真っ赤な鳥にさらわれて5
いつもならこんなことになる前に倒される。
だからヒュルヒルも過去に例を見ないほどに範囲が広くなっていたのである。
「けれど戦っても結果は一緒だろ?」
魔力を使うことに変わりはない。
魔法をリュードに放つか、空に放つかの違いしかない。
それでは結局ヒュルヒルが広がることになる。
「そこは心配しなくてもいい!
空打ちと戦って魔法を放つことには違いがある!」
「違い?」
「そうだ!
戦って魔法を放つということは相手がいるということだ!
すなわち相手となる者の魔力も周辺には広がることになる。
そうなると私の放たれた魔法による魔力と混ざり合い、火の性質が中和されるのである!」
背中を向けて翼で丸を描くようなポーズを取るハッタシュ。
もうポージングについては何も思わない。
何の対策もなく空中に放たれたハッタシュの魔法はハッタシュの火の性質を残した魔力となる。
それが蓄積するとヒュルヒルのような異常が起きる。
ならばそうした火の性質を薄めてやれば良い。
戦うことになれば当然魔力を使い、魔法を使うこともある。
魔法となった後の魔力は他のものの影響を受けやすいので他人の魔力と混ざれば火の性質が大きく薄まる。
なので戦って魔力を使えば周りを火の森にすることなく魔力を発散できるという寸法である。
「なーるほど……」
「おっ、戦ってくれる気になったかい?」
「戦う理由はわかった。
だけどどうしろってんだ?
こんな環境すら変えちまうような存在と戦うなんて無理な話だろ?」
事情は分かったがよしやってやるとは簡単に言えない。
森が火の森に変わり、さらにまだ大爆発を起こすほどの力を蓄えている。
周辺国が火の海になるほどの魔力なんてリュードが全力で戦ってもそんなに発散できないのではないかと疑問に思う。
「そこも心配なされるな!
ちゃんと方法は考えてある!」
ハッタシュも空打ちで何ともできないほどの力をシンプルに戦って何とかできるだなんて思っていない。
それは流石に相手に負担が重過ぎる。
「その方法はなんだ?」
「私は昔から人に倒され、人の糧となって死んできた」
ハッタシュは代々人の冒険者と戦って倒されてを繰り返しているフェニックスであった。
悪い魔物であるからではない。
冒険者の力の証明や目標、あるいは栄光や名声、そして倒した先にある報酬のためである。
フェニックスを倒すことは冒険者にとって大きな栄光である。
さらにフェニックスを倒すことでご褒美もあるのだ。
「いつからか私を倒しにきてくれる人もいなくなってしまった……」
真魔大戦をきっかけにして人は弱くなった。
相対的に魔物は強くなりフェニックスを倒しに行く余裕なんてなくなった。
そうしていくうちにハッタシュの存在は忘れられていった。
そのためにこんな状況になっている。
「と、とりあえず私に挑もうとするものは私から試練が与えられる。
それは私が私の力で作ったもので、それだけでも私の力の消費になるし、ご褒美もあるのだ!
私と戦う時に有利になるアイテムもあるぞ!
全部私が用意しているのだ、私が!」
色々な意味で人との共存を選んだハッタシュ。
生まれ変わる生の友として人を選び、ハッタシュは人と交流したり戦ったりすることに対しての報酬を作り出して与えることにしていた。
「私を倒すことができればフェニックスの素材も手に入る!
決して君にも損はない話のはずだ!
試練を受けるだけでも結構力を使うはずだしぃ!」
ちなみにフェニックスは倒されると再生するために灰になってしまう。
なので普通はフェニックスの素材を手に入れるのは困難である。
フェニックスの素材を手に入れるためにはフェニックスがそうだと認めなければならない。
フェニックスが認めた相手には灰に戻さずに素材を渡すこともできる。
「試練ってどんなものだ?」
「それはまだ未定です!」
「おいっ!」
「報酬を用意して、試練の内容を考えてとやらねばならないからな!」
「……マジかよ…………
はぁ、まあこんな話を聞いてやりませんとは言えないよな」
「ほ、本当か!?」
「俺がお前を倒してやるよ」
「やったー!」
「ただし今はダメだ」
「ええええっ!?
な、なんで!」
ハッタシュの事情を理解して倒すために試練に挑むことはやってもいいと思う。
「今俺はこの国でお尋ね者でな」
深いため息をつくリュード。
一刻も早くウルギアを離れて騒ぎが収まるのを待たねばならない。
騒ぎが収まってもリュードのことが忘れられるまですぐにともいかない。
リュードは一応軽く事情をハッタシュに説明する。
「そりゃぶっ殺して正解だ!」
リュードの話を聞いてハッタシュはビドゥーに怒っていた。
「そんな卑劣な奴がいるなんて……
よし、私がそんな国を焼き払って…………」
「待て待て待て!」
そんなひどい奴がいるひどい国のせいでリュードが動けないのならウルギアを滅ぼしてやる。
冗談じゃなそうな目をしていたので慌てて止める。
多くの命を救いたくてハッタシュのお願いを聞こうとしているのにそのために国一つ滅ぼされたらたまったものでない。




