感じていた。
それにこんな事を一生続けていくなんてとても出来はしない。
いつかはバレるか、どこかで抜けさせてもらうかである。
それならちゃんと捕まってちゃんと罪に問われた方が残りの人生を考えると良かったのかもしれない。
命をあっさりと投げ出す暗殺者がいる一方でどうなっても命を捨てたくない人もいるのである。
荒れた家にどう見ても怪しい黒尽くめの男の死体。
周りにバレると厄介なことになる。
黒尽くめの男の死体は床下に隠してリュードたちは家を出た。
どうせギルドに引き渡されれば帰ることもない家である。
好きに住んでくれと小太りの男は思った。
「リューちゃーん!」
帳簿も手に入れたし街の外で隠れているテユノたちと合流しようと思っているとルフォンがリュードを見つけた。
かなり遠くからルフォンが手を振っていた。
よくあの距離からリュードを見つけたものである。
走って近寄ってくるルフォンをリュードが受け止める。
「ルフォン!
どうだった……ってあの様子じゃダメだったみたいだな」
ルフォンを追いかけるように走るラストとコユキが見えてそのさらに後ろにゴマシとアシューダもいる。
遠くから見ていても分かるほど負のオーラをまとってうなだれている姿を見れば結果は嫌でも分かる。
「パパ!」
「ははっ、コユキもだいぶ早く走れるようになったな!」
飛び込んでくるコユキを受け止めて抱き上げる。
リュードの頬に自分の頬をスリスリとくっつけて甘える。
「私もいるよー!」
「はいよ!」
ラストも受け止めてやる。
最近なんだかコユキに影響されてかラストも割と積極的だ。
「もう分かっちゃいるようなもんだけどやっぱりいなかったんだな?」
シギサが言っていたような、工芸品を倍の金額で買い取ってくれる人なんていなかった。
それどころかそんなもの買ったのかと鼻で笑われる始末で工芸品を買い取ってくれる人すらいなかったのである。