悪を暴きて4
「でも……確かに」
ゴマシの方はまだ冷静だ。
混乱の最中でも戦いの様子は見ていた。
行商隊と襲ってきた連中の戦いを思い返してみると違和感はあった。
只中にいた時にはその違和感の正体に気づかなかったがシギサに関して話を聞いて、この両者が真面目に戦っていなかったことが違和感の正体だったと気づいた。
テユノが縛り上げている男たちを見る。
リュードたちによってボコボコにされているけれど切られて死んでいる人は1人もいない。
互いに剣で戦っていたはずなのに血も広がっていない。
さらに行商隊がリュードたちに手を出す必要などなかったはずなのに行商隊はまるで襲ってきた連中と仲間かのように共闘してリュードたちと戦い始めた。
そうする理由なんてないのにだ。
これに関して筋の通る理由を考えるとリュードたちの話を信じる他にない。
「信じられないのも無理はない。
じゃあ確かめてみればいい」
「確かめるですか?
何をどう確かめるんですか?
シギサさんに会って僕たちを騙そうとしたんですかとでも聞くつもりですか?
はいそうですと答えるとでも思うんですか?」
やたらと攻撃的なアシューダの口調にゴマシが顔をしかめる。
シギサの話はともかくとしてリュードたちは襲われているところを助けてくれた恩人である。
こんな攻撃的な口調であってはいけない。
けれどリュードも苦笑いして咎めることはしない。
アシューダの気持ちもわかる。
ゴマシが気づいた違和感にアシューダも気づいた。
シギサに対する信頼と疑いの間で揺れ動くアシューダはマトモな精神状態じゃない。
アシューダもそれは分かっていて申し訳なさそうな顔をしている。
「シギサに当たるのは最後だ。
その商品はまだ無事だろ?
なら持っていって売れるか試してみればいい」
シギサが言っていたように工芸品が高値で売れるか試してみればいい。
まさか売れることを前提に用意なんてしていないはずだから謎の工芸品を高値で買ってくれる人なんているはずがない。
それこそ高値でなくても買ってくれる人すらいない可能性もある。
仮に買ってくれる人を用意して売れてしまったらシギサは損をすることになる。
工芸品が高値で売れることはないと賭けてもいい。
「確かにその通りですね」
「ゴマシ!」
「確かめてからでも遅くないだろ。
……行商隊の人たちは先に手を出したんだしやられても文句は言えない。
本当に商品が売れたならその時はこの人たちが悪人で、然るべきところに駆け込もう」
「なんでそんな冷静でいられるんたよ……」
「これでシギサさんの無実が証明出来るならそれでいいじゃないか。
俺たちには金が入るしさ」
「そうかもしれないけど」
より商人らしく合理的に物事を考えているのはゴマシのようだ。
アシューダは義理人情タイプだ。
別にどちらが正解でもなく、異なるタイプの2人が一緒にいるのは相性がいいと言える。
「…………分かりました。
シギサさんが正しかったと証明してみせます」
長いこと悩んだアシューダも渋々うなずいた。
きっと襲われたのはたまたまで行商隊が手を出したのも何か事情があったに違いない、そうひとまず思うことにした。
シギサが自分達を騙すはずがない。
町まで辿り着ければシギサの言う通りに商品を高額で買い取ってくれる人がいるはずだ。
助けてくれたことには感謝しているがリュードたちの話を信じるにはシギサのことを信頼しすぎていた。
証明する手立てがあるなら証明してみせるとアシューダはやる気を奮い起こした。
捕らえた男たちは多い。
リュードたちはルフォンとラスト、コユキをアシューダとゴマシに付けて先に行かせた。
町まではあと少しなのでさっさといけば買い主を探す時間もある。
「さてと、こっちはこっちでお話ししようか」
もちろん情報を聞き出すことは忘れない。
残されたリュード、ロセア、テユノは捕らえた男たちをロープで繋いで少しお話しする。
縛られて並べられた男たちはひどく痛めつけられて顔色が悪い人も多い。
食い込む縄は非常にキツく時々呻き声が聞こえてくる。
「な、縄を緩めてくれないか……」
顔色が悪く浅い呼吸を繰り返す仲間を見て行商隊のリーダーをしていた男がリュードに縄を緩めるようにお願いする。
しかしそれはリュードの権利ではない。
命そのものを奪うかどうかの最後の砦はリュードであるが他のところ、男たちの処遇についてはテユノとロセアに任せている。
リュードはあくまでも協力者なのである。
だから縄を緩めるかどうかについても決定権は2人にあるのだ。
「嫌よ」
「ど、どうしてこんなことを……」
「理由は自分で考えてごらん?」
「あっ、お、お前は!」
これまでリュードを見ていて気づいていなかった。
テユノに顔を近づけられて行商隊のリーダーはようやくテユノの顔に見覚えがあることに気がついた。
テユノの方は無愛想だったしあまり顔をまじまじと見ると睨まれるので顔もそんなに見なかったので思い出すのに時間がかかってしまった。
目の前に奴隷にしたはずのテユノがいることに大きな衝撃を受けたようだった。