伝えられぬ思い1
村での残り少ない日常を満喫しているとラッツが武器ができたと呼びに来た。
村の工房に行ってみるとなぜなのかルフォンも呼ばれていたらしく一足先に工房にいた。
それぞれ出来上がったらそれぞれ呼べばよいものをなぜかセット扱いで呼ばれたのである。
「まあ、いいじゃねえか。ほれ、これがルフォンのナイフだ」
疑問を口にするとラッツの親父に笑い飛ばされる。
そして何事もなかったようにテーブルの上に置いていた2本のナイフをルフォンに渡した。
魔物の丈夫な革で作られた鞘に収められているナイフをするりとルフォンが抜いてみせた。
「わぁ……」
思わずルフォンから声が漏れる。
「どうよ。ルフォンのはあんまり重すぎてもいけねえから刃の部分だけ黒重鉄を使って切れ味と軽さの両立を目指した。
造形的にも美しくなったと思う」
「うん、キレイだし……重さもちょうどいいよ」
ナイフを軽く振ってみる。意匠のこだわりは何もナイフの刃だけではない。
手の大きさや握り方も見て柄もしっかりと作り込んでいる。
長年使っているかのように手に馴染み重さも重すぎることもなく、かといって軽すぎることもない。
ナイフの刃以外のところにも少し黒重鉄が使われているのか全体的にやや暗い色合いだけれど刃が真っ黒なためにコントラストが際立っていて気にならない。
ルフォンがニンマリと笑い嬉しそうにナイフを振る姿を見てラッツの親父が満足そうにうなずく。
「じゃあ次はシューナリュードだな」
ラッツの親父がナイフの横に置いてあった剣を手に取り、リュードに渡す。
こちらも魔物の革で作られた鞘に納められていて剣の状態は見えない。
剣の長さは普通の剣と変わらない。
しかし受け取ってみるとその違いをすぐに感じた。
剣を抜いてみる。見える剣の根元からもうリュードをゾクゾクとさせるに足る雰囲気がある。
鞘から抜いた剣の剣身は根本から先端まで真っ黒であった。
黒重鉄をふんだんに使ったラッツの親父渾身の一振り。
暗闇を切り取ったかのような剣は非常に男心をくすぐる見た目をしている。
「どぉーよ、俺の最高傑作。
まるでシューナリュード、お前みたいだろ」
「確かに!」
自慢げに言うラッツの親父の言葉にルフォンが同意する。
剣の色に合わせてなのか柄も黒く、髪や瞳の黒いリュードのようだと言われれば確かにそのように見ることもできる。
「切れ味も抜群だし、ちょっとやそっとじゃ悪くなることもない。
まあ、しかし……」
言い淀むラッツの親父が何を言いたいのかはこの剣を持った瞬間から分かっていた。
手にかかる重さは通常の剣よりもはるかに重たい。
黒重鉄をふんだんに使っているということはその分重いということである。
「これが大きめに作られた剣だったら少しつらかったかもしれないけどこれぐらいならむしろいい感じだ」
リュードは竜人族でも力の強い方だ。
日頃から鍛えてもいるし重いとは言っても扱えない重さではない。
いつもなら大きめの剣だから重たい武器を扱っているので普通の剣のサイズで重たい武器を扱うのは初めてで、慣れることが必要にはなる。
試しに振り回してみても問題はなさそうなので慣れるのも難しくはないだろう。
これで使ってみて重すぎて振れないなら今一度体を鍛え直すだけである。
「武器の不満はなさそうだから後は使ってみて調整して欲しけりゃ言ってくれ。
あと1つ、2人に言っておかにゃならんことがある」
急に真面目な顔になるラッツの親父。
「なんですか?」
「黒重鉄の武器は丈夫だし、簡単な手入れが出来る様に砥石も渡しておくが、やっぱりちゃんとした手入れってもんはそのうちに必要になる。
しかしだ、この金属を扱う真人族は少ない。
だから手入れできる奴にも限りがある。
旅に出るってなら黒重鉄を扱える職人を常に探しておくことだ。
たとえ短い間隔で見つけたとしても、その都度武器を見てもらえ」
