ウォークアの子1
入ってすぐのところではあるけど一晩過ごしても魔物に襲われることはなかった。
朝もいただくのはマーマン料理。
一回食べれば諦めというか、抵抗も少なくなる。
味は良いから元の姿をあまり思い描かなきゃそんなに食べられないものじゃない。
少し朝の間に議論はあった。
このまま進むべきか、戻るべきか。
あくまで今回の目的は調査でありこれ以上進めば調査に留まらないことになる。
けれどここまで来て帰るのも中途半端である。
聖域とされる場所にあるお城に足を踏み込んだので水神信仰の人が怖気付いてしまっていることも理由である。
「行く。
やる」
「まあコユキちゃんが行くなら……」
「コユキちゃんを置いていけないな」
最終的には鶴の一声ならぬコユキの一声だった。
リュードが行くならコユキも行く。
そしてコユキが行くならコユキを守るためにみんなも行く。
下手するとウォークアより信仰を集めているんじゃないかと思える。
調査を続けることになったので本格的に城の中を捜索していくことにした。
ウォークアの話によると今現在この城にはウォークアの配下であるウンディーネとウォークアに敵対する神の勢力の配下がいるはずである。
ウンディーネとは上級の水の精霊だ。
「正門、ここを北として南西の方向に進みましょう」
さて城の中を調査することにはしたがなんの手がかりもない。
闇雲に歩き回るのも危険が伴うし時間がかかる。
城を隅々まで歩いて回るにしてもどこから行くべきかの指針が欲しいとみんな悩んでいた。
そこでリュードの提案。
「なんでそこを目指すの?」
ルフォンがその意図がわからなくて首を傾げる。
その場にいる誰もリュードがそう提案した理由を分かっていない。
「外から見た時に1番強く水が噴き出していたところだったからだよ」
リュードとてウォークアからも聞かされていないので手かがりはない。
ほんの少しの違いからとりあえずそこが1番可能性がありそうだと思った。
その違いとは城から噴き出る水である。
ミルトによると城からはもっと水が出ていたという。
つまり水が勢いよく噴き出ているのが通常でありそれに1番近い状態のところが1番異常が少ない場所なのではないかと思った。
それにリュードの持つ情報を掛け合わせるとウンディーネがいる場所の可能性があると予想したのである。
「正常に近いなら異常が少なく危険も低いはずだ。
どうせ他に判断の材料もないのだから試しにどうだ」
「悪くない考えだと思います」
ミルトもうなずく。
この状況では最もらしい考え。
同じく城の様子を見たはずなのにそのような考えに思い至らない自分が恥ずかしく思える。
外から見た時の水の量の違いと聞いて他の人も納得する。
行動する理由としても一定の説得力があった。
他に提案できる考えもないのでリュードの提案通りのところに向かってみることにした。
「なんだかダンジョンみたいな雰囲気あるね」
床や壁はうっすら濡れていて普通の城というにはかなり巨大。
人が住んでいるような気配はないのに痛んだ様子もなく綺麗な中。
窓はなく光が入ってこないが天井には魔力で光る魔光石が埋め込まれていて明るく視界の確保には困らない。
一般の城でこんなに魔光石を埋め込もうと思ったら莫大な費用がかかる。
それに城全体に漂う雰囲気。
ルフォンの考えとリュードも同じ印象を受けていた。
「まあこんなところにこんな城建てる物好きはいないからあながちそうなのかもな」
ダンジョン城。
そんなことあり得ないなんて言葉を吐ける場合の方がこの世界においては少ない。
どんなにあり得なさそうな出来事や事象であってもこの世界では起こり得る可能性がある。
常識に囚われて考えると痛い目見ることもあるのだ。
この場所には神様が関わっている。
そうなってくると摩訶不思議なことが起こり得る可能性が高まるので荒唐無稽な考えのような見えても否定し切れたものじゃない。
神様が神の力で作ったとか、実は元ダンジョンだったとか可能性はいくらでもある。
途中で現れるマーマンを倒しながら先に進む。
「あれは……魔種のリザードマンだな」
この調子でマーマンが相手なら簡単に事は片付きそうだなんて思っていたらマーマンとは別の姿が見えた。
二足歩行の人型のトカゲに姿をしているリザードマンと呼ばれる魔物だ。
魔人族の中には亜人と呼ばれる存在がいる。
それは魔人と魔物の境界線上に立つ種族のことでその代表例がリザードマンなのである。
魔人化した竜人族にも素人目には近いような姿をしているリザードマンはある程度の知能を持っている。
リザードマンの中には蜥蜴人族と呼ばれる呼ばれるグループもある。
蜥蜴人族は一般に人とされ、リザードマンは魔物とされる。
さらに人とされる蜥蜴人族は賢種、魔物とされるリザードマンは魔種と言われている。
同じ種族なのに何がそれを分けるのか。
それは人との交流があるかどうかである。
その知能の高さを生かして他の人の種族を襲わずに交流を持って文化的な生活を送り平和的に暮らしていること。
多少曖昧な基準だが同じ種族であってそこを分ける差がリザードマン自身の気の持ちようだから仕方ない。
こうした魔物との境目が微妙なところも竜人族がリザードマンと比較されるのを嫌がる理由の1つでもある。
そうなると先に見えるのが人に友好的な蜥蜴人族なのか人に敵対的なリザードマンなのか問題があるがリュードはリザードマンだと読んだ。
理由はちゃんとした服を着ていないから。
賢種の蜥蜴人族は人の生活を送っているので服を着ていることがほとんど。
さらに魔種のリザードマンと間違われないように赤い布を体のどこかに身につけていることが多い。
真っ裸でうろついているのはリザードマンの方なのである。
ちなみに竜人族は蜥蜴人族と比較されることを嫌がるが賢種の蜥蜴人族にとって竜人族は憧れの存在らしい。
下手すると人と認められるほどの知能があるリザードマンは楽な相手ではない。
マーマンと同じように戦うと痛い目を見ることだろう。
「……俺が戦ってもいいか?」
実は初リザードマンなリュード。
竜人族としては意外と良くリザードマンの名前を聞く。
子供の冗談とか竜人族同士の煽り文句とかで聞くことがあるのだけど実際に生リザードマンを見たことはなかった。
本物のリザードマンがどんなものなのか気になった。
他のみんなは一瞬不思議そうな顔をした。
リュードが竜人族でリザードマンに対して興味を持っているなど知らないから。
けれどリュードの実力が高いことは道中の動きで分かっているので許可は出た。
「コユキも応援頼むぞ」
「分かった。
ケガダメ!」
「もちろんだ」
リザードマン相手に怪我させられたなんて知られたら村に一生入れてもらえないかもしれない。
「それじゃいくか!」
リザードマンは3体。
リュードもルフォンとラスト共に3人で挑む。
飛び出すリュードの後ろからラストが矢を放つ。
気付くのが遅れたリザードマンの目に矢が突き刺さって甲高い悲鳴をあげる。
目に刺さった矢を抜こうと掴むが引き抜くことも出来ずにリュードがリザードマンの首を刎ねる。
状況は分かっていないけれど敵だとリザードマンはリュードに剣を振り下ろす。
リュードはそれを軽くかわすと大きく音を出すようにして足を踏み出した。
リザードマンはびくりと防御するがリュードは剣を振らなかった。
しかしリザードマンの視界はグルリと逆さになった。
リュードは足を踏み出しただけで攻撃していないのに。
何が起きたのか分からないままにリザードマンの意識はブラックアウトした。
リザードマンの首を切り落としたのはルフォンだった。
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