真っ赤な森を抜けていけ1
「ひぃ……暑いよぅ」
「あつぅい……」
まさしく灼熱。
どうなものかと思っていたけれど噂に違わぬ暑さ。
ヒュルヒルに近づくにつれて気温は上がり、入り口に着くだけでも汗だくになった。
耐火装備の風通しも悪い。
ルフォンとコユキは舌を出してハッハッとしてなんとか暑さを逃そうとしている。
ルフォンは暑さに弱いがコユキも暑さに弱かった。
よくよく考えればコユキも寒いところ出身であるのだから暑さに弱くても不思議ではない。
入り口に着くまでは耐火装備を身に付けなくても良かったかもしれない。
このままではあっという間に暑さにやられてしまうので体を冷やすために体を冷やす効果のある食べ物を食べることにした。
まずは軽めの効果のもの。
食べることを想定して朝ご飯も軽めにしておいた。
「どうだ?」
「これならなんとか」
食べてみると冷たさが広がって暑さがかなり楽になる。
流石にここまで暑いと効果の軽いものだと涼しいとまでいかなかった。
ヒュルヒルは中に入るほど暑くなる。
入り口でこれなら中は相当暑いのだろうとちょっとブルーな気持ちになるルフォン。
まだ効果の強いものになるし暑さに体を慣らしながらゆっくりと進んでいくことにする。
「何が原因でこんなところ生まれたのかしらね」
ムダと分かっていてもパタパタと手で顔を扇ぐテユノ。
暑い空気が動くだけで起こる風に涼しさもない。
テユノの疑問はもっともだ。
それが知りたくてリュードもここに来たのだけどちょっとした事件が起きてしまったので調べる時間もない。
過酷な環境であることが分かっただけよしとしよう。
こんな風に周りの環境を変えてしまうなんて神物の存在があるのではと疑ってしまう。
「こう……すんごい火の化け物とかいるんじゃない?」
「そうかもしれないけど……葉っぱを不思議な火に変えちゃうなんてとんだ化け物ね」
「そうだね〜。
ていうかそもそもこれ元々本当に葉っぱだったのかな?」
「そうらしいわよ」
このヒュルヒルは実は年々拡大を続けている。
拡大といってもほんの少しずつであるが何十年も前はもう少しヒュルヒルの境界はジャンディゴから遠かったらしい。
そしてヒュルヒルの境界の外には燃えていない木も生えている。
暑さのために枯れてしまっているがもう少しジャンディゴから離れると緑の葉を付けた木があって、はるか昔は今の境界付近も緑の葉が生えた木があったらしい。
「その上ここにも魔物が出るんでしょ?
ほんととんでもない場所よね」
「と、言ってたら出てきたぞ」
燃え盛る木々の間から魔物が近づいてきた。
四足歩行のケモノ系の魔物で体格的にはウルフなどと同系。
だけど毛は生えておらず皮膚は赤黒い色をしている。
おそらくウルフ系統の亜種に当たるものでこの環境に適応するように進化をしたのだろう。
ヒュルヒルでは一般的な魔物であるファイヤースキンウルフである。
「うー!
動きたくない!」
ルフォンが嫌そうな顔をしてナイフを抜く。
分厚い手袋をしているのでナイフも持ちにくい。
動くと体が熱くなってしまうので動きたくないが魔物相手にそうも言ってられない。
「ルフォンはコユキとロセアを頼む。
ラスト、テユノ、行くぞ!」
「任せて!
お世話になってる分働くから!」
特にルフォンが暑さに弱いことは分かっている。
だからルフォンには戦えないコユキとロセアを任せて控えてもらい、ついでに新メンバーでもあり近距離戦闘の出来るテユノの腕も確かめる。
煌めく白い槍を手にテユノが前に出る。
ウルフがテユノに飛びかかるがテユノは素早くさらに前に出る。
テユノとウルフがすれ違って一瞬交差する。
ズバッと切り裂かれたウルフが力なく地面に激突して転がる。
鋭い一撃。
テユノが遊んでいたのではなく厳しく鍛錬を積み重ねてきたことがよくわかる。
前に出たテユノにウルフたちが襲い掛かるがテユノの相手にはならない。
しなやかで伸びやか。
槍のリーチを生かした距離での戦いもやや短めな槍の特性を活かしてより接近した戦いも見事にこなしている。
自在に戦う距離を変えるのでウルフも距離を測りかねている。
それでいながらラストの位置や狙いも確認してたち振る舞っている。
「はい、終わり!」
まるで踊りでも披露したように戦いを終えたテユノ。
弱っていたと言ってもルーミオラを倒したというのもようやく納得できた。
「強くなったな」
出番のほとんどなかったリュードがテユノに声をかける。
「本当?
リュードにそう言ってもらえると嬉しいね」
照れ臭そうに笑うテユノ。
村にいた時もみんな強くなったと褒めてくれたけどリュードに言われるとやっぱり一味違う。
「でもだからって女の子ばかりに戦わせないであんたも戦いなさいよ」
「こら、槍先でつつこうとするな!」
テユノが戦い、ラストがフォローするだけで十分で出る幕がなかったのだからしょうがない。
えいと槍でリュードをつつこうとするので慌ててそれをかわす。
村で別れた時でもテユノは強かったけれどどこか硬い感じはあった。
それがなくなって周りと共に戦う柔らかさを身につけていた。