黒重鉄は扱いが難しいし真人族はほとんど扱わない。
なのでできる範囲でのメンテナンスは自分で行う必要があり、道中黒重鉄の武器を扱える職人を見つけることが大切になってくる。
「念のためだ、普通の武器も作ったから持っていけ」
ラッツの親父の忠告に大人しくうなずく。
当然武器は身を守るために大事なもので何か不具合が起きたら大変なことになる。
職人探しの必要がある。
なかなかハードルが高いなとリュードは思う。
いくら黒重鉄の武器を作っているからといってずいぶんと時間がかかるなと思っていたがなんと同形の武器を普通の鉄で作ってくれていたのだ。
そちらも持ってみるとやはり重さの違いというものは明らかである。
どちらの重さの武器であっても完璧に戦えるようにしておかなければいけない。
あとは頼んでいた防具を受け取って旅に出る準備は整ったと言ってもよかった。
行商まで残り時間は少ない。リュードはポーションや薬を作って貯めておき、仲の良かったやつに挨拶に行ったりしていた。
「私と戦いなさい!」
仲が良いかと聞かれるとちょっと微妙なところだが何かと突っかかってくることもあり、意外と会話することも多かったテユノ。
戻ってきた時に力比べの女王にもなっているかもしれないし挨拶ぐらいはしておこうと考えていたのに狭い村でどうしてなのか中々テユノに会うことができなかった。
あと数日。もう少しで出発の日になるという時、いつものように鍛錬していたリュードの前にテユノが現れた。
短槍をリュードを向け、勝負するように告げた。
テユノの宣戦布告を聞いたメーリエッヒやお隣さん一家が何事かと顔を覗かせる。
「覚悟!」
リュードが戦うことを承諾していないのにテユノはリュードにかかっていった。
リュードはテユノの突きを剣の腹で受ける。
今は慣れるためにたまたま黒重鉄の剣、名前をシュビナス、を手に持っていた。
互いに引かず、押し合う最中テユノは少しずつ腕をたたみ前に出ながら体を槍に近づける。
「はあっ!」
テユノが体を回転させてリュードの側面に回り込みながら石突でリュードの頭を狙う。
押し合っていたリュードはわずかに体勢が流れるが回避に問題はなく、頭を下げて槍をかわす。
すぐさま槍を切り上げるもグッと足に力を入れてバク転して回避すると同時に距離をとる。
剣などの武器よりも間合いを取って戦い、距離を詰められることを嫌うのが普通の槍使いというものだがテユノは少し他とは違う。
持っている武器は一般の物よりも短くロングレンジとしての優位さは幾分か損なわれているが長槍よりも取り回ししやすい。
その上テユノは槍を使って杖術や棒術のようにも戦う。
近距離戦闘もお手の物であるのだ。
しかしリュードの武器は剣なので戦う距離は近い方がよかったがテユノのペースに巻き込まれすぎた。
できるなら即断即決で勝負を決めるつもりだったテユノは内心舌打ちしたい気持ちだった。
よく見ている。急に戦いを仕掛けたのにリュードは上手くテユノの攻撃を対処してみせた。
「いきなりだな」
「ふん、これぐらいかわせなくて村の外でやっていけるわけないでしょ」
まあ一理ある。いきなり襲撃されることはないなんて考える方が危険である。
だからと言って奇襲する理由にはならない。
「まあいい、戦いを始めたのはそっちだからな!」
相手は女性なので乗り気ではないが村でも腕が立つ方に入るテユノである。
気を抜いて戦えばあっという間にやられてしまう。
槍先はリュードを捉えている。
短槍といえど間合いはリュードの剣よりも広い。
リュードが接近すると先に攻撃するのは当然テユノ。素早く鋭い突き。
防ぎながら無理やりリュードの間合いにしようとする。
しかしテユノも棒立ちで槍をついているのではない。
距離をとりながら槍を突き、一方的に攻撃を加えている。
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